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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言延長 早期に解除するために」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、出されている緊急事態宣言が延長されました。栃木県を、解除する一方で、東京や大阪、愛知など10都府県については、2021年3月7日まで、1か月延長されます。政府は、「状況が改善すれば、期限を待たずに解除することもある」としていますが、専門家からは、「解除にあたっては、再び同じような感染拡大を起さないよう、状況を慎重に見極める必要がある」とする指摘もあります。
緊急事態宣言を、できるだけ早く解除できる状況にするために、何が必要なのか、考えます。

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新型コロナウイルスの緊急事態宣言は、1月、11の都府県に出されました。

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政府は、東京や大阪、愛知とその周辺、それに福岡の10都府県について、3月7日まで1か月延長すること決めました。一方で、栃木県については、感染者数や医療提供体制などが改善しているとして、宣言を解除することにしました。
宣言を延長することについて、菅総理大臣は記者会見で「感染の減少傾向を確かなものにしなければならない」と述べ、国民に対し、引き続き協力を呼びかけました。

では、10の都府県の宣言は、なぜ、解除されず、延長となったのでしょうか。
ひとつは、依然として「高い感染者数のレベル」です。

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上の図は、全国の日付ごとの感染者数です。1月初めころをピークに、減少に転じています。これは、クリスマスや忘年会などの集まりで、急激に増加した感染者が、飲食店の営業時間短縮をはじめとした対策によって、減ってきたものとみられています。
ただ、感染者の数を見てみると、2月2日は、2323人です。減少傾向ではありますが、「勝負の3週間」と言われた2020年11月下旬から12月上旬ころと、ほぼ同じで、「少なくなった」とまでは言えない状況だと思います。

もう一つは、「お年寄りの感染者が減っていないこと」です。

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上の図の下側の棒グラフは、東京都の1週間ごとのデータのうち、65歳以上の高齢者の感染者数の推移です。グラフは、1月25日までですが、上の図にあるすべての世代の感染者数が減少に転じたあとも、高齢者は依然、増加していることが分かります。これは、東京だけでなく全国的に見られる傾向だといいます。
高齢者の感染増加に伴って、重症の人の数も赤い線のように推移しています。まだ、ピークを過ぎたと明確には言えず、重症者数は、過去最多に近い水準が続いています。高齢者は、新型コロナウイルスで重症になりやすく、亡くなる人が多いことを考えると、宣言を解除するには高齢者の感染をもっと抑える必要があります。

そして、「医療のひっ迫」です。

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上の図は、各地の病床のひっ迫具合です。緊急事態宣言の出されている11都府県のうち、9都府県は、緊急事態宣言の目安である「ステージⅣ」の基準50%を超えています。注意したいのは、全国平均でも50%を超えていて、医療提供体制の混乱は、宣言が出されていない地域でもみられています。

医療のひっ迫は、様々に影響しています。新型コロナのリスクの高い感染者であっても、病院に入れず、入院の調整がつくまで何日も待つなど、十分な医療を受けられないケースが問題になっています。埼玉県では、1月23日から26日に、入院先の調整中、入院を待っていた高齢者4人が亡くなったことが明らかになりました。

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一方、病院では、感染者の対応に追われて医師や看護師が足りなくなり、一部の病棟を使わないようにしたり、手術を延期したりするケースがあります。新型コロナの感染者以外の患者の中には、医療機関に行くのを控えている人もいて、本来受けられる医療が受けられなくなっています。感染者への医療と同時に、日常の医療に深刻な影響が出ています。

では、こうした事態を解消し、緊急事態宣言を解除できるようにするために、いま何が必要なのでしょうか。
まずは、増加傾向が続く高齢者の感染を抑えることです。

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東京都の高齢者の感染の内訳をみると、高齢者施設で集団感染=クラスターが起きていることが、ひとつの要因として指摘されています。
施設で感染を起さない「感染の予防」、さらには感染が確認された時、ウイルスを施設で広げないことが大切です。
高齢者施設での感染対策を、どうしたらいいのか。

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▽施設では、職員がウイルスを持ち込むケースが多いことから、職員に定期的なPCR検査を実施する、
▽さらに、感染の予防や拡大を防ぐために、感染症対策に詳しい専門の医師を派遣するなど、外部から施設を支援することも必要です。
ただ、現状のように医療がひっ迫していると、感染した人が病院に移るのに時間がかかるなどして、施設内の感染リスクが高まってしまいます。高齢者の感染対策を進めるためにも、医療のひっ迫を防ぐ上でも、感染者の減少傾向をさらに加速させることが必要になります。

どこまで減らしたらいいのか。

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政府の分科会の尾身茂会長は、「すぐにリバウンドせずに、感染のレベルを低く維持できるような仕方で解除することが必要」と、感染拡大を一定程度コントロールできるレベルまで、感染者を抑える必要があるという考えを示しています。
別の専門家からは第2波の後、全国の感染者が数百人で推移した2020年9月から10月より、もっと少なく抑える必要があるとする声も聞かれます。

では、感染を抑えるために、何が必要なのでしょうか。

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政府は、国民に求めることを「基本的対処方針」に記していますが、国民に十分伝わっていない面があります。このうち、飲食店については、緊急事態宣言以降、営業時間短縮の対策が進んでいて、これを継続する必要があります。一方、不要不急の外出・移動の自粛やテレワークは、十分徹底されていないと指摘されています。政府は、今回の宣言延長にあわせて、外出や移動の自粛に「日中も含める」と明記するなど、対処方針を強化しましたが、まずは、こうした対策の内容を、わかりやすく国民に知らせることが大切です。
その上で、私たち一人一人が移動を減らし、人と人との接触をしないよう心がける必要があります。こうした対策が進めば、感染が抑えられ、結果として、経済的な影響を抑えることにもつながると思います。

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さらに、感染力が強い可能性が指摘される変異ウイルス、これに備えることも、いま必要になっています。イギリスで見つかった変異ウイルスは、日本国内で市中感染とみられるケースが見つかり、中には、クラスターになった例も報告されています。変異ウイルスが広がると、日本でもイギリスなどのように、感染者が急激に増える恐れがあります。変異ウイルスをいち早く発見して、封じ込めるためにも、感染者の数を早期に減らすことが、いま非常に重要になっています。

緊急事態宣言以降、感染者は減少が続いていますが、今後も対策を緩めることなく、継続させることが必要です。いわゆる「3密」の回避や手洗い、マスクなど対策の基本を徹底するとともに、感染しても症状が出ないことがあること、高齢者や持病のある人は重症化しやすいといった、このウイルスの性質を、もう一度確認して、一人一人が感染リスクの少ない行動をとることが、求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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