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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言解除へ 今後の備えは?」(時論公論)

矢島 ゆき子  解説委員

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新型コロナウイルス対策として⾸都圏の1都3県にだされていた緊急事態宣言が、今月21日の期限で、解除されることが正式に決まりました。菅総理大臣は、3月18日の記者会見で 「これまでの飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は大きな成果をあげ、1都3県の感染者数が8割以上減少した」など、解除の判断となった理由を述べました。

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感染状況をみてみると、政府が、緊急事態宣言解除の判断に際し、特に重視した病床全体の使用率(青)は、東京都25%、神奈川県25% など、解除目安としていたステージ3(20%以上50%未満)となっています。しかし、東京都では、18日、新たに323人の感染が確認されています。16日までの1週間平均と、その前の週の新規感染者数を比較してみると、東京都1.10倍、埼玉県1.17倍など、横ばい、微増の傾向が見られ、新規感染者数は、なかなか減少していません。諮問委員会の尾身会長は、「首都圏はリバウンド・感染の再拡大が起こる可能性が極めて高く、宣言を解除したあとの対策のほうがある意味ではより重要だ。」と言いました。国民が、宣言を解除して、リバウンドはしないのか?」と不安にならないように、政府には是非、今後とも、はっきりとしたメッセージを伝えてもらいたいと思います。

ではどうして、新規感染者数が下げ止まりし、減少しないのでしょうか?原因として考えられているのが、 「長い自粛疲れ」、「見えにくいクラスター」、そして「変異ウイルス」の影響です。

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尾身会長は、緊急事態宣言のため、「長い自粛疲れで、昼間の カラオケ店でクラスターが発生するなど、クラスターが多様化し、会食場面以外でも起こっている」と話しています。このクラスターは、どこで発生したのかが追跡できる、いわゆる 「見えるクラスター」です。

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「見えるクラスター」の場合、発熱などの症状があるために検査を受けて判明した感染者から、濃厚接触者を探し、クラスターを確認、そして様々なつながりから、感染源の人まで見つけることができました。一方、最近、専門家が注目しているのは「見えにくいクラスター」です。これを新規感染者数が横ばい・微増になる原因の一つとみています。調査しても感染経路のわからないケースは、東京都の場合、例えば、3月17日では、新規感染者のおよそ50.4%です。クラスターが見えにくいのは、新型コロナウイルスの場合、感染しても発症しない「無症状」の人が多いためです。無症状のために、感染に気がつかずに、普段通りの生活をしながら、10日間ほどウイルスを出し続けてしまいます。もしかしたら、職場ではきちんと感染対策をしていても、自分は無症状だからと、休憩の時に換気していない密室で、マスクをはずして 話したり、同僚と一緒に昼食をとったりして感染させているということがあるかもしれません。そして、知らないうちに、「見えにくいクラスター」が大きくなり、感染が広がっているかもしれないのです。この無症状の感染者による「見えにくいクラスター」を広めないことが大切になります。

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政府は今後、対策の一つとして、繁華街などでの無症状の感染者を見つけるためのPCR検査さらには、感染源が不明な感染者にどんなリスク行動があるのなどの調査を始めるということです。

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さらに注目されているのが変異ウイルスです。尾身会長は「変異株が既存株になり主流になるのは時間の問題」としています。今、日本で注目されているのは、イギリス、南アフリカ、ブラジルで見つかった変異ウイルスです。海外では、これらの感染力は、従来のものより強く、また、重症化しやすいというデータも出はじめています。首都圏に限らず、この変異ウイルスのために、
これまで以上に感染拡大する可能性があります。

では、第3波のピークから かなり感染者が減った今、するべきことは何でしょうか?国内では、ワクチンの接種がはじまったばかりで、特効薬がないため、次の波はかならずくると考えられます。その波を大きくしないことが大切なのではないでしょうか。菅総理大臣は、記者会見で解除後の具体的な対策を発表しました。

その一つが、「変異ウイルス対策の強化」です。特に、検査。今、行われている変異ウイルスのスクリーニング検査では、PCR検査でわかった陽性者のうちの5%から10%を対象に、変異ウイルスがどうか調べ、さらにゲノム検査でウイルスのタイプを確定しています。政府は今後、この対象を40%に引き上げる方針です。変異ウイルスのはっきりとした感染状況はつかむためにも、民間企業や大学・研究所が連携し、迅速な情報共有が必要です。

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そして今、求められるのが「医療体制の整備」です。今回の第3波では、高齢の重症患者が増えました。高齢者は、入院すると、例えば肺だけでなく、身体の筋力などが衰え、リハビリが長期に必要になるなど、どうしても入院期間が長くなります。そこで大切なのか医療機関での「役割分担」です。重症者を受け入れられる病院は限られています。患者が回復した後、すぐに対応できる病院に転院できれば、重症者用の病院には、空きができ、新しい患者を受け入れることができます。また、空きをつくることで、心筋梗塞などの新型コロナウイルス以外の救急患者に対応できるようになるのです。以前より、多くの医療機関・老健施設などが、患者さんの受け入れをはじめていますが、まだまだ足りないという指摘もあります。万が一に備え、常に余裕のある医療体制が不可欠です。そのためにも、病床の確保や、ベッドがあっても、看護師がいなければ患者の受け入れはできないので看護師などのスタッフの確保が欠かせません。病床の確保・看護師の確保 など 医療体制の整備は振り返ると以前からある課題で、 緊急事態宣言が始まる前にもっとできることがあったかもしれません。新規感染者数が以前より少なくなっている今こそ、地域ことの医療体制を充実させるために、政府・自治体・医療機関が連携し、医療機関ごとの役割分担がさらに明確することが重要です。

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そして新型コロナウイルスの感染は今後も続きます。重症化する人を増やさないことが一番です。政府は重症化しやすい高齢者などを守るため、高齢者施設などでは今月末までに3万か所の施設を対象に検査を行い、来月以降も、集中的・定期的に続けていくことにしています。これらの、気がつかないうちにウイルスが持ち込まないようにクラスターを発生させないための検査、また「見えないクラスター」のための検査の効果がわかるのはこれからですが、検査を広げることで、安心して活動できる環境を作ることが重要です。

医療のことを考えると、もう少し宣言を続けるべきだという声もありますが、一方で、およそ2か月半の期間は長く、解除はやむなしという指摘もあります。ただ、今後、 宣言が解除されることで、解除=もう大丈夫 と、自粛疲れの人々が解放され、感染が拡大するかもしれません。解除されることで、新型コロナウイルスが始まる前の生活が戻るわけではありません。今後も三密をさけ、換気、マスクなどの対策を続ける必要があるのです。政府と自治体には、国民にわかりやすいメッセージをだすとともに今後、感染が再拡大しないように、具体的な対策を実行することが求められます。

(矢島 ゆき子 解説委員)

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