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「日米首脳会談 対中国で同盟強化どこまで進む」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

アメリカを訪れている菅総理大臣は、まもなく初めての日米首脳会談に臨むことになっています。中国との関係を21世紀最大の試練と位置付けるバイデン大統領は、ホワイトハウスに招く初めての外国首脳に菅総理大臣を選びました。会談では、対中国戦略をすり合わせるものとみられ、きょうは、安全保障面で同盟強化がどこまで進むのか、会談の行方について考えてみたいと思います。

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(「大国間競争」の中での日米首脳会談)

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バイデン大統領は、政権発足2か月で、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2を東京で開いたのに続き、対面による初めての首脳会談に菅総理大臣を選びました。日本を重視する姿勢が際立っていますが、その狙いは中国への対抗にあります。
バイデン大統領は、先月(3月)、中国との関係について、「民主主義と専制主義との闘い」と述べ、体制間の争いであると定義づけました。そして、習近平国家主席を「民主主義の小骨すら、その体にない」と評しました。
アメリカが日本を重視する背景には、最前線に位置する日本の重要性が増していることがありそうです。

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ただ、政府関係者は、アメリカには、唯一の超大国であったかつての余裕はないと指摘します。経済規模でみれば、中国はすでにアメリカの7割近くに迫っており、7年後の2028年には、逆転するという試算もあります。強い危機感の中で、アメリカは、「日本を『戦略上のパートナー』として、安全保障から経済まで、幅広い分野で責任を分担しようとしている」というのです。

【会談の焦点① 安全保障】
菅総理大臣は、今回の会談で、普遍的な価値で結ばれた日米同盟をさらに強固なものにしたいとしています。

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会談の主なテーマは、安全保障、経済安全保障、北朝鮮による拉致問題、気候変動対策、新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題などとみられていて、会談後に共同声明を出す方向で、調整が進められています。
このうち、安全保障と経済安全保障についてみていこうと思います。

安全保障で焦点になるとみられるのは、(A)中国の現状変更の試みへの対応、(B)崩れる軍事バランスへの対応、(C)台湾情勢です。

〈(A)現状変更の試みへの対応〉

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まず、現状変更への試みについてです。
東シナ海や南シナ海で、中国の海洋進出の動きがエスカレートしています。けん制のため、首脳レベルでも、中国の動きを、民主主義や法の支配に対する挑戦ととらえるなど、中国を名指しして、強いメッセージを出すのか、注目されます。この中で、菅総理大臣は、▼尖閣諸島が、日米安保条約第5条の適用対象であることの確認を求めるとともに、▼中国の海警局に武器の使用を認める「海警法」が国際法に反する恐れがあるなどとして、問題点を指摘するものとみられます。

〈(B)崩れる軍事バランスへの対応〉

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会談では、太平洋地域の安全保障環境についても、話し合われる見通しです。
先月(3月)、アメリカのインド太平洋軍司令官が、アメリカ議会で証言し、「地域の軍事バランスはアメリカと同盟国にとって不利に傾いている」と述べ、波紋を広げました。
アメリカ軍によりますと、4年後の2025年の段階で、アメリカのインド太平洋軍の戦力は、主力戦闘機や戦闘艦艇の数で、中国軍に大きく劣るとしています。
また、在日アメリカ軍を射程に収めるミサイルを中国は大量に保有していますが、アメリカは、これまでロシアとのINF条約によって、中距離の地上発射型のミサイルは、1発も保有していません。

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地域の軍事バランスの崩れは、中国の拡張主義的な動きを誘発すると指摘されていることから、対応が話し合われるものとみられ、日米に、オーストラリアとインドを加えた4か国による枠組みや、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国との連携強化を確認するものとみられます。
さらに、同盟国に公平な負担を求めるとしているバイデン大統領が、会談で日本にどのような期待を示すのか。日本にとっては、防衛費の増額やミサイル阻止能力などにつながる可能性もあるだけに、菅総理大臣は、日本の果たせる役割について、明確に伝える必要があります。

