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「新型コロナワクチン 安全性と有効性をどう考えるか」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

皆さんは、ワクチン接種を受けようと、お考えでしょうか。
新型コロナウイルスのワクチン接種が日本でも2021年2月に始まりました。今は、医療従事者に行われていますが、このあと、高齢者や基礎疾患のある人など順次、対象が広げられる計画です。ワクチンには、感染収束の期待がかかる一方で、一定のリスクも伴います。
そこで、ワクチンの安全性、有効性を整理した上で、接種の順番が来たときに向け、ワクチンをどう考えたらいいのか、見ていきます。

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ワクチンについては、アメリカのファイザーとドイツのビオンテックが開発したものが、日本で承認され、接種が始まっています。
安全性に、どのような課題が指摘され、疑問や不安があるのでしょうか。

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このワクチンは、ウイルスの遺伝情報を体内に送り込む新しいタイプのものです。大勢に接種するのは世界でも経験がないだけに、安全性を懸念する声が聞かれます。
臨床試験では、健康な人を対象に接種が行われました。基礎疾患のある人でも大丈夫なのか、高齢者はどうなのか、「心配だ」という方もいるかもしれません。
さらに、日本人にも安全なのか、長期にわたって安全性に問題はないのかといった疑問や指摘も聞かれます。

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有効性については、
どこまで、感染を抑えられるのか、
イギリスなどで見つかっている、変異したウイルスにも効果はあるのか。
さらに、安全性と同様に日本人でも効果があるのか、長期的にも有効性は維持されるのか、という声も聞かれます。

では、臨床試験で、どこまで確認されたのでしょうか。
まず、有効性。

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海外の臨床試験では、ワクチンの有効性は95%とされました。臨床試験には、ワクチンを接種した人と、ワクチンを接種していない人、それぞれ2万人余りが参加しています。95%は、言い換えると、ワクチン接種によって発症のリスクが20分の1に抑えられたということです。インフルエンザ・ワクチンの有効性は20%~60%とされ、多くの専門家は「有効性は高い」と話しています。

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これに対して、日本での臨床試験は、参加したのが、119人と41人と、人数が少なくなっています。このため、海外のように「有効性のパーセント」は出せません。
ただ、ワクチンを接種すると体内に新型コロナウイルスの感染を防ぐ「抗体」が増えますが、この増え方が、日本人でも海外と同じ程度以上あったことから、日本人にも効果があると考えられています。

一方、安全性については、どうでしょうか。

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海外で行われた臨床試験では、注射したところの痛みが、84、1%、発熱が14.2%、疲労、頭痛、関節痛がそれぞれ、20%台から60%台の割合で認められました。
多くのケースで、何らかの反応が見られ、インフルエンザ・ワクチンなどと比べても高いとされますが、一方で、腕などの「局所の反応」は、ほとんどが1日から2日で消え、発熱など「全身の反応」は、ほとんどが1日で消えました。

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では、日本人ではどうなのか。
注射した部分の痛みが、91.6%、そのほかも概ね海外と同様の傾向がみられます。発熱した割合が高いのは、海外が38度以上を発熱としているのに対して、日本は37.5度以上としていることが一因とみられます。反応が消えるまでの期間も、日本人はほとんどが1日ないし3.5日で、海外と大きな差は、ありませんでした。

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ワクチンとの因果関係が否定できない重篤な症状は、海外で4例みられましたが、ワクチンによる死亡例はないとされています。国内では、ワクチンによる重篤、あるいは死亡の例はありませんでした。

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国の審査で、安全性についての評価は、「海外でも日本でも、ワクチン接種で何らかの反応を示す人が多くみられますが、ほとんどが軽症か中等症で死亡や重篤になる割合は低い、海外と日本人の安全性に大きな差はない」とされています。
有効性については、「発症を予防する効果が期待でき、日本人でも海外と同様の有効性が期待できる」と評価されています。

安全性、有効性はこのように評価されましたが、いくつかの課題や不安は残っています。

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その一つが、長期間経過したあとも大丈夫なのかという点です。臨床試験のデータは、海外が接種後1か月から3か月まで、日本国内が接種から1か月までのもので、「データが限られている」とされています。

このためファイザーでは、
▽海外での臨床試験について、2年間継続、
▽日本の臨床試験も、1年間、継続して状況を見ていきます。
こうして長期のデータを集めることにしています。

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さらに、国は
▽いま始まっている先行接種の医療従事者のうち、2万人を対象に観察日誌を書いてもらう「健康調査」をしています。この調査も、同意を得た上で接種後1年までメーカーによって続けられ、日本人のデータを集めることにしています。

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重症化リスクの高い基礎疾患のある人の接種が始まれば、その中の1000人を対象に経過を調査して、安全性をみることも計画されています。
このように、安全性・有効性の評価は、今後も続けられることになります。

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変異ウイルスについては、これまでの研究で「一定の効果が期待できる」ことが示されていますが、95%という高い効果なのかどうかなど、詳しいことは、さらに分析が必要です。

わかっていることと、明確になっていないことがある中で、どう考えるか。

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ワクチンを接種するかどうかについては、副反応などの「リスク」と発症予防の効果などの「メリット」を比較する天秤にみたてて説明されることがあります。

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リスクとしては、ほかに、長期的な有効性・安全性が不明であることや、日本人のデータが少ないことが気になる人もいるかも知れません。
メリットとして、発症を予防する効果95%が示されましたが、感染そのものを予防できるのではないか、多くの人が接種することで感染を収束させられるのではないかという期待があります。これらは、さらに科学的検証が必要ですが、接種が進んでいるイスラエルやイギリスで、こうした効果につながりそうな報告もあります。

では、たとえば、基礎疾患がある人はどう考えればいいのでしょうか。

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副反応のリスクは、健康な人より大きい恐れがあります。一方で、新型コロナウイルスに感染した時、重症化しやすいので、メリットも大きいと思われます。
基礎疾患のある人も高齢者も、「接種のメリットは大きい」とする報告もあります。ただ、病気が悪化するなど全身状態の悪い人は、接種を見合わせることも必要で、医師などとリスクを慎重に判断することが大切です。

若い世代はどうか。

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接種による痛みや発熱などの割合が、高齢の人より高いことが分かっています。若い人は、感染しても多くが軽症か無症状で済むことから、接種のメリットがあまり感じられないかもしれません。ただ、若い世代は、行動範囲が広く、これまでも感染拡大の要因のひとつになっています。まわりの他の人へ感染させる恐れがあることを考えると、感染収束や感染予防の効果への期待から、「メリットは大きい」と考えることができるかもしれません。

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どのような科学的根拠があるのか理解することが、わたしたち国民には必要だと思います。
そのために、国や自治体は、分かりやすく説明することはもちろん、副反応が疑われるケースが出てきた場合などに透明性をもって情報を公開すること、承認の後も日本で行われている調査で明らかになったデータを遅れることなく示すことが求められます。

新型コロナウイルスの感染がなかなか収まらない中、「よくわからないので接種しない」というのではなく、一人一人がしっかりと、リスクとメリットを自ら判断できるようにしなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

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