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「コロナ禍の成人の日 ~未来を語る場を~」(時論公論)

名越 章浩  解説委員

成人の日を心待ちにしていた若者も多くいらっしゃったと思います。しかし、今年は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、新成人を祝う式典は、多くの自治体が中止や延期を決め、開催した自治体でも異例の対応が求められました。
成人の日を祝う式典の意義について考えます。

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全国の市区町村で新成人の数が最も多い横浜市では、成人の日に式典が開かれました。

j210111_00.png (横浜市の成人式の様子)

横浜市の成人式をめぐっては、去年7月、市がいったんオンライン形式で行うと発表しましたが、反対意見が多く寄せられたため、一転して式典の開催を決めた経緯があります。

このため、新型コロナ対策として、例年と違って会場を2か所に分けたうえで、参加者を入れ替えながら、合計8回行う分散型での開催となりました。

式典は、例年の半分ほどの15分間に短縮したほか、参加者に対して、式典の後に会食などを行わないよう、強く呼びかけていました。

コロナ禍での式典の開催をめぐっては、不安視する意見もあり、全国の自治体が模索を続けてきました。

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1月10日に開かれた静岡県焼津市では、新成人がそれぞれ車に乗って港の岸壁に集まって祝う「ドライブイン」方式がとられました。また栃木県益子町などでは、町が費用を負担して、出席者全員に事前にPCR検査を受けてもらって開催するなど、知恵と工夫がみられました。

一方、毎年、東京ディズニーランドで成人式を行ってきた千葉県浦安市は、予定していた成人の日の式典を取りやめ、3月への延期を決めるなど、多くの市区町村が中止や延期を余儀なくされました。

総務省の推計によりますと、新年を20歳で迎えた新成人は、およそ124万人。

新成人の中には「式典が中止になっている所もある中で、開催してもらえてありがたい」という声がある一方で、「コロナが怖いので出席を諦めました」という声もあります。

一生に一度の晴れの日を、賛否の意見があるこの時期ではなく、別の時期にズラす検討をもっと早めにしておけば式典の中止や出席の見送りという最悪の事態は避けられたのではないかという疑問を持つ人も少なくありません。
そもそも成人式を1月に開かなければならないという決まりは無いからです。

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成人を祝う式典については、古くは、奈良時代以降、成人になったことを示す通過儀礼として「元服」が行われていましたが、今のような自治体などが主催する式典が全国的に行われるようになったのは、戦後のことです。

その発祥の地とされているのが、今の埼玉県蕨市。昭和21年から始まった「青年祭」がそれです。

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蕨市の戦後を記録した史料によりますと、当時は、戦争に負け、食糧や住宅が不足する中、街には職を求める人や身寄りを失った人たちが溢れていました。そこで、地元の議員でもあった青年団長が「若い人に大人としての自覚を奮い立たせ、平和で住みよい国づくり、町づくりに立ち上がろう」と呼びかけて、これに呼応した青年たちが自分たちで計画を立てて開いたといいます。

国民学校の校庭などを会場に、おでんや、やきいもなどの模擬店が並び、芸能や野球の大会など、文化祭と体育祭を組み合わせたような催しが3日間開かれ、盛況だったそうです。

この催しが全国的に反響を呼び、2年後の昭和23年、成人の日を定めた国民の祝日に関する法律が施行され、それ以降、全国的に成人式が広まっていったということです。

法律には、「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日であることが規定されています。
つまり、「成人の日」は、自立して生きる若者を励ます日というわけです。

では、今年の成人式の対象となる世代は、どのような20年を歩んできたのでしょうか。

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今年は、平成12年の4月2日から平成13年の4月1日の間に生まれた若者が対象です。
彼らが生まれた年を西暦に直すと、2000年から2001年にかけて生まれた世代ということになります。

2000年生まれは、いわゆる「ミレニアムベイビー」と呼ばれ、2001年は、21世紀になって初めて生まれた、いわゆる「新世紀ベイビー」と呼ばれた世代です。

そんな彼等の多くが生まれた2000年には、IT基本法が成立。

一般家庭にも高速のインターネット環境が整い、家庭用ゲーム機もネットと接続し高性能化していきました。スマートフォンを使いこなし、LINEなどのSNSでコミュニケーションをとる、まさにIT世代です。

また学校教育では、この世代が小学校の低学年の頃に、それまでの「ゆとり教育」からの転換が図られ、授業時間が増えていきました。
小学校での英語の必修化を初めて経験したのも、この世代です。

この20年の間、世界規模の金融危機、リーマン・ショック。インターネットを使った「いじめ」の問題の深刻化。児童生徒の自殺者増加。そして東日本大震災や西日本豪雨などの大規模災害が相次いだ時代を歩んできました。

社会の変化や厳しさを目の当たりにしてきた彼らは、若いうちから欲を捨て、安定を求める世代ともいわれます。

私は、新成人の1人を取材しました。
都内の大学に通う根岸玲さんです。千葉県内の地元の成人式の実行委員会の会長を務めてきました。
しかし、新型コロナの感染拡大が続いたため、先月末、新成人を集めて行う従来の形での式典の中止が決まり、事前に用意してきた中学校の恩師のメッセージ動画などはオンラインで配信することになりました。

根岸さんは、コロナの状況をみると「仕方がないこと」と考えています。

しかし、成人式を開く意義とは何か、深く考えるきっかけになったとして、このように話してくれました。

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「市長などの挨拶はオンラインでもできます。でも実際に参加する側としては同級生と直接会うことに意味があると思っています。ちょっと大人になった自分たちが顔を合わせて未来について考えられる機会だと思うんです」

私は、この「未来について考えられる機会」という言葉が、成人式の本質を言い得ていると思うのです。

感染拡大が続く今は、無理せず、むしろ感染を広げないための社会人としての振る舞いを新成人にしっかりと伝えることが重要でしょう。
しかし、かつての同級生が学校の垣根を超えて一堂に会し、小中学生の頃とは違った経験や価値観を持ち寄って、ふるさとや日本の未来を語る機会は、滅多にありません。全員が根岸さんのような意識で成人式に臨むわけではないにしろ、この貴重な機会を確保することには大きな意味があると思います。

例えば、中止を決めた自治体であっても、コロナの収束後に代わりとなる式典を設けることは検討できるのではないでしょうか。

戦後、初めて開かれた、あの蕨市の青年祭は、「平和で住みよい国づくり、町づくりに立ち上がろう」と若者に未来を託し、若者がみずから動き始めました。

コロナが収まった後の日本をどのように創り発展させていくのか、彼ら自身が考えることが、そしてその機会を守っていくことが、成人の日の本来の趣旨にもあっているのではないでしょうか。

(名越 章浩 解説委員)

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