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「新型コロナウイルス 緊急事態拡大 人の移動・接触を最小限に」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

感染拡大が、全国で起きています。新型コロナウイルスの感染を抑えるため、菅総理大臣は、緊急事態宣言の対象地域をこれまでの首都圏の4都県に、大阪や愛知などを加え、11都府県に拡大しました。3大都市圏が対象になり、宣言を実効性のあるものにするためには、全国で徹底した感染対策をすることが一層必要になったと言えます。いま、重要なことは人の移動や接触を最小限に抑えるひとりひとりの取り組みだと思います。
そのことを実践するために、何が求められるのか、考えます。

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緊急事態宣言は、2021年1月7日に発表され、翌日から2月7日までの期間、東京と埼玉、千葉、神奈川の4つの都県に出されました。これは、この4都県の感染者が、全国のほぼ半数を占めるなど感染拡大の中心だったことなどが理由ですが、菅総理大臣は、さらに大阪や兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7つの府県も、対象地域に加えました。

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感染者が増加している要因としては、職場の宴会や若者の飲食をする場面を中心に感染が広がり、これが、職場や家庭での感染につながったとみられています。
それに加えて、クリスマスや新年で、仲間やふだん会わない知り合いと食事などで行動を共にしたことも要因として指摘されていますが、これについては、さらに詳細な分析が必要だとする専門家もいます。
大阪では、大阪市内のお酒を提供する飲食店に営業時間を午後9時までに短縮するよう要請するなどして、一時、感染者は減少したように見えました。しかし、年明けから、急増しました。栃木県も年末頃から急激に増加し、人口あたりの感染者数は、直近の1週間では全国で4番目に多くなっています。首都圏では、東京の感染者の増加が周辺に「染み出している」と指摘されていますが、隣接する県だけでなく、その先の栃木県にまで感染が拡大しました。

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具体的な対策を示す「基本的対処方針」は、次のようになっています。
今回の感染の山、いわゆる「第3波」で対策の重点が置かれている飲食店などに対しては、営業時間を午後8時までに短縮する。お酒の提供は午前11時から午後7時までに要請するとしています。要請に応じなければ、店の名前を公表することもできます。
さらに、午後8時以降の不要不急の外出自粛の徹底、テレワークを推進して、出勤者の数、7割削減を目指すよう求めています。また、イベント開催の制限も盛り込んでいます。
これは東京など4都県に出された時と変更されていません。

では、すでに緊急事態宣言が出された4つの都県では、その宣言の効果は、どれくらいあったのでしょうか。

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感染者の数にあらわれるまで、あと1、2週間かかります。ただ、1月10日の日曜日の繁華街の人出を見ると、2020年12月の土日より減少していますが、2020年の緊急事態宣言の時の土日や祝日の平均を大きく上回ったということです。また、平日も駅や通勤電車の混雑について利用者からは、「宣言前とあまり変わっていない」といった声が聞かれました。理由として長い間、感染対策を続けてきたことによる、ゆるみ「コロナ疲れ」などといわれていますが、こうした状況では、宣言の効果は限定的なのではないかと危惧する指摘もあります。

さらに、気になるのは、緊急事態宣言が出されていない地域でも、感染が拡大している県があることです。

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1月12日までの1週間と、その2週間前12月29日までの年末の1週間を比較すると、感染者が減少したのは、地図の青で示している、8つの県だけです。多くの都道府県では、年末から年始にかけて感染者が増えています。
たとえば、首都圏と中京圏に挟まれた静岡県、そして熊本県を見ても、感染者が急増しています。静岡県では、特に神奈川県側の県の東部で感染者が増えています。また、熊本県では、一部の飲食店に要請してきた営業時間の短縮の期間を延長するなど、県独自で対策を進めています。他にも北海道、ここでは、全国的にも早い時期から対策を進め、感染者がいったん減少しました。しかし、病院などでの感染が続き、再び増加傾向になっています。
こうした国内の状況を見ると、県境をまたぐ移動は最小限にする、そうした対策の徹底が求められます。

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これは私たちが、初めて経験している「冬場の新型コロナウイルス対策」の難しさなのかもしれません。

このように、宣言の対象以外でも感染が拡大している地域が少なくない現状で対策は十分なのでしょうか。

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ひとつは、政府が対策を呼び掛けた際、食事でマスクを外す飲食店が感染拡大の「急所」だとして、午後8時以降、飲食店に営業しないよう強く求めました。ただ、このとき「夜の飲食店の対策」に注目が集中してしまい、対策の重要なメッセージが十分伝わっていないのではないでしょうか。
つまり、感染対策の基本となる
▽人の移動を抑え、
▽人と人の接触の機会を極力減らすこと、
それを1日の生活のあらゆる場面で実践し、感染のリスクを避ける、こうした行動を徹底することの重要性を国民に理解してもらうことが大切だと思います。そうできれば、対策をせずに仲間と昼間から会食をするようなリスクの高い行動もとらなくなると思います。
宣言が出されている都府県はもちろん、出されていない地域でも、求められていることだと思います。

いま、この感染拡大を減少に転じさせることは、「待ったなし」で必要になっています。
対策が遅れるとどうなるのか。

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ひとつは、保健所や医療機関の業務がひっ迫し、一部で起きているとされる「医療崩壊」が加速しかねません。1月13日の専門家の会議でも、感染者の急増で、患者が入院する病院を調整する作業が困難になったり、通常受けられる医療を受けられなくなったりする事態が起き始めていると指摘されました。保健所や医療機関にかかり続けている負担を、この緊急事態宣言を契機に解消しなければなりません。
もう一つ、早期に感染を抑える必要性を感じるのは、変異したウイルスの存在です。
新型コロナウイルスの遺伝情報が一部変化した変異ウイルスが、イギリスで見つかったのをはじめ、それとは異なる別の変異ウイルスが、南アフリカ、それにブラジルでも見つかっています。これらの変異ウイルスは、これまで日本などで広がっているウイルスに比べて、感染力が強いのではないかと考えられていて、各国が警戒しています。
日本も国内への侵入は阻止しなければなりません。
変異ウイルスの対策として、政府は、特段の事情がない限り、外国人の入国を全面的に制限する方針を固めましたが、今後、変異ウイルスはどのような形で見つかるかわかりません。そのときに備えて、国内の感染者の数を抑えて、そうしたウイルスが見つかった際に、封じ込めができる体制を整えておくことも大切になります。

菅総理大臣は、1月7日の記者会見で緊急事態宣言の期間が終わる「1か月後には必ず事態を改善させる」と述べています。対策を徹底しないと、緊急事態宣言が長引いて、結局は経済にも計り知れない影響が出てしまいます。国民一人一人が人の移動、あるいは人と人の接触を最小限にする生活を徹底できるよう政府には、このウイルスの感染対策の難しさと必要性を継続して説明することが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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