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「新型コロナで加速する少子化」(時論公論)

藤野 優子  解説委員

新型コロナウイルスは日本の少子化を加速させています。
2月22日に政府が発表した、去年一年間の出生数の速報値は過去最少を更新。
さらに、コロナの影響を強く受ける今年は婚姻数の減少などで80万人を下回る見通しです。
少子化は国の将来を左右する根源的な問題。それだけにいま衝撃が広がっています。

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解説のポイント
▼加速する少子化の現状
▼懸念される少子化の悪循環
▼求められる若い世代への包括的な家族支援

【過去最少の出生数】
まず少子化の現状です。

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先週発表された去年一年間の出生数の速報値は87万人あまり。
前年と比べておよそ2万6000人減少しました。

過去のデータと比較するために日本国籍の子どもの出生数を試算しますと、「86万ショック」と言われたおととしを下回る83万人台と過去最少となる見通しです。

【今年の出生数は80万人割れ】
さらに懸念されているのは、新型コロナの影響を強く受ける今年の出生数です。
去年一年の婚姻数は前年よりおよそ13%も減少。戦後2番目の減少幅です。
日本は結婚したカップルから生まれる子どもが大半のため、今年(2021年)の出生数は大幅に減少すると見られています。
実際にコロナの影響が出始めた去年4月から10月までに自治体に提出された妊娠届数はおよそ7%減少。
これをもとにした試算では、今年の出生数は77万人台と80万人割れの見通しです。

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政府が4年前に公表した人口推計と比べますと、このように推計より早いスピードで少子化が加速しており、実際に80万人割れとなれば、政府の推計より10年以上も早いペースで少子化が進むことになるのです。

【女性の雇用が少子化に影】
ここまで急激に結婚・出産を控える動きが出たのは、コロナで人と会う機会が減ったことや、感染リスクを避けて妊娠・出産のタイミングを遅らせた人が多かったからとみられますが、加えて、経済的な不安が大きく影響しているとの見方が広がっています。
とりわけ今回のコロナ禍では、製造業を中心に男性の雇用に大きな影響が出たリーマンショックとは違い、サービス業などの女性の非正規雇用への打撃が大きいことも影響していると指摘されています。

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2020年一年間平均で女性の非正規労働者は50万人減少。男性の2倍に上っています。
休業や仕事のシフトを減らされた人、学校などの休校で家事・育児の負担が増え仕事をやめた女性も出ています。
労働問題と少子化の関係に詳しい専門家からは、子どもを産む性の女性の負担や経済的な不安が増し、当面は出生にはマイナスの影響が続くだろうとの見方が出ています。

【少子化の悪循環】
また、人口問題の専門家からは、コロナの収束後、ある程度出生数の回復は見込まれるものの、「低出生のわな」といわれる少子化の悪循環が起きる可能性があるとの懸念も出ています。

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これは、いったん出生数が減ると、出産・子育て関連の市場が縮小したり、行政ニーズが低下して子育て政策の予算が減ったり、さらには社会に、子どもをもちにくい、簡単に子どもをもたないほうがいいという意識が広まると、実際に子どもを産み育てにくくなり、少子化がさらに進むというメカニズムです。

これがコロナ禍でさらに拍車がかかるのか。
今、失業や低所得となり生活に困窮する子育て世帯や若い世代が増えています。
このままですと、出生数の減少で産科や小児科の経営も困難となります。
今後、景気の影響で民間企業などの子育て支援が後退してしまえば、少子化は一層進む事態となる恐れがあるのです。

そうなりますと、労働力の見通しや年金などの社会保障の制度設計の大幅な見直しも避けられません。
コロナ後に出生数は回復するだろうと楽観視せず、コロナ禍で顕在化した課題を含めてこれまで以上に対策を強化する必要があるのです。

【政府の新たな対策】 
では、政府はどんな対策を講じようとしているのか。

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▼女性への再就職支援やデジタル分野への職業訓練を強化する方針のほか、
子育て支援として、
▼来年度から4年間で14万人分の保育所の整備、
▼女性に偏っている育児の負担を減らすために、子どもが生まれた直後に男性が最大4週間の育児休業を取れる制度の導入
▼再来年度からの不妊治療の保険適用の拡大などに取り組む方針です。

【若い世代への包括的な家族支援を】
しかし、「これでは不十分だ」と少子化対策の再構築を求める声が相次いでいます。
このうち、少子化対策に詳しい甲南大学の前田正子(まえだ・まさこ)教授は、「これまでの少子化対策は、政策効果が目に見えやすい待機児童対策などに重点が置かれてきた。これも重要な課題だが、今後は経済状況のアップダウンがあっても、若い世代が家族を持ちたいという希望を持った時に、安心して結婚、あるいは出産する人生を選択できる家族支援策を息長く強化し続けていくことが重要だ」と話しています。 
この指摘の背景には、非正規で働く人が多い団塊ジュニア世代が経済的な理由から、結婚や出産を遅らせてきたことが、今の深刻な少子化につながったことがあります。
この20年、20代、30代の低所得者層は増えてきています。
特に非正規で働く人の賃金は昇給がほとんどありません。
このため今の若い世代は、子どもを産んでも、自分の子ども時代と同様の生活水準を保てないと、結婚や出産に踏み切れない人たちも多いと言われています。 
今後は、産業構造の転換で雇用情勢の大きな変化も予想されます。

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若い世代の雇用を守ることや待遇の改善は大前提ですが、
例えば、▼結婚や出産後の住宅の住替えの費用の補助を全国に拡大することや、
▼出産費用もいま(正常分娩の場合)全国平均でおよそ51万円。
出産後に健康保険等から支給される一時金より10万円近く高く、助成の拡大も必要でしょう。
▼教育費の重さが希望の数の子どもを持てない一番の理由になっています。
低所得世帯に限られている大学などの無償化の拡大、高校生のいる家庭への児童手当の支給など、子育ての費用を補う包括的な家族支援策を打ち出し、財源もコロナ収束後には国民・企業で広く税や保険料で負担し合う方法を検討する必要があるのではないでしょうか。

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【子ども行政の一元化を】
そして、子どもが生まれる前から成人するまで切れ目のない子育てのサポートを効果的に行うことも大切です。

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今、子どもや家族支援の担当は、医療・保育・福祉を担う厚生労働省、教育を担う文部科学省、若者・女性・貧困対策等を担う内閣府の主に3つに分かれ、子どもの生育環境や家庭支援の総合的な調整役が不在だと指摘されてきました。
加えて、いま様々な問題を抱える子育て家庭が増加。
虐待や貧困につながらないよう予防的に支援していくには、福祉や教育などの連携が極めて重要になっています。
そのためには、子どもや家族の支援を担う行政の司令塔を統合して一元化し、全ての子どもの育ちを守る手厚い体制をつくりあげる必要があります。

少子化は、今の社会の子どもや若い世代の「生きづらさ」を反映しているといわれています。少子化対策とは、生まれる子どもの数を増やすのではなく、長い時間をかけて、子どもを産み育てることが幸せだと実感できる社会をつくるための対策でなくてはなりません。
深刻な少子化の根底にある問題点は何か。コロナ禍で顕在化した課題や反省を踏まえて、新たな家族支援の方策を打ち出すことがいま求められていると思います。

(藤野 優子 解説委員)

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