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外国人長期収容問題 入管法改正審議を尽くせ

二村 伸  解説委員

日本からの退去命令を拒む外国人の収容が長期化し、国内外の批判が高まっていることを受けて、先週、政府と野党が入管法、出入国管理法などを改正する法案を相次いで国会に提出しました。長期収容問題をめぐっては国連人権理事会の作業部会も国際人権規約に違反しているとして日本政府に改善を求めています。日本の入管制度の節目ともいえる法改正をめぐる議論について考えます。

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まず、なぜ入管法の見直しが必要かですが、在留資格がなかったり更新が認められなかったりして不法滞在などの理由で国外退去を命じられ、全国の入管、出入国在留管理局の施設に収容されている人は一昨年末時点で1054人でした。本来は送還までの一時的な収容であるにもかかわらず6か月以上収容されている人が4割を超え、3年以上収容されている人も63人いました。退去命令を受けた人の9割以上は速やかに日本を離れていますが、収容が長期化しているのは祖国に帰れば迫害される恐れがある人や日本に家族がいる人など帰るに帰れない事情を抱えた人たちが退去を拒んでいるためで、その多くが難民認定の申請中や裁判で係争中です。一昨年、長期収容に抗議のハンストが各地に広がり、長崎県の入管施設でナイジェリア人男性が死亡したのを受けて政府は法改正に動き出しました。

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収容の長期化については、国連人権理事会の作業部会が、日本に収容されている外国人の訴えを受けて、恣意的な拘禁を禁止した国際人権規約の自由権規約に違反し、司法の審査もなく無期限収容することは正当化できないとする意見書を去年まとめ、日本政府に改善を求めています。意見書に対する対応が注目される中、政府は先週19日に入管法などの改正案を閣議決定し、国会に提出しました。

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その主な内容です。▼まず、長期収容問題を解決するために「監理措置」制度が新たに設けられ、入管の施設以外の場所で生活することが認められるようになります。これまで一時的に収容が解かれる仮放免制度がありましたが、新たな制度では逃亡の恐れがないなど入管庁が相当と認めた人は、最初から収容されずに監理人と呼ばれる団体や親族、弁護士のもとで生活できるようになります。ただ、許可なく就労したり逃亡したりすれば処罰され、監理人は活動の報告が義務づけられます。
▼難民の認定に関する変更点では、難民条約上の難民には該当しないものの紛争地などから逃れてきた人道上の配慮が必要な人を「補完的保護対象者」として難民に準じて保護する制度が設けられます。
▼また、これまで難民認定の申請は何度でもでき、申請中は本国に送還することが認められていませんでしたが、今後は申請を原則2回までとし、3回以上申請した場合は相当の理由がなければ送還が可能になるとしています。

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しかし、収容されている人たちの支援団体や弁護士は、▼監理措置は誰が対象となるのか判断基準が明確でない上、就労が難しく健康保険にも加入できないなど人権が尊重されておらず、収容された人を仮放免する現在の制度と何ら変わらないと主張。監理人の負担も重くなるとしています。
これに対し入管庁は、監理措置制度は収容に代わる措置であり、収容したまま手続きを進めるこれまでの制度とは違い監理人のもとで生活することで逃亡を防ぎやすくなるとしています。
▼難民認定の申請中に送還を認めることについては、支援者だけでなく国際機関も難民条約に違反し、本来保護すべき難民が救われなくなると反対しています。
入管庁は送還を免れるための申請の濫用を防ぐことが狙いであり、1回目で適正な判断ができるように基準の明確化や審査官の能力向上につとめるとしています。
▼日弁連をはじめ全国の30をこす弁護士会も会長声明を出し、収容期間の上限を設けるべきだとしており、司法による審査を認めないのも重大な人権の制約だとしています。これに対し入管庁は収容期間の上限を設けると最後は解放せざるをえなくなり、退去を拒否する人が増えると反対の立場です。

ただ、長年日本で暮らしながら在留許可がないために、働くこともできず、病院にも行けないという人は大勢います。そうした人たちをどうやって救うのか、改正案では明確に示されていません。
【VTR:ミラクルさん 衆議院第一議員会館 2月25日】
25日に開かれた国会議員の集会に埼玉県に住む高校2年生のミラクルさんが母親とともに出席しました。ガーナ人の両親は29年前に観光ビザで来日し、そのまま日本で働き続けました。当時はどこも人手不足で在留資格なしに働く外国人は数十万に上り、当局からとがめられることもなかったということです。今、両親は働くことが認められず、一家は教会の支援を受けて暮らしています。ミラクルさんは次のように話しました。
「私は生まれた時からビザがなく、住民票もありません。つらいこともたくさんありました。それでも小学校、中学校、高校と精一杯がんばってきたつもりです」このように話し、在留特別許可を認めてほしいと議員たちに訴えました。日本で生まれ育ったミラクルさんは祖国を知らず日本語しか話せません。集会後、夢を訪ねるときっぱりと答えました。「家族全員で日本に住めるようになることです」
日本にはミラクルさんのように在留許可のない子どもがおよそ300人います。日本に生まれながら移動の自由も認められず、家族が離れ離れになるのではないかと毎日不安におびえながら暮らしています。

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一方、立憲民主党など野党が共同で参議院に提出した法案は、入管法と難民保護法を抜本的に見直す内容となっています。まず、退去命令を受けた外国人の収容は、逃亡の恐れがある場合に限り、裁判官の許可を得て実施すべきだとしています。その上で、収容の期間を最大6か月までとしています。難民の認定については、入管ではない独立した機関が行い、専門性の高い調査官を配置するなど国際基準に沿ったものにするよう求めています。

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日本でおととし難民として認定されたのは44人、認定率は0.4%にとどまりました。難民や移民に厳しかったアメリカのトランプ前政権でも認定者数は4万4000人、ドイツは5万4000人に上りました。3回以上の申請者を振るい落とす前に、まずは難民認定基準を諸外国並みにすべきだといった声は各方面から聞こえてきます。

少子高齢化による労働者不足に対処するためにも日本で働く外国人は今後も増え続けることが予想されます。また、東京オリンピック・パラリンピックでは世界の目が日本に向けられ、寛容で多様性のある社会なのか、開かれた国なのか問われることになるでしょう。そのためにも時代にそぐわなくなった収容制度や閉鎖的だと批判的されてきた日本の難民認定制度の抜本的な見直しが不可欠です。在留資格がないからといって一律に排除するのではなく、日本で生まれ育ったり長年暮らしたりしてきた人を社会に受け入れ日本の将来のために貢献してもらうことはできないかといった視点も必要ではないでしょうか。法案にはあいまいな部分が多く、どうすれば日本での在留を認められるのかその基準を明確にし、どう運用していけばよいか活発な議論を望みたいと思います。

(二村 伸 解説委員)


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