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「北朝鮮の新路線 キーワードは"自給自足"?」(時論公論)

出石 直  解説委員

北朝鮮は今月、朝鮮労働党の党大会と最高人民会議という重要な会議を立て続けに開催し、今後の活動方針を明らかにしました。核やミサイル開発によって国防力をいっそう強化するとともに、経済発展に重点を置いて他国に頼らない国づくりを目指すとしています。

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▽党大会で示された「北朝鮮の新たな路線」とはどのようなものなのかをみた上で、
▽北朝鮮が目指す自給自足による国づくりは果たして実現できるのか?
▽そんな北朝鮮に対し、日本、そして国際社会は、どう向き合っていけばよいのか、
の3点について考えていきたいと思います。

北朝鮮は今月5日から12日にかけて、朝鮮労働党の最高意思決定機関である党大会を5年ぶりに開き、それに続いて今月17日には国の予算や内閣の人事を決める最高人民会議を開催しました。一連の会議では、これまでの活動を総括するとともに向こう5年間の経済発展計画が示され、国防力を質的、量的に強化するための新たな国家戦略が打ち出されました。順に見ていきます。

【新路線:経済】
まず経済です。

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今回の党大会で朝鮮労働党の「総書記」に就任したキム・ジョンウン氏は、まず前回の党大会からこれまでの5年間を振り返り「掲げた目標のほとんどが達成できなかった」と述べて目標が達成できなかったことを率直に認めました。その上で、向こう5年間の新たな「経済発展5か年計画」を打ち出しました。金属・化学工業に投資を集中し生産を拡大して人民生活を向上させるとしています。
北朝鮮の経済は、▽国際社会からの厳しい経済制裁、▽新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国境封鎖、▽それに去年夏から秋にかけての水害という三重苦によって、大きな打撃を受けています。とりわけ国境封鎖による影響は深刻です。

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中国の税関当局の発表によりますと、去年一年間の中国と北朝鮮との貿易総額は前の年に較べて80%以上も減り、過去20年間でもっとも少なくなっています。年の後半になって急激に落ち込んでいるのは、10月の朝鮮労働党創建75周年やことし1月の党大会に備えて国境での検疫を強化したためと見られます。特に去年10月から12月にかけては前年の98%から99%減、100分の1程度にまで落ち込んでいます。中国からの輸入が大幅に減ったことで物資が不足し、中国への輸出が落ち込んだことで外貨不足が深刻化しているものと予想されます。
今回の党大会で打ち出された「経済発展5か年計画」はまさにどん底からのスタートとなります。

【新路線:軍事・対外戦略】
次に軍事と対外戦略について見ていきます。

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キム総書記は「最強の軍事力を備えるため国防力を質的にも量的にも強化する」として、次のような計画を明らかにしました。

「核兵器の小型・軽量化」「超大型核弾頭の生産」「水中発射が可能なSLBMの開発」
「原子力潜水艦の建造」「軍事偵察衛星の運用」

これらすべてが実現するとは到底思えませんが、今月14日に行われた軍事パレードには新型とみられるSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルが登場しており、軍事技術の開発を着実に進めているものと見られます。

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キム総書記は今月発足したアメリカのバイデン新政権についても「誰が権力の座につこうとも、アメリカという実体は変わらない」と述べ、「最大の敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせていく」と強調しました。

【自力更生・自給自足】

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こうした一連の国家戦略を貫いているのが「自力更生・自給自足」というキーワードです。
最大の貿易相手国である中国との貿易が大幅に落ち込んでいる中で、北朝鮮としては早く中国との貿易を再開したいところでしょう。しかし、安易に国境を開いて新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、ただでさえ脆弱な北朝鮮経済が壊滅的な打撃を受けることは確実です。
中国からの物資に頼らず、自力で賄える体制を整えるといっても、その実現には相当の困難が伴うでしょう。北朝鮮は中国からプラスチック製品や電気機器などを輸入していますが、輸入品よりも粗悪で値段も高い国産品で果たして国民は満足するでしょうか?キム総書記がしきりに繰り返す「人民生活の向上」とは程遠い結果を招いてしまうことになるのではないでしょうか。
勇ましいスローガンとは裏腹に、コロナの感染状況を見ながら、いずれ国境管理を緩めてくるのではないかと予想します。

外交面でも他国に頼らないという姿勢を明確にしています。

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歴史的な米朝首脳会談で非核化への道を歩み始めたかに見えた北朝鮮ですが、おととしのハノイでの会談は物別れに終わりました。良好な関係を維持していたトランプ前大統領も政権を去りました。核の放棄をちらつかせながらアメリカとの交渉で制裁解除を勝ち取る可能性は遠のいたと北朝鮮は認識しているのではないでしょうか。バイデン政権の発足を受けて、対アメリカシフトの仕切り直しを迫られているように見えます。当面の焦点は、例年3月に行われている米韓合同軍事演習です。シンガポールでの首脳会談の後、トランプ大統領は軍事演習の中止を決めてキム総書記を喜ばせましたが、トランプ政権とは異なる新たな戦略を取るとしているバイデン政権が軍事演習についてどう判断するのか、それに対する北朝鮮の反応も注目されるところです。

【国際社会は】
ここまで北朝鮮の新たな路線について見てきました。はたから見るとやせ我慢のようにも思えますが、少なくとも表向きは、経済面でも軍事・外交面でも、他国の力には頼らず自らの力で将来を切り開いていこうとしているかに見えます。では日本は、国際社会はそうした北朝鮮に対してどう向き合っていけば良いのでしょうか?

2つのことを提案したいと思います。

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ひとつは「経済制裁の維持」です。核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に対し、国連の安全保障理事会は何度も制裁決議を採択しています。とりわけ2017年に出された決議は北朝鮮への原油の提供を厳しく制限するなどきわめて実効性の高い内容となっています。これ以上、核・ミサイル開発を加速させないためにも経済制裁の手を緩めるべきではありません。

「国際社会の連携」も重要です。頑なに見える北朝鮮ですが、今回の党大会の活動報告でも、アメリカに敵視政策の撤回を求めたり、韓国のムン大統領との首脳会談で交わしたパンムンジョム宣言に言及したりするなど、対話の再開に含みを持たせています。北朝鮮を非核化交渉の場に引き戻すためには、国際社会の連携、とりわけバイデン政権、そしてこの地域の平和と安定にとって重要な韓国との連携は欠かせません。

北朝鮮に対する脅威認識を共有し、制裁の手を緩めず、アメリカ、韓国をはじめとする諸外国と連携していくことで、遠ざかったかに見える核のない朝鮮半島を実現する。そのための努力を辛抱強く重ねていくことが重要と考えます。

(出石 直 解説委員)

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