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「原発事故10年 いまだ遠い廃炉への道のり」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

史上最悪レベルの福島第一原発の事故から10年。この10年は廃炉の困難さを思い知らされた10年。
現場は敷地内の片付けは進んだものの、建屋内の作業は強い放射線に阻まれて計画より遅れ、いまだ廃炉の入り口段階。
先日の福島沖の震度6強の地震でも冷却水の水位が低下するなど相変わらず不安定。
廃炉の行方は福島の復興にも関わる。
この先廃炉を前進させるには何が必要なのか。この10年を振り返りながら水野倫之解説委員の解説。

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現場は今どうなっているのか、先月取材。
作業員に新型コロナの感染者も出ていることから感染防止のため、普段着の作業員に対し私が防護服にマスク着用という警戒態勢の中での取材。
こうしたコロナ禍の中今も毎日4000人体制。

原子炉建屋を見下ろす高台では放射線量は下がったものの、1時間あたり110μSvと、一般の人の年間限度に9時間で達する量で長居はできない。

事故では3基の原子炉で核燃料がメルトダウン。
溶けた燃料は格納容器に落ちて構造物と混じり合ったデブリとなって残されている。
廃炉の当面の目標は、損傷した建屋から大量の放射性物質が残るこのデブリと、プール内の使用済み核燃料取り出すこと。

1号機は爆発で屋根が崩れ、汚染されたがれきだらけとなりこの10年撤去が進められた。しかしがれきから放射性物質が舞い上がる危険があるため中断され、大型カバーで覆う計画が進む。

爆発を免れた2号機では、建屋の横から使用済み核燃料を取り出す計画で、南側に作業台を設置する作業が進む。

そしてこの1年大きな動きがあったのが3号機。建屋上部のかまぼこ形の屋根の下2年前から行われてきたプールの使用済み核燃料を遠隔操作で取り出す作業が大詰めを迎えていた。事故当時566体あった燃料は、この日時点で残るは24体。
しかしがれきが落下し取っ手が変形するなど作業が難しいものばかり。
1年がかりで開発した特殊なアームを慎重に操作、無事つかみあげた。
先月末までにすべての取り出しが完了、リスクが一つ減り前進。

しかしこの使用済み核燃料の取り出し、かなり遅れ。

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3号機は2015年に取り出し開始予定でしたが4年遅れ。
また1号機は2017年度の予定が2027~28年度と10年遅れに。
さらに2号機も2017年度から2024~26年度へ7年遅れ。

遅れの原因は、建屋内の放射線量が高く遠隔操作が必要で、がれきの撤去や操作機器の開発に時間がかかる上に、放射性物質の飛散対策などが迫られているため。
ただ状況は把握できているため、1,2号機とも取り出しのめどはついている。

問題は、燃料デブリの取り出しで、なかなかメドが立たない。3基で880tあるとみられ、政府と東電は工程表で30年から40年で廃炉を完了させるため、事故後10年以内、つまり今年中に取り出しを開始する目標を当初から掲げ、調査してきた。

ただ近づけば短時間で死に至る強い放射線を出しているため状況確認も簡単でない。これまでに2号機と3号機の格納容器の底でデブリを一部確認できたにとどまり、どこにどれだけあるのか全容は把握できていない。

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政府と東電は工程を何とか守ろうと作業がしやすい2号機で今年中に試験的に取り出し始める計画だったが、機器の開発が遅れてこのほど断念、1年遅れに。
工程表は政府と東電の地元への約束なので遅れはよくないが、安全を最優先にした対策を取る必要もあり致し方ない面も。
しかし一番の問題は、これだけ各工程が遅れているにもかかわらず、30年から40年で廃炉を完了させるというゴールだけは変えていない点。

1号機と3号機はデブリの取り出し開始のメドさえたたず。
さらに2号機と3号機では10年目にしてわかった難題も。

原子力規制委員会が去年10月建屋内を調査したところ…、建屋最上階にあるシールドプラグと呼ばれる格納容器を覆うコンクリート製の蓋で、高レベルの汚染が判明。推定放射線量は1時間に10Sv と近づけば1時間で死に至るほど高いもの。

メルトダウンでこのふたの隙間から大量の放射性物質が漏れ出し、激しく汚染されたとみられる。建屋上部にも燃料デブリがあるようなもので関係者に衝撃。
政府、東電は対策は今後考えたいと。

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こうした状況で30年から40年で廃炉を完了させるのは非常に難しいのでは。
そしてそもそも何をもって廃炉を完了したというのか、その当然のことがまだ決まっていないことが大きな問題。
政府と東電は廃炉の姿について、地元の意向をきいて決めていきたいと話し、あいまいに。
今必要なのは何をもって廃炉とするのか、その最終形について関係者の間で共通認識を持つこと。

燃料デブリなどをすべて取り出して建屋も解体、汚染土壌もすべて福島県外に撤去して更地にするのか。
あるいはデブリなどをある程度取り出しもう二度と放射性物質の大量放出が起きないところまでリスクを下げ、建屋や廃棄物は残して長期管理することを目標にするのか。
それによって作業の優先順位も大きく変わる。

先ほどの2号機。
これまでの解析で優先的に取り出そうとしている格納容器の底以外に、上の原子炉内により多くの、そして放射線が強いよりリスクの高い燃料デブリが残されているとみられる。
これを取り出すにはシールドプラグをあけて上からアプローチすることが考えられるが、まさにその作業場所で高濃度の汚染がわかった。

今後こうしたデブリをすべて取り出し解体する方針であれば、作業時期はいつでもいいかもしれない。
しかしリスクを下げることを廃炉の目的とするのであれば、よりリスクの高い原子炉内のデブリの取り出しこそ急がなければ。そうなると作業場所となるシールドプラグの汚染対策をどうするのか今から検討しなければならないわけで、廃炉方針によって作業の手順などが大きく変わる可能性がある。
政府・東電は廃炉の最終形について、この10年を振り返ったうえで今から地元とともに議論を始めておく必要。

このように廃炉は極めて困難で、ほかにもトリチウムを含む処理水をどうするのかなどやるべきことはたくさんあり、今後も安全第一で作業することが重要。
その点、東電に対しては事故10年の今、安全に廃炉を進めると誓った初心を忘れるなと言いたい。
事故は地震と津波によって引き起こされ、想定の甘さなどを反省したはず。
東電は壊れた建屋の健全性を確認するため3号機に地震計を設置。
しかしそれが壊れたことがわかっていたのにすぐに対策をとらず、先月起きた福島県沖の震度6強の地震で貴重なデータをとることができなかった。地震津波は忘れたころにやってくる。
当時の初心を思い起こし、今後の廃炉作業を安全に進めていくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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