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「中国の接近 中東が変わる?」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

中国が、中東の国々と関係を強化しています。先月下旬、王毅外相が、サウジアラビアやイランなど6か国を相次いで訪問。このうち、イランでは、今後25年にわたって、経済や安全保障など幅広い分野で協力を進める計画に署名しました。背景には、欧米と対立を深める中国のしたたかな外交戦略があり、今後の中東情勢、たとえば、今、開かれている「イラン核合意」の復活をめざす協議の行方を左右する可能性もあります。中国の中東外交について考えます。

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■中国の王毅外相は、先月24日から30日まで、ペルシャ湾岸の国を中心に、6か国を訪問しました。

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▼最初の訪問国サウジアラビアでは、国の実権を握るムハンマド皇太子とも会談しました。サウジアラビア政府は詳細を公表していませんが、中国政府によりますと、ムハンマド皇太子は、香港や新疆ウイグル自治区の問題で、中国政府の立場を支持する考えを示し、両者は、他の国の内政干渉に反対することで一致したということです。

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背景には、何があるのでしょうか。王毅外相の訪問は、中国が、新疆ウイグル自治区での人権問題で、アメリカやEU・ヨーロッパ連合の非難を浴び、制裁をかけられた直後でした。
一方のムハンマド皇太子も、アメリカやヨーロッパ諸国の厳しい視線にさらされています。隣国のイエメンの内戦に軍事介入し、「世界最悪の人道危機」と呼ばれる状況を招いたことや、3年前、政権を批判したジャーナリスト、カショギ氏が、トルコ国内で、サウジアラビアの情報機関のメンバーらに殺害された事件の責任を問われているのです。バイデン大統領は、就任早々、サウジアラビアへの武器の輸出を停止するなど、ムハンマド皇太子を特別に重んじたトランプ前政権の政策を見直しています。
中国とサウジアラビアは、人権問題を重視するバイデン政権による政策の転換に、連携して対応しようとしているのです。
また、両国は、エネルギーや情報通信などの分野で協力を深めることでも一致しました。「一帯一路」と呼ぶ巨大な経済圏をつくる構想を進める中国にとって、サウジアラビアは、最大の原油輸入元です。これに対し、ムハンマド皇太子の主導により、2030年を目標に「脱石油」の経済を実現する改革、「ビジョン2030」を進めるサウジアラビアは、中国からの投資や技術協力を頼りにしています。両国の関係強化には、経済的な意味合いも大きいのです。

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▼2つ目の訪問国トルコでは、両国が、インフラ整備や投資などで協力を深めることで一致しました。そのトルコには、中国の新疆ウイグル自治区から逃れた数万人の人々が暮らしていて、王外相の訪問に合わせ、各地で抗議集会を開きました。トルコとウイグルは、言語や宗教など民族的に近く、トルコのエルドアン大統領は、以前、亡命してきたウイグルの人々を保護し、中国の対応を厳しく批判していましたが、今回、王外相との会談では、中国への非難を控えました。その背景には、悪化したトルコ経済を立て直すため、中国の投資が必要なこと。新型コロナウイルス対策で、中国製のワクチンに頼らざるを得ない事情があると見られます。また、エルドアン大統領自身も、国内の反対派や少数民族のクルド人を弾圧しているとして、欧米諸国から批判されています。

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▼そして、最も注目されたのが、3つ目の訪問国イランです。王外相は、ザリーフ外相との会談で、両国が今後25年にわたって、経済、エネルギー、政治、安全保障、インフラ整備、情報通信など広い分野で協力を進めてゆくことを謳った「包括的協力計画」に署名しました。その詳しい内容は公表されていませんが、中国は、イランのエネルギー部門やインフラ整備に、総額4000億ドル、日本円でおよそ44兆円を投資する。かわりに、イランは、中国に対し、原油を市場価格よりも安く輸出することなどが盛り込まれていると報道されています。
イランにとって中国は、最大の貿易相手国で、原油の輸出先であるのに対し、中国にとってイランは、重要な原油の輸入元、そして、中国製品の市場であり、まさに、「ウィンウィン」の関係です。
とくに、アメリカの制裁によって、国家収入の柱とも言える原油の輸出ができなくなっていたイランにとって、今回の「協力計画」は、まさに「渡りに船」です。計画には、兵器を共同開発することなど、軍事面の協力も含まれると伝えられ、バイデン大統領は、アメリカと対立するイランと中国が、こうした協力関係を結ぶことに、強い懸念を示しています。

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王外相は、ロウハニ大統領とも会談し、アメリカによる制裁とイランによる合意違反の応酬で、存続が危ぶまれている「イラン核合意」について話し合いました。この中で、王外相は、「中国は一貫して核合意を支持しており、アメリカによる制裁には反対する」と強調したうえで、核合意を復活させるためには、まず、アメリカが制裁を解除すべきだとするイランの主張を全面的に支持する姿勢を示しました。
バイデン大統領は、核合意に復帰する考えを表明しているものの、そのためには、まず、イランが、核合意への違反行為をやめて、完全に守ることが前提だと主張し、平行線が続いています。
そして、核合意の復活をめざす関係国の協議が、6日、日本時間の今夜、オーストリアのウイーンで始まりました。アメリカとイラン、双方の代表が参加するのは、アメリカが3年前に核合意から離脱して以来、初めてのことです。
双方が直接顔を合わせる協議は予定されず、仲介役のEUを通した間接的な話し合いとなりますが、事態打開の糸口になるかどうか、たいへん注目されます。

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核合意に署名した主要6か国のうち、イギリス、フランス、ドイツは、中立的な姿勢です。そして、中国が、ロシアとともに、イランの主張を明確に支持しています。中国との「包括的協力計画」という多額の投資や原油輸出の機会、いわば、アメリカの制裁を〝無力化”する武器を得たイランは、これまでよりも、強い姿勢で協議に臨むものと見られます。バイデン政権が核合意に復帰するのは、いっそう難しくなったという見方が出ています。

■今、中国は、アメリカが中東地域への関与を減らしている空白を埋める形で、この地域への影響力を拡大しています。その目標と戦略は、次のようなものです。

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▼人権問題などをめぐって中国への批判を強めるアメリカや同盟国による「中国包囲網」に対抗する。▼エネルギー資源を確保し、貿易や投資など経済協力を進める。▼独自に開発した新型コロナウイルスのワクチンを各国に提供し、影響力を強める。そして、▼サウジアラビアとイランのように、互いに対立する国々の双方と「二国間関係」を積み重ねるやり方です。
ただし、この中国の外交は、ひたすら自国の利益を追い求めるもので、中東全体の平和と安定を目指そうという意思は窺えません。この地域が抱える、さまざまな紛争を解決するのは、ますます難しくなると考えられます。
イランの核開発問題が解決されず、ペルシャ湾岸の緊張が長期にわたって続けば、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本は、大きなリスクを抱えることになります。そうした観点からも、中国による外交攻勢が、中東地域のパワーバランスやエネルギー需給にどんな影響をもたらすかを、注意深く観察する必要があると思います。

(出川 展恒 解説委員)

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