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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言延長 解除に何が必要なのか」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

首都圏1都3県の緊急事態宣言が2週間延長されることになりました。年末から年始にかけて新型コロナウイルスの感染が全国で拡大した第3波。大阪などの宣言は、2021年3月7日の期限を前倒しして、2月28日に解除されたのとは対照的です。
緊急事態宣言の解除に向けて、何が必要なのか考えます。

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今年1月から続いた緊急事態宣言は、東京、埼玉、千葉、神奈川の4つの都県について、今月21日まで2週間延長されました。

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延長された理由をみてみます。

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こちらは東京都の1日ごとの新規感染者数です。
1月上旬をピークに減少傾向が続いていますが、ここのところ減少のペースが鈍くなっていて、下げ止まっているようにも見えます。この原因は、感染対策が十分徹底されていないことなど、いろいろ指摘されていますが、はっきりしていません。
また、いまの感染者数は、2020年11月中旬と同じくらいです。11月中旬というと、その後、感染者が増え始めて第3波になりました。いま、ひとたび感染者数が増えると、同じように大きな感染拡大につながらないかと危惧する声も聞かれます。

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緊急事態宣言の判断の指標は、どうなのか、
「病床のひっ迫状況」を示す感染者の治療を行う病床の使用率を見てみます。4つの都県いずれも、緊急事態宣言の目安になる50%を下回ってはいますが、一部の地域で病床の確保に十分な余裕がないとされています。

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4つの都県の「宣言解除への道」を阻んでいるのは、これだけではありません。変異ウイルスへの警戒、ワクチン接種への影響、年度末の季節のイベントなど様々なに懸念される要素があります。

まず、変異ウイルス。

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イギリスで報告された変異ウイルスは、日本国内のウイルスに比べて感染力が高いとされています。イギリスをはじめ海外では、すでに感染の主流になっている国があります。日本でも国内での報告事例が相次ぐようになり、空港の検疫を除いても170人を数えます。多くの専門家が、「今後、国内の流行が変異ウイルスに置き換わって、感染が急速に広がる恐れもある」という危機感を示しています。

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2つ目が、国内で先月から始まったワクチン接種への影響です。仮に、再び感染が拡大するようなことになると、医療機関への負担が大きくなり、接種に必要な医師や看護師などの確保が難しくなるなど、ワクチン接種が円滑にできなくなる恐れがあります。

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変異ウイルスの感染拡大、ワクチン接種に影響するようなことがないよう、4つの都県の感染を、今以上に抑える必要があるのです。

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そして今は、年度の切りかえの時期にあたります。卒業式や歓送迎会、花見など人が集まる機会が増えることで、感染が拡大しないか懸念されています。
2020年の同じ時期の第1波のときも、こうした集まりで、感染が広がったとされています。また、第3波もクリスマスや年末年始で人が集まり、急激な感染拡大につながったと分析されています。いま宣言を解除するには、こうした季節のイベントに伴う感染拡大のリスクを考慮する必要があります。

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さらに、第2波の苦い経験もあります。2020年5月、全国的に感染が抑えられた後、東京での感染が全国に広がり、第2波の大きな感染になりました。社会・経済活動の中心である首都圏での感染は、全国に広がる危険が高いと考えられます。今回、同じことを繰り返さないよう、慎重な判断が求められています。

こうしたことから、4つの都県の緊急事態宣言解除という判断にはなりませんでした。

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では、宣言解除を阻むこうした問題を取り除く=つまり解除に向けて、どうしたらいいのでしょうか。それは、感染者周辺の調査の強化、それに、感染を防ぐ対策の徹底だと思います。

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4つの都県では、自宅、あるいは高齢者施設や病院で感染が拡大した例が依然として多く、地域によっては飲食店での感染拡大も報告されているのが現状です。ただ、こうした感染が確認されている一方、これらの感染がどこから来たのか=感染源が不明なケースが増えています。専門家は、「首都圏では特に、感染が見えづらくなっている」と話しています。

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このため、感染者が見つかったときに、その人から感染した疑いがある濃厚接触者を調べるだけでなく、誰から感染したのか、「隠れた感染源」を調べる調査の徹底も必要だと指摘されています。この調査、以前は行われていましたが、感染者が急増して、各地でできなくなっていました。4つの都県でも、感染者が減ってきた中で、こうした調査があらためて進められ、感染拡大の兆候がつかみやすくなってくれば、宣言解除の環境も整ってきます。

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さらに、この調査によって感染者数の「減少ペースの鈍化」の原因を突き止めることも期待できることから、専門家は「もう一段の感染者減少につなげたい」と話しています。

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この調査は、変異ウイルス対策にも重なります。変異ウイルスの感染者が見つかったときに、濃厚接触者とともに感染源の調査を徹底することで、変異ウイルスを封じ込める、あるいは、国内での感染拡大を遅らせる必要があります。

そして感染を防ぐ対策の徹底です。

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首都圏では、人の動きが、特に夜間、増えつつあるとみられています。不要不急の外出自粛、テレワークの実施率を引き上げることなどが必要になっています。
また、4つの都県では、飲食店の営業時間を午後8時までとしていますが、こうした対策が守られていないケースがあると指摘されています。宣言が長引く中、政府には飲食店などへの支援をさらに検討することが求められますが、一方で店側は、営業時間や業界のガイドラインを、客もルールを守るなどの協力が大切になっています。
年度の切りかえの卒業式や歓送迎会、花見などに関して、専門家は、こうした行事に伴う会食や旅行をなるべく避けるよう求めています。

こうした濃厚接触者や感染源の調査の強化、さらに人の動き、あるいは人と人との接触をできるだけ避けるという基本的な感染対策を徹底させることで、新規感染者の減少傾向を強めることが、宣言解除に向けて大切だと思います。

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さらに、こうした状況は、他の地域でも基本的には変わりません。たとえば、変異ウイルスの拡大は、全国的に警戒が必要です。ワクチン接種への影響を抑え、円滑に接種できる環境をつくることは、国全体で進めなければなりません。
宣言が出されている4つの都県以外でも、こうした問題を取り除く対策が求められています。

緊急事態宣言は、延長により2か月以上と長期化し、また感染者はピークの時に比べれば、大きく減っているという安心感などもあって、対策を高いレベルで維持していくことが難しくなっている面もあります。

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このため、なぜ緊急事態宣言が延長されたのか、何がいま求められているのかを、広く理解してもらうことが大切です。政府、あるいは知事は、わかりやすい言葉で具体的に説明を重ねていくことが、ますます重要になっていると思います。

延長された2週間は、感染の再拡大、いわゆる「リバウンド」のリスクを抑え、感染者数をさらに低いレベルに下げられるか、どうかの分かれ道でもあると思います。これまで、感染拡大を繰り返した経験を生かすことができるか。そのことが、いま問われています。

(中村 幸司 解説委員)

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