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「新型コロナウイルス ワクチン接種1か月 副反応をどう考える」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新型コロナのワクチン接種が日本で始まって、1か月になります。2021年2月17日の接種開始以降、「アナフィラキシー」という急性のアレルギー症状、あるいはその疑いの報告が相次いでいます。関係者からは、ワクチンの副反応が「海外より多いように見える」といった声も聞かれます。こうした副反応の報告について、専門家の評価が行われ、ワクチンの安全性に「重大な懸念は認められない」として、接種は継続されています。
ワクチン接種が進められる中、副反応の報告をどう考えればいいのか、みていきます。

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まず、これまでに報告された副反応とは、どのようなものがあるのでしょうか。
報告では、副反応を見逃さないよう、情報を幅広く集めていて、ワクチンを接種したことと関係があるかどうか、はっきりしない「疑い」などのケースが含まれていることに注意が必要です。

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報告の一つは、死亡例です。ワクチン接種を受けたあとに、くも膜下出血で死亡したケースが1例ありました。
そして、アナフィラキシーです。アナフィラキシーは、急激なアレルギー反応が起こるもので、発疹、腹痛、呼吸困難、意識障害など、様々な症状があります。対処が遅れると、命に関わることもあります。従来のワクチンでも、アナフィラキシーは報告されていて、ワクチン接種では、注意が必要です。3月11日までに、疑いなども含めて、36例が報告されています。

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さらに、痛み、あるいは発熱などの反応もあります。これまでに接種を受けた医療従事者のうち、およそ2万人を対象に「健康調査」が行われていて、軽い症状も含めた副反応の情報を集めています。その結果、90%の人が、接種した翌日に針を刺した部分に痛みがあったことなどが報告されていますが、海外で行われた臨床試験の結果と、大きな差はみられません。
3月12日に開かれた厚生労働省の専門家の部会は、これらの副反応を検討し、「ワクチンの安全性に重大な懸念は認められない」としました。

では、副反応の報告は、どのように評価されたのか、死亡とアナフィラキシーについて、みてみます。

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死亡した1例は、60代の女性で、ワクチンを接種した3日後、自宅の風呂場で倒れているのが発見されました。死亡の原因は、くも膜下出血と考えられています。ワクチン接種とは関係なく、くも膜下出血になったとする見方もありますが、一方で、そう考える十分な情報もないとされています。詳しい調査結果を待って、さらに検討することにしていますが、この死亡したケースによって、いまのワクチン接種を見直す必要はないというのが、多くの専門家の見方です。

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一方、アナフィラキシーは、3月11日までに36例が報告されました。報告が相次いだだけに、不安に感じている方もいると思います。アナフィラキシーというと、命に関わる症状を思い浮かべるかもしれませんが、36例の報告を見ると、意識障害などのいわゆる「アナフィラキシー・ショック」と報告された事例はありません。また、36例すべてが、その後「回復」、あるいは「症状が改善」しているということです。
アナフィラキシーは起きていますが、速やかに、適切な治療を行うことで対応できていて、こうしたことがワクチン接種を継続している大きな理由となっています。
気になるのは、36例のほとんど、35例が女性であることです。海外でもアナフィラキシーの90%以上が女性というデータがあります。ワクチンに含まれる特定の成分が影響している可能性が指摘されていますが、女性が極端に多い原因はわかっていません。

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では、日本人はアナフィラキシーになる割合が高いのでしょうか。
専門家は、36例のうち、3月9日までに報告された17例について「国際的な基準」に沿って、詳しく評価しました。その結果、ワクチン接種によってアナフィラキシーが起きたとされたのは、7例でした。他の10例は、アナフィラキシーと判断する十分な情報がない、あるいは、アナフィラキシーではないとされました。

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3月9日までに接種を受けた人は、およそ10万7000人ですので、接種100万回あたりに計算すると、65例となります。
同じワクチンについて、海外のデータをみてみると、アメリカでは、100万回接種あたりで計算すると、4.7例、イギリスでは、18.6例という報告もあります。日本では、アナフィラキシーが多いように感じます。ただ、アメリカの医療関係者を対象にした別の調査では、270例という報告もあります。これは調査の対象が、およそ2万6000人と少ないものですが、4つのデータには、ばらつきがみられます。

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日本の65例という数字は、データが少ない段階のものであることや、対象が医療従事者に限られていることなどから、海外と単純比較することは難しいとされています。今後、さらに国際的な基準で評価を重ねていく必要があります。

では、アナフィラキシーにどう対処したらいいのでしょうか。接種を受けるかどうかの判断と、接種した後の対応が大切になります。

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アナフィラキシーは、過去にアレルギー症状を経験した人などは、リスクが高いとされています。実際、さきほどの36例のうち、半数以上は、そうした人たちでした。アレルギーがある人などは、接種を受けるかどうか、主治医と相談することが大切ですし、接種する場合は、会場で問診の時に、アレルギーなどについて医師に正確に伝えることが重要です。
さらに、接種した後です。なんらかの症状が出ないか、通常は15分以上、アレルギーがある人などは、30分以上観察することになっています。十分時間をとることが必要です。
国内では、いまは接種の対象が医療従事者です。専門的な知識があるうえ、病院など設備の整ったところで接種しているため、接種後に症状が出た時、必要な対応をとりやすかったと考えられます。
今後は、高齢者や基礎疾患のある人など、そして一般の人ヘと対象が広がり、会場も医療機関とは限りませんので、注意が必要です。特に、高齢者はアナフィラキシーが起こると重篤になる恐れがあるので、接種を受けるかどうかの判断など、周囲の人が支援してあげることが大切だと、アレルギーの専門家は話しています。

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また、アナフィラキシーが、女性で多く見られることを不安に思っている人もいると思います。たとえば、部屋が密にならない範囲で、女性の観察時間を長めにとるなどの対応も考えられると思います。
国や自治体は、副反応の事例で分かってきたことをもとに、具体的な対策を示すことが必要です。

ひとりひとりがワクチンを接種するかどうかの判断は、リスクとメリットのどちらが大きいかという天秤に例えられます。

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日本人に、アナフィラキシーが多いということになれば、リスクが大きくなるかもしれませんが、一方で、接種後の観察に十分な時間をかけるなど、副反応に迅速・適切に対応できるようにしておけば、リスクを減らせることも示されてきています。

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メリットについても、発症予防だけでなく、感染そのものを防ぐ感染予防や重症になるのを防ぐ効果もあることを示す報告が、海外で発表されています。

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ワクチン接種が進む中で、リスク、あるいはメリットつまり効果に関して、国内外で新たにわかってきた情報を、国民の間で共有することが求められています。

厚生労働省は、今後も2週間に1回のペースで、専門家による部会を開いて、副反応の事例について、評価していくことにしています。アナフィラキシー、あるいはそれ以外の重篤な副反応が起きていないか、報告される事例を詳しく分析し、国は、その結果を透明性を確保して国民に繰り返し伝えることが必要です。

(中村 幸司 解説委員)

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