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「半導体が足りない!問われる日本の戦略」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

クルマや家電製品を作るのに不可欠な半導体。
その半導体が足りなくなり、日本をはじめ、各国の自動車メーカーが、その影響で、生産を減らす動きが相次いでいます。
「半導体がなければ、クルマも、家電も、作れない」アメリカや中国はこうした認識のもと、今、半導体の生産や開発を「国家戦略の一部」ととらえ、積極的な政策に乗り出しています。
日本は、どうするのか。
▼一時的な要因にとどまらない半導体不足の背景
▼半導体を巡る米中の主導権争い
そして▼日本の対応策や課題について、考えます。

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【半導体不足の背景】
まずは足元で起きている、半導体不足の背景についてです。

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スマートフォン、パソコン、クルマなどあらゆる電子機器に搭載される半導体の需要は、デジタル化の進展で、年々高まっています。
そして、それに一層拍車をかけているのが、新型コロナウイルスの影響です。
テレワークや巣ごもり需要が増えて、パソコンやゲーム機が飛ぶように売れ、半導体も世界的な奪い合いになっています。
ところが、車の部品メーカーは感染症拡大の影響を読み違え、半導体の注文をいったん大幅に減らしていました。
このため、半導体が手に入らず、クルマ用の部品も、完成車も、作れなくなってしまいました。
日産自動車とホンダは今週、今年度の販売台数の見通しを当初の計画より、引き下げると発表。
事態が収束するのは早くて夏ごろとみられています。
せっかく回復をみせてきた自動車業界ですが、その流れに、水を差す形となりました。

さて、半導体不足の要因が、これだけであれば、あくまで、一時的な現象だともいえるでしょう。
しかし、問題は、要因が、ほかにも、あることです。

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▼一つはアメリカと中国の対立です。
アメリカ政府が中国の半導体大手の輸出規制に踏み切る動きをにらんで、自動車以外の多くのメーカーが在庫のための注文を増やしていました。
これが半導体の争奪戦に拍車をかけることになりました。
▼また、ヨーロッパがすすめているグリーンエコノミー政策も、少なからぬ影響を及ぼしています。
脱炭素化の目標を達成するため、省エネ用の半導体に注文が殺到し、クルマ用にまわる分が、さらに少なくなったとみられているのです。

「デジタル化」と「脱炭素化」という時代の2つの大きな流れを受け、今、自動運転や、省エネの技術開発がすすんでいます。
最先端の半導体を手に入れられるかどうかが、その先の商品開発の成否を握り、企業や国の競争力をも、大きく左右します。
それだけに、「今回の事態がいったん収束しても、争奪戦は続き、欲しい半導体が、欲しいときに手に入らない、という事態が、再び起きる可能性がある」と警告する声も、聞かれます。

【半導体を巡る米中の主導権争い】
こうした中、「半導体を制するものが、世界を制す」と考え、主導権争いを繰り広げているのが、アメリカと中国です。
いずれも、「半導体の国産化への支援」と「輸出管理」というアメとムチを使い分け、ライバルに打ち勝とうとしています。

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まずアメにあたる「半導体の国産化への支援」についてですが、アメリカは“CHIPS FOR AMERICA”『半導体チップをアメリカに』をスローガンに、半導体を重要な戦略物資と位置付けています。
アメリカへの工場の誘致や設備の導入には、1件あたり日本円で、最大3000億円程度を支援する方針を発表。
10件の助成を決めれば、3兆円規模となる、巨大プロジェクトです。
昨年秋には、こうした支援策もテコに、世界最先端の微細化技術を持つ、台湾の半導体生産受託大手TSMCのアリゾナ州への工場誘致に成功しています。

一方、中国もあわせて5兆円もの資金を、半導体技術の開発に、投じています。
世界の携帯電話のおよそ9割、パソコンの3分の2以上を生産している中国ですが、それを作るための半導体は、海外からの輸入に大きく依存しています。
「半導体を売ってもらえない」という事態が続けば、兵糧攻めにあうかのごとく、国の生産活動に大きな影響が及びます。
このため、自らが半導体大国になることが国の悲願です。
優秀な人材を海外からもリクルートし、半導体の自給率を今の20パーセント以下から、2025年までに70パーセントに引き上げるという、高めの目標設定をしています。
次にアメとムチの、ムチにあたる「輸出管理」の部分ですが、日本にも、大きく影響が及ぶ可能性があります。
アメリカは、通信大手ファーウェイなど中国企業150社以上を対象に、アメリカの技術を使った製品の輸出を禁止。
第3国からの再輸出も禁じていることから、日本のメーカーの輸出にもすでに影響が出ています。
さらに今、アメリカと関係の深い国を巻き込み、「多国間半導体セキュリティ基金」を設立しようという動きがあります。
日本を含む各国に、中国への半導体の輸出管理で歩調をあわせるよう求めてくることも考えられます。

これに対し、中国もけん制をしています。
アメリカへの配慮で、中国への輸出を自粛する企業を、「信用できない会社リスト」に掲載する。
中国でのビジネスをやりづらくさせる。としています。
日本をはじめ各国が、アメリカと中国の「板挟み」にあい、翻弄されることも、予想されます。

【日本はどうする】
こうなると、問われるのが日本の戦略です。

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かつては半導体王国ともいわれた日本は、今でも、一部の半導体や製造装置、シリコンウェハーと呼ばれる部品、それに生産過程で使われる化学薬品の分野では、世界トップクラスの技術やシェアをもっています。
しかし、人工知能やデジタル化の発達でこれから一番伸びるといわれている分野、ロジック半導体という、最先端技術の分野では、世界最強ともいわれる台湾のTSMCや、それに次ぐ韓国のサムスンに太刀打ちできる企業は、もはや日本にはありません。
半導体の研究開発予算も、2000億円程度と、アメリカ・中国より、一ケタ少ないのが実情です。

では、日本は、どのような対策をとればいいのでしょうか。

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自動車メーカーをはじめとする日本企業が安定した調達を続け、これから先も世界で通用する産業競争力を持つためには、海外の力を取り込む。
有力半導体メーカーの工場を国内に誘致することが重要ではないかと考えます。
こうした中、突破口として期待されるのが、今週決まった、台湾TSMCの、日本での開発拠点の設立です。
茨城県つくば市にある産業技術総合研究所の施設を使い、日本企業との共同開発に取り組みます。
日本政府の再三の招きに応じた形で、TSMCにとっても、日本の優れた素材メーカーと、組めるメリットがあります。
最終的な顧客である自動車メーカーも一緒になってやりとりし、技術を模索する中で、日本発の新しい製品のアイディアも生まれてくる。
それがまた、相手企業にとっても、最先端半導体の開発に役立つ、という、「好循環」を生み出すことが、期待できます。
これを手掛かりに、海外の半導体メーカーとの直接の結びつきをどう強め、日本の安定調達にも役立てるかが、課題となります。

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そして、もう一つ考えられる対応は、これから需要が伸びてくるであろう、省エネ用の半導体の研究を、重点的にすすめることではないでしょうか。
デジタル化で、クルマや通信機器が扱うデータの量が飛躍的に増え、消費電力も大きくなるのが、課題となってきました。
日本も脱炭素化を目指す中で、グリーンエコノミー政策の一環として、研究開発を加速させるべきではないかと考えます。

各国が半導体の重要性に気づき、スピード感をもって開発や生産を競う中、日本が手を打てるのは、今、しかありません。
日本の自動車や素材産業が世界のトップクラスにいつづけるためにも、半導体産業の再生に向けて、国も企業も全力を尽くしてほしいと思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

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