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「原発不正進入問題 東電に原発運転の資格はあるか」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

東京電力のずさんな安全管理がまた明らかに。
東電が再稼働を目指す新潟県にある柏崎刈羽原発で、社員が他人のIDで中央制御室に不正に進入していた問題は、別の社員がIDの登録情報を書き換えて進入を許すなど、より深刻だった。
さらに規制委員会も委員長らがこの問題の報告を受けないまま、再稼働の審査合格を決めていた。
東電が原発を動かすことを巡っては福島の事故の当事者に資格があるのかが問われ続けてきたわけで、この問題を見過ごすことはできない。
▽原発不正進入、何が問題だったのか。
▽また規制当局も甘い判断をしていた。
▽そして東電に再び原発運転する資格はあるか
以上3点から水野倫之解説委員の解説。

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私は今回の不正をきいた時、非常に驚いた。
普段原発取材では外来者として厳しいチェックを受けていたから。

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先日も事故10年の福島第一原発を取材したが、身元を示す運転免許証を忘れると、顔見知りの社員がいても一切入れてくれない。
警備員からマスクを取るよう言われ写真とじっくり見比べられ免許証はコピーもされた。さらに指の静脈で個人を識別する静脈認証も求められてIDが発行され、ゲート通過のたびにID確認や静脈認証を繰り返しての取材。

原発の中でも心臓部の中央制御室の警備は特別。
運転の制御や停止中の冷却など安全管理の司令塔で、テロなどに備え法律で厳格な警備が求められている。
不審者に進入され冷却を止められれば、事故につながるおそれもあるからで、普段入室できるのは運転員などに限られている。

しかし柏崎刈羽原発ではその安全管理体制がずさんだった。
原子力規制委員会の調査によると、少なくとも3回不正に気づく機会がありながら見逃されていた。

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去年9月、制御室へ入る資格がある社員が、ロッカーに保管中のIDが見つからなかったため、同僚社員のロッカーからIDを無断で持ち出し。
そして制御室がある区域のゲート手前でIDチェックが行われたが、委託警備員が社員の顔に疑いを持ちつつも通行させてしまう。

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次にゲートでは写真確認とは別に、内容は明かされていないがIDの登録情報で本人確認が行われる。当然この社員とは違うため警報が鳴った。
しかし警備担当社員は疑念を抱いたものの警報を無視し、ゲートを開けてしまう。
そればかりか、この社員の情報を同僚社員のIDに登録、つまり書き換えていた。

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さらに別の委託警備員も声をかけるが、社員が同僚社員の名前を名乗ったためそれ以上追及せず、中央制御室への進入を許した。

不正をした社員はその後、ロッカー奥にIDを見つけ、同僚のIDを戻したが、翌日同僚社員がこのIDで通行しようとしたところ、情報書き換えによって再び警報が鳴り、不正進入がわかったわけ。

一連の不正ではIDを不正使用した社員が最も問題だが、不正を想定しそれを防ぐ警備システムができていなかったことも大きな問題。

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まず不正をした社員はIDの紛失を届け出て無効にすべきだった。不審者に使われることを防ぐためだが手続きしなかった。社員は「職務を遂行したい思いが強かった」と弁明しているという。
また同僚社員もロッカーを施錠しておくべき。
そしてより深刻なのは、警備担当社員が警報を無視しIDの登録情報を書き換えた点で、結果として不正の手助けをしたことになるから。こうした過失が起きた背景には、警報が鳴った場合どう対応するのか定められていなかった問題も。
東電は今週、小早川社長を厳重注意とするなどの処分を決定。
今回の不正進入は社員らの甘い意識と、警備システムの不備が重なり起きたと言え、東電は警備システムの問題点を洗い出して早急に改善するのは当然だが、安全意識再確立にむけ社員教育を最初からやり直すことが必要。

そしてこの不正に厳正に対処すべき規制委員会の対応にも問題が。

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規制委員会は先週、「安全確保に影響があった」として、4段階の下から2番目の深刻さとする暫定評価を決め、東電に再発防止策を指示。
ただ問題なのは委員会の事務局が当初重要視せず、対応が後手に回ったこと。
更田委員長ら5人の委員に報告されたのは4か月後の先月で、結果として東電への指示も遅れることに。
事務局は、入室資格を持つ社員の不正だったためすぐに報告しなかったと説明するが、IDの書き換えなど問題が深刻なのは明らかで、当初の判断は間違っていたと思う。

そして報告の遅れで問題となるのが、5人の委員が不正を知らないまま、東電に原発運転の適格性があると判断し、7号機の審査を合格させていた点。

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福島の事故を起こした東電だが、柏崎刈羽原発の再稼働は必須と位置づけ。福島の事故処理に必要とされる22兆円のうち、廃炉や賠償費用など16兆円を負担することになっており、毎年5000億円の利益を上げなければならない。柏崎刈羽原発が1基再稼働すれば年間900億円の利益が見込め、事故処理のためにも再稼働が必要だというわけで、今年前半の再稼働を目指す。

しかし東電は巨大津波の可能性が指摘されながら対応を取らず、社長の指示でメルトダウンを隠蔽するなど不都合な情報を出すことに消極的な体質が問題となった。東電に再び原発を運転する資格、適格性があるのか問う声が地元を中心に上がったのは当然。
そこで規制委は、東電が守るべき社会への約束を示すよう求める異例の対応。
東電は、「経済性より安全性を優先する」ことや、「社長がリスクを把握し、安全最優先に対応して速やかに社会に発信する」ことなど7項目を明示し、5人の委員は了承して適格性を認め、去年9月、7号機を最終的に合格させた。

しかしその裏で、東電は安全管理に影響を及ぼす不正を行い、委員はその事実を知らないまま判断していた。
委員の一人は不正を知っていたら違う判断があったかもしれないとの考えだということ。
地元新潟県では、最近まで事実を公表していなかった東電の姿勢に対し、事故があっても速やかに情報を出ないおそれがあり再稼働は認められないとの声。
また花角知事も、「基本中の基本ができていないことを考慮する必要がある」と述べるなど不信が高まっている。

ここはやはり規制委員会が今回の不正の検証をし、あらためて東電の適格性について検討していく必要があると思う。
まもなく事故から10年、地元は事故を起こした東電が再び運転することに厳しい目を注ぎ、その対応をみてきた。
会社としては安全への取り組み姿勢を見せてはいるが、今回の不正を見れば一人一人の社員にはそれが浸透していないのではないか。そうだとすれば組織全体として安全最優先で取り組む体制になっていない可能性もあるわけで、そこを規制委員会はきちんと見ていく必要あり。
そして東電も、地元の信頼が回復できない限り再稼働はあり得ないと肝に銘じて安全管理体制の強化をしていくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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