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「日銀短観 進む二極化 この先は?」(時論公論)

今井 純子  解説委員

日本経済の現状について、企業の中でも、製造業と非製造業、また、業種によっても、判断が大きく分かれ、二極化が進んでいることが、日銀の短観で確認されました。大阪府や宮城県などに「まん延防止等重点措置」が適用されることで、この二極化は、しばらく続く心配があります。経済全体の力強い回復、そして、働く人の雇用や賃金の二極化を食い止めるには、どうしたらいいのでしょうか。この問題について考えてみたいと思います。

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【短観から見える二極化】
(短観の推移)
日銀の短観は、国内の企業およそ9500社に、3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査です。景気が「よい」と答えた企業の割合から、「悪い」と答えた企業の割合を引いた、この指数は、黄色い線より上に行けばいくほど、「景気がよい」。下に行けばいくほど、「景気が悪い」と考えている企業が多いことを示します。
▼ 「大企業の製造業」は、去年春。1回目の緊急事態宣言で大きく落ち込んだ後、改善が続いていました。そして、今回の調査でも、プラス5ポイントと、3か月前より15ポイント改善し、おととし9月のコロナ前の水準まで回復しました。
▼ 一方、青い線の「大企業の非製造業」は、今回、マイナス1ポイントと、4ポイントの小幅な改善にとどまりました。

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(業種によって二極化)
内訳を見てみますと、製造業では、
▼ 自動車や電気機械をはじめ、幅広い業種で改善の傾向が続きました。
一方、非製造業は、
▼ ソフトウェア開発をはじめとする情報サービスが好調でしたが、
▼ 旅行業や遊園地などの対個人サービスは、マイナス51ポイント、
▼ 宿泊・飲食サービスも、マイナス81ポイントと、
いずれも大幅に悪化して、歴史的な低い水準まで逆戻りしました。
この宿泊・飲食サービスのマイナス81ポイントというのは、ほとんどの企業が、景気が悪いと答えたことを示す厳しい水準で、製造業と非製造業。また、非製造業の中でも、業種によって二極化が進んでいることがわかります。

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【全体的には回復傾向】
それでも、今回の調査が、2度目の緊急事態宣言の最中に行われたのに、全体的には、改善の傾向がみられた。
(背景は)
その背景には、自粛の要請が外食の営業短縮など、一部に限られたことに加えて、
▼ 中国向けの輸出が8カ月連続で増えているほか、アメリカで200兆円規模の巨額の追加の経済対策が成立するなど、海外の経済が回復していること。
▼ そして、円安の追い風が吹いていること。
▼ また、国内でも、テレワークで自宅で過ごす人が増えたり、小中学生へのパソコンなどの配備が進んだりしている影響で、家電製品などの売り上げが好調なこと。
こういった点があげられます。業績が堅調な企業の間では、春闘で賃金を引き上げる動きも続きました。
▼ さらに、今月から高齢者へのワクチンの接種が始まることで、コロナの感染が落ちついてくれば、外出する人が増え、消費が活発になるのではないか、という期待もあるとみられます。

(景気は、回復局面か)
▼ 短観の結果を見ても、景気は、全体では底を打った。方向としては、少しずつ回復に向かっているというのが多くの経済の専門家の見方です。

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【二極化でおいていかれる業種・人たちも】
しかし、コロナの打撃が集中している、飲食、旅行・ホテル、アパレル、運輸などの産業をめぐっては、この先についても不安が広がっています。
▼ 大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が適用されるなど、各地で感染が再び拡大していることを受けて、外出の自粛や飲食店の時短要請を延長したり、拡大したりする動きが広がっているほか、
▼ 東京オリンピック、パラリンピックで海外からの観客の受け入れを断念したこともあり、外国人観光客向けの需要が、元の水準に戻るのは、当面期待できない。数年先になるのではないか。
▼ さらに、テレワークやウェブ会議の定着で、コロナが終息した後も、通勤客や出張に行く人が減り、鉄道や飛行機の利用者、それに、スーツなどの需要は元には戻らない。そこで働く人の雇用も、コロナが終息しても元には戻らないのではないかといった、厳しい見方も広がっています。

(倒産や希望退職の加速)
外食が宅配事業に乗り出したり、航空会社がドローンなどを使った物流事業に乗り出したりするなど、企業は、生き残りのため新事業の育成に力を入れていますが、これには時間がかかります。これまでは、政府の手厚い雇用調整助成金をもらって雇用を守ったり、会社に在籍させたまま一時的に雇用が不足している企業に社員を出向させたりと、なんとか雇用を支えてきました。それでも、
▼ コロナの影響で倒産した企業は、2月、3月と、2か月連続で、月間で最も多い件数を更新していますし、
▼ 希望退職を募る動きも、今年に入って、すでに41社。募集人数は、9500人を超え、去年の同じ時期の2倍のペースで増えています。
先行きに光が見えない厳しい状況がさらに長引くことで、支えきれずに、雇用を減らす動きが加速するのではないか、という懸念がでています。それでは、雇用や賃金の二極化が広がることになりかねません。

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【課題】
ではどうしたらいいのでしょうか。
(伸びる分野も)
一歩引いて世界を見渡すと、この間、「社会のデジタル化」そして「脱炭素社会を目指す動き」が加速しています。この分野で、取り組みが遅れていることが、日本の潜在的な成長率=経済の実力の低さにつながっているという指摘もあります。
今後、大量のデータを活用して、これまでにない新しい製品、新しいサービスを生み出すことが、社会全体に求められています。ですが、国内では、専門的な知識や技術をもった高度な技術者だけでなく、デジタル技術を使って新たな事業を企画したり、デジタル技術を使って営業・販売、事務、そしてメンテナンスをしたりする。といった、幅広い意味での「デジタル人材」が圧倒的に不足しています。

(人の移動を)
雇用や賃金の二極化を食い止めるには、少し長い目で見て需要が元に戻らない分野から、こうした伸びる分野に人材を移していくことが欠かせないのではないでしょうか。これまでデジタル分野と縁がなかった人でも、デジタル人材として働くことができるよう、新たな取り組みも始まっています。例えば、
▼ NTTとKDDIは、共同で、コロナの影響で仕事を失った人など、幅広く50歳未満の人を対象に、無料で、オンライン会議の操作など基礎的なデジタル技術の研修を行い。
▼ その上で、人数を絞って、表計算やネットワーク技能、クラウドなどデジタル関連の資格を取得するための研修を行う。そして、最終的に300人を対象に、他社を含め、就職にむけた支援を行う。という方針を打ち出したところ、7300人を超える応募がありました。今月から第2期の募集も始まっています。それだけニーズがあるということです。
▼ 他にもIT企業や人材企業がデジタル人材の育成に取り組む動きがでています。国もぜひ、こうした企業と連携をして、支援の動きを加速、充実させて、より多くの人を新しい仕事につなげていってほしいと思います。

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【まとめ】
コロナ後を見据え、日本経済全体の回復を力強いものにしていくため、そして、その流れから取り残される人がでないようにするためにも、社会全体で、伸びる分野へ事業を変革し、それにあわせて人材も育成し、新たな分野に移していくことが求められていると思います。

(今井 純子 解説委員)

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