〈(C)台湾情勢への対応〉
安全保障分野で、もっとも関心を集めているのは、首脳レベルで、台湾情勢をめぐるメッセージを出すかどうかです。

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先の外務・防衛の閣僚協議では、文書に、「台湾海峡の平和と安定の重要性」が盛り込まれました。外務省幹部によりますと、中国は、これに「激怒」したということです。台湾情勢が首脳レベルの文書で触れられたことは、日中国交正常化以降はなく、今回、共同声明に台湾情勢の記述が盛り込まれれば、中国が強く反発するのは確実です。

なぜ、台湾情勢が日米で話し合われる見通しとなっているのでしょうか。
それは、軍事バランスが崩れる中で、台湾が米中の衝突の発火点になる恐れが指摘され、そうなれば日本への影響も避けられないからです。

日米双方とも、中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる台湾有事がただちにあるわけではないという見方が大勢ですが、アメリカ軍の幹部は、先月(3月)、アメリカ議会で、台湾有事の時期は「想定よりずっと近い」と証言し、懸念を示しています。

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アメリカは、台湾関係法で、平和的な方法によらない解決に反対する姿勢を明確にしていますが、防衛義務までは負っていません。しかし、アメリカ軍の幹部は、議会で、「台湾侵攻を許せば、地域でのアメリカの信頼に深刻なダメージになる」と述べました。複数の日本政府関係者は、有事になれば、アメリカは介入するという見方を示しています。
一方、中国の習主席は、2019年の演説で、平和統一を目指すのが基本としながら、「武力行使を放棄することはしない」と述べました。
米中両国が一歩も引かない中、去年以降、中国軍は、台湾周辺で有事を想定した大規模な軍事演習を頻繁に行い、緊張した状態が続いています。

そしてなにより、台湾有事は、日本への影響が懸念されています。仮にアメリカが介入すれば、在日アメリカ軍基地を使おうとするとみられています。
2017年にアメリカのシンクタンクが公表した、中国のミサイル戦力に関するリポートによりますと、中国軍は、横須賀基地など、在日アメリカ軍基地を模した実物大の標的を西部の砂漠地帯に作り、ミサイルの発射実験を行ったということです。

政府関係者は、今回の会談で、両首脳は、台湾情勢について、相当突っ込んだ話をするだろうとしています。日本は、中国の動きをけん制したいものの、過度な緊張や、日中関係の決定的な悪化は避けたいところです。両首脳は、けん制の効果を見極めて、対外的なメッセージを出すか、対応を決めるものとみられます。

【会談の焦点② 経済安全保障】
もう1つの焦点は経済安全保障です。この分野でも米中の対立は激しくなっています。

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アメリカは、中国への依存がリスクとなる先端分野などで中国との切り離しを進めており、バイデン大統領は、ことし2月、大統領令で、供給網の見直しに着手しました。
中国も、習近平国家主席が、去年4月、中長期の経済戦略について見解を示し、「ほかの国が、中国の産業に依存するようひきつけ、経済の切り離しの動きに反撃力と抑止力を持つことを目指す」と述べ、他国を中国の供給網に依存させ、アメリカに対抗しようとしています。

こうした中、首脳会談では、半導体などの供給網の構築や、AI、人工知能などの先端技術の開発などで、日米の連携を話し合うものとみられています。

(まとめ)
今回の日米首脳会談は、アメリカが、同盟国と連携しながら、中国との大国間競争を勝ち抜こうとする流れで開かれます。バイデン大統領の同盟国重視の姿勢は、とりもなおさず、同盟国に、より大きな責任を求めることを意味します。
ただ、アメリカも、気候変動分野などでは、中国と協力する考えを示しています。日本も、中国との安定的な関係を重視しています。
会談で、菅総理大臣には、日米の連携をどこまで進め、どのような役割を担おうとするのか。日本の立場を明確に示すことが求められています。

(梶原 崇幹 解説委員)

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