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「急増する自宅療養 対策の強化を」(時論公論)

米原 達生  解説委員

新型コロナウイルスに感染し自宅で療養中に死亡するケースが急増しています。感染の拡大で重症化するリスクのある人が入院できず、保健所も逼迫し、療養中のフォローが綱渡りになっているのです。こうした中で、対策として何が出来るのか考えます。

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解説のポイントです。
▼自宅療養死の実態
▼急増する自宅療養
▼健康観察に医療の目を
の3点です。

まずは、これまで自宅療養中に亡くなった事例から課題を考えます。

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千葉県の60代の男性は、症状が軽く、持病もなかったため自宅で療養していました。保健所から1日一回の健康観察の電話を受けていましたが、感染確認から6日後、「せきや倦怠感」を訴えました。しかし咳止めの薬を持っていて、本人の声も元気そうだったとして、保健所は自宅療養を続ける判断をしました。ところが夜に容体が急変。救急搬送されましたが亡くなりました。
同じく60代の東京都の男性は感染が確認されたとき、37度の発熱がありましたが息苦しさなどはなく、軽症と判断されました。ただ、心臓や腎臓に持病があったため、東京都は入院先を探しました。しかし、受け入れ先は見つからず自宅に待機、毎日の健康観察でも安定していたことから、そのまま自宅での療養が続きました。3日後、ようやく入院先が決まりましたが、その日の夕方、自宅で倒れているところが見つかりそのまま亡くなりました。

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入院調整までたどり着かず、死亡したケースもあります。
神奈川県の70代の男性は、感染が確認されたものの、保健所は業務がひっ迫し、本人への電話が3日後になりました。しかし本人は電話に出ず、その後も9回にわたって電話をしましたがつながらなかったため、感染確認から5日後、自宅を訪ねたところ死亡しているのが見つかりました。男性は一人暮らしだったということです。

入院せず自宅などで亡くなった感染者は警察庁のまとめではこれまでに197人で、先月から急増しています。個別の事例を通して改めて感じるのは、▽軽症であっても急に重症化すること、▽医療機関や保健所のひっ迫が背景としてあること、そして▽自宅療養に医療者の目が届いていないことです。

■増える自宅療養とその背景
この自宅療養をしている人の数は全国で3万5000人を超え、この2か月で急速に増えています。
その経過を東京都でみてみましょう。

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去年11月まで感染者の行き先は、主に青色の部分、入院でした。黄色はホテルでの宿泊療養、赤が自宅療養です。感染症法では入院の対象は、症状が重い人のほか、重症化リスクの高いお年寄りや持病のある人などです。
それ以外は家族への感染を防ぐため、基本は宿泊療養、空きがない場合や子育てなどでやむを得ない場合は自宅療養というのが基本ルールです。
ところが12月に入って感染者が増加すると、それまで入院の対象だった高齢者や持病のある人も、入院の調整が難しくなる中で自宅に残される事態となっていきました。
さらに危険なのが入院を保健所が調整できないまま自宅にいる人たちの急増です。介護や人工透析など複合的な対応が必要なため受け入れが難航する感染者もいれば、聞き取りが追い付かず、どんなリスクがあるのか把握できていない感染者もいます。入院の対象となる多くの人が不安を抱えて「自宅に待機」しているのが今の実情です。

■宿泊療養より医療の関与が弱い自宅療養
では宿泊療養でこうした人を受け入れていくことはできるでしょうか?

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国のマニュアルによりますと、宿泊療養の施設には日中、複数の看護師が常駐し、自覚症状があれば対面での健康観察が行われます。重症化の指標である血中酸素濃度を測定する機器もあり、症状の悪化が疑われればオンコールで医師が対応します。
自宅療養では、原則として1日1回から2回、保健所からの電話がありますが、それ以上の取り組みは自治体に任されています。症状が不安で外来を受診したくても保健所の調整を待たなければなりません。同じ療養でも、宿泊療養の方が医療の関与の度合いが大きいのです。
ただ、宿泊療養は、消毒や清掃の関係でなかなか稼働率があがりません。そして、もともと感染者を隔離するという観点から始まったため、一人暮らしの人よりも家族に高齢者や医療関係者がいる人が優先されます。
また、国のマニュアルで高齢者や持病のある人はそもそも療養の対象ではないことを理由に、宿泊療養では受け入れない自治体もあります。その結果としてリスクのある人が自宅に取り残される形で増えているのですが、それをフォローする保健所も逼迫します。
しかし、医療の目が行き届かない事態を放置していいわけがありません。

■改善に向けて
この状況を根本的に解決するには、感染の波を引き下げ、病床を確保して、必要な人が入院できるようにするしかありません。しかし、それがうまく進まない今、何が出来るでしょうか。
参考として取り上げたいのは去年夏のいわゆる第2波で行われた沖縄県の対応です。

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当時沖縄では感染の増加に保健所の対応が追い付かず一時、400人のリストが積みあがりました。
これを危険だと判断し、主な病院の部長級の救急医たちが参加して、一気に電話で患者の状態を確認し、リスクに応じて入院と療養に分けました。
特徴的だと思うのは、リスクを抱えながら療養する人に“見守りの視点”を入れたことです。家族がしっかりしていて体調の変化をキャッチできる人を自宅療養、一人暮らしなど見守りの目がない人は宿泊療養といった具合です。
そして自宅療養のフォローを保健所任せにせず医療者が入りました。健康観察を毎日行うのは変わりませんが、気になる高齢者については訪問看護ステーションに健康観察を依頼。場合によっては訪問して見守りを強化し、症状の悪化を早期に見つけられたということです。感染者からの相談には救急医のサポートのもとで看護師が電話で対応、必要な人には家族の運転で中核病院での外来診療を受けてもらいました。
こうした取り組みは感染者が大きく拡大した今では当てはまらないかもしれませんが、参考にできることはあります。

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それは、患者についての情報収集と医療者の判断が必要だということです。患者のリスクをうまくキャッチできるかが勝負の健康観察を、ひっ迫している保健所が電話だけ行うのは難しいのが現実です。沖縄県のように、救急医に集まってもらうのは難しいかもしれませんが、患者の持病をよく知っているかかりつけ医や小規模病院の医師が、電話やオンライン診療で患者の状態を判断したり、症状を軽くする薬を処方したりすることはできるはずです。また介護が必要な高齢者を往診や訪問看護で支える仕組みは、もともと地域医療で弱かった部分です。自宅療養者への対応について地域で役割分担を話し合い、体制構築を急ぐべきだと思います。

一方、宿泊療養は、隔離の観点だけでなく、見守る人がいない重症化しやすい高齢者や持病のある人を受け入れる施設としても活用できるよう拡充する時期に来ていると思います。リスクのある人を受け入れるには持病の薬の処方や、急変した時に救急搬送するまでの応急処置など医療的な機能の強化が必要です。国も臨時医療施設としての活用を容認しています。地域の医療者が協力して運営できれば、入院での治療を終え、症状が安定した人の受け皿ともなり、コロナ病床が新たな患者を受け入れることにもつながると思うのです。

年明けの緊急事態宣言以降、感染者の数は徐々に減ってきていますが、重症患者の増加は、感染拡大の波の後にやってきます。感染対策や病床の確保を進めるとともに、医療からこぼれおちたまま亡くなる人が出ないよう、できることを形にしていくことが求められています。

(米原 達生 解説委員)

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