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「原発事故10年 原子力政策抜本見直しを」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島の事故から10年、安全神話が崩壊し、原発の課題が様々露呈。しかしこの10年、政府はその見直しに消極的であいまいな政策を続けており、日本のエネルギー構造は変わりきれてない。
ただこの先、脱炭素社会に向けてエネルギーの大転換は必須、事故10年の今年こそ、原発をどうするのか抜本見直しをしなければ。
事故10年目の原子力政策の課題について水野倫之解説委員の解説。

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10年前の事故では、起きないとされた核燃料のメルトダウンが起きて安全神話が崩壊。
原子力への信頼は地に落ち、一時原発ゼロに。
ただ電力不足を補うため当面原発は必要とされ、規制・推進いずれも見直しの気運。

このうち安全規制は、法律に基づく独立性の高い原子力規制委員会が発足。
重大事故も想定した新基準も作られ厳しい審査。
審査合格には安全対策に莫大なコストがかかることから、54基あった原発は21基の廃炉が決まり、33基まで減。

ただ抜本見直しはこれくらいで、原発全体をどうするのか推進策についてはこの10年あいまいな状態。

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政府はエネルギー基本計画で、原発への依存度を可能な限り低減するとしつつも重要電源と位置づけ、再稼働を進める方針。
2030年の電源構成でも20から22%と再生可能エネルギーとほぼ同じ目標。
しかし目標達成には30基原発が必要も再稼働したのは9基と、政府の思惑通りには進まず。

審査に時間がかかる面もあるが、安全への不安に加え原発を進める大手電力や政府への信頼回復が進んでおらず、地元の理解がなかなか得られないことが大きな理由。

NHKが昨年末に行った世論調査で、停止中の原発の運転再開に賛成か反対か尋ねたのに対し、賛成は16%、反対は39%と反対が賛成の倍以上。

電力業界では、関西電力の経営幹部が原発の地元の元助役から、多額の金品を受け取り、原発マネーが経営幹部に還流していた実態が。
また今年に入っても、東京電力が再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原発で、社員が他人のIDで中央制御室に不正に進入。東電は事故を起こした当事者で再び原発を運転する資格があるのか問われているその裏で、問題を起こしていた。

こうした不祥事が続く限り信頼回復は困難で、この先再稼働が一気に進む情勢にはない。さらに司法の判断やトラブルで度々運転が止まり、去年運転中の原発が1基になるなど、原発はもはや安定した電源とは言えなくなりつつある。

となれば2030年の目標達成はかなり難しい。
原発の現実的な稼働状況を見極めて割合を引き下げ、その分再エネの割合を引き上げられるか早急に検討し、2030年の電源構成を見直すことが不可欠。

このように事故を経験しても変わりきれない日本のエネルギー構造だが、大転換が迫られる方針が打ち出された。
2050年の温室効果ガス実質ゼロ。
ガソリン車の販売禁止や、洋上風力の大量導入などこれまでにない政策。

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ただここでも原発は相変わらずあいまいさが残る。
脱炭素化へのグリーン成長戦略で、政府は原発を「確立した脱炭素技術」と位置づけ、2050年以降も「可能な限り依存度を低減しつつも、引き続き最大限活用する」とうたう。
しかし政府が参考値として示した50年の電源構成では、再エネは50~60%、まだ実用化していない水素やアンモニア発電についても10%と割合を示したのに対し、原発はCO2を回収する火力と抱きあわせで30~40%と、単独の割合を示さず。
今後政府は複数の電源構成シナリオも検討していく方針だが、2050年も相変わらず原発があいまいにされている大きな理由。それは新設や増設の問題。

事故以降法律で原発の運転期間は原則40年に制限され、建設中の3基が運転しても2050年には3基分しか残らない。また例外規定ですべて60年運転しても2050年以降原発による発電はかなり少なくなる。
このため電力会社やメーカーは新設や増設が不可欠と訴えるも、政府は「現段階では想定していない」と言う。
国民の原発への不信が依然として根強く、今、新設増設を打ち出しても受け入れてもらえず、目立つことは控えたいとの考えがあるとみられる。2050年以降も原発を利用するというのであれば、安全性のさらなる向上とともに信頼の回復が不可欠。
政府や大手電力は何に取り組めば信頼回復につながるのかその道筋を示さなければ。
それが示せないまま原発への依存を強めていては50年の脱炭素化が困難になりかねない。より確実なものにするためにも再エネを含め別の電源の割合をさらに高めるなどの戦略も考えなければ。

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さらに福島の事故ではプールの大量の使用済み燃料の危険性が教訓に。電源喪失で冷却ができなくなり、メルトダウンし首都圏を含む250キロ圏の避難が不可避となるシナリオが作成されたほど。
原発に大量の使用済み燃料がたまるようになった理由は、使用済み燃料からプルトニウムを取り出して使う核燃料サイクルの行き詰まり。
プルトニウムを取り出す青森県の再処理工場は、トラブルで完成が20年以上遅れて処理ができず、全国の原発には1万6000tの使用済み燃料がたまり、プールの75%が埋まる。

さらに今後工場が完成しても、プルトニウムが使い切れるのかという問題も。
工場では年間7tのプルトニウムがでるが、核兵器の原料ともなるためすべて使わなければならず10数基の原発が必要。しかし現状利用できるのは4基に限られこの先何基稼働できるかはっきりしないことから工場が開店休業状態となって、使用済み燃料がさらに原発内にたまり続ける可能性も。
そこで電力業界は昨年末、東電など2社が青森県むつ市に建設中の使用済み燃料の中間貯蔵施設に他の電力会社の使用済み燃料も保管できるよう検討する方針を表明。
しかし青森県とむつ市は「使用済み核燃料の扱いがはっきりせずそのまま留め置かれてなし崩しで最終処分場になりかねない」と強く反発しており、先行きは不透明。
政府は燃料の有効利用につながるとして核燃料サイクルを続ける方針だが、この10年で行き詰まりの度合いがより深刻に。
今後使用済み燃料をどう扱うのか、そして原発のプールにたまる状況をいかに解消し安全を確保していくのか、こちらも抜本見直に向けた議論が必要。

原発事故から10年、原子力政策の抜本見直しをしてこなかったツケが回ってきている。今一度福島の事故の被害を思い起こし、原発をどうしていくのか、10年の今年こそ国民を巻き込んだ議論をして決めていく年にしていかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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