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「緊急事態宣言へ ことし政治に問われるもの」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

菅総理大臣は、東京など1都3県を対象に緊急事態宣言を再び出す方針です。今回の「時論公論」は、現在、そして将来を見据えた新型コロナ対策の課題と、年内に衆議院選挙が行われる「選挙の年」に、政治に問われるものは何かを考えます。

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1都3県を対象にした緊急事態宣言について、菅総理は、年頭の記者会見で、「三が日も感染者が減少せず、全国の半分という状況を深刻に捉え、より強いメッセージが必要と考えた」と説明。そのうえで、「どこが問題かは鮮明になっている。限定的、集中的に行うことが効果的だ」と強調し、「飲食に対する実効的な対策をこれから詰める」と述べました。7日に正式に決定する方針です。
これに対し、立憲民主党の枝野代表は、緊急事態宣言を出すこと自体は評価しながらも、「判断が遅きに失した」と述べ、事業者などへの十分な補償を求めています。

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政府は、新型コロナの感染防止と社会経済活動の両立を目指してきました。経済への負担から、何としても避けたいとしてきた緊急事態宣言を出さざるを得ない状況は、対策のむずかしさと課題を示しているように思います。
新型コロナについて、政府の分科会など専門家は、「他の人に感染を広げるのは2割以下」であること。「感染させる可能性が高いのは症状が出る前後」で、「症状が出る前は、2日前から感染させている可能性がある」などとして、症状のない人が感染を広げている可能性を指摘。一方で、「3つの密」を避け、飲食の場での防護対策を取れば、大きな流行は抑制できると訴えてきました。
しかし、感染に歯止めはかかりませんでした。
このため菅総理は、感染を抑え込むため、まずは、緊急事態宣言。さらに給付金と慎重論もある罰則をセットにした新型コロナ対策の特別措置法の改正案を通常国会に提出する方針を示しています。
ただ、日常生活や仕事で十分に注意し対策を取っている大半の人にとっては、これ以上の自粛には抵抗感があるでしょうし、影響を受けながらも何とか対策をとってきた事業者にとっては、これ以上の制限は生活にかかわる深刻な問題です。対策の強化は、不満や怒りを募らせる要因になります。
政治が打ち出す対策や方針は、通常であれば、国民の大半に理解、支持されれば合格点かも知れません。しかし、新型コロナ対応では、ターゲットを絞って、理解してもらえる対策と情報発信が必要です。今回の緊急事態宣言は、前回より限定的なものになる見通しですが、影響を受ける人への支援を充実させ、対策が浸透しなければ、感染の拡大と対策の一層の強化を繰り返す悪循環に陥りかねません。
そして、対策が効果をあげる大前提は、特別措置法の改正を審議し、予算を決める政治への信頼であり、それがなければ、いかなる呼びかけも届かないということを、まず強調しておきたいと思います。

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次に、今、必要な対策と、コロナ後をにらんだ構造転換の課題を考えます。
まず問われるのは、厳しい状況に置かれた人に、必要な対策が届いているかという点です。
生活支援の相談にあたっている現場では、「生活保護が受給できるのに、世間体を気にして相談すら、できずにいた」など、厳しい状況にもかかわらず、声をあげなかったり、収入が減ったのに、わずかに基準を満たさないため支援が受けられなかったりした例も少なくないといいます。また、去年、早い段階で緊急の小口融資を受けた人からは、春から返済の時期に入ることから、「返済が免除されるかどうか不安だ」という相談が寄せられ始めているそうです。支援をすれば、それで終わりではなく、その後のフォローアップはできているのか、点検が必要です。
さらに、こうした取り組みは、行政だけでなく、NPOやボランティアなども支えてきていますが、現場の頑張りも限界に来ています。こうした、いわば「支える側」への支援も具体的な対応を急ぐ必要があるのではないでしょうか。

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一方で、コロナ後を見据えた社会という点で、政府が打ち出しているのが、9月発足を目指すデジタル庁の設置など行政の情報システムの統一による国民生活の利便性の向上。そして、2050年に温室効果ガスの排出の実質ゼロを目指す脱炭素社会への転換。持続可能な社会の実現と日本経済を引っ張るエンジン役となる新たな成長分野の創出です。

新型コロナがもたらした影響が、こうした取り組みを加速する機運につながった形です。
ただ、こうした転換は、負担や痛みを伴います。デジタル化は、政府や自治体にとって、これまでの投資に加え、新たな費用負担が生じます。これを補う以上の利便性や将来の新しい技術にも対応可能な制度設計が不可欠です。
また、脱炭素化は、企業や私たちの暮らし、社会を大きく変えることになります。技術革新が進む分野がある一方で、縮減を余儀なくされる分野も出てくることは避けられません。成長分野への労働力の移行、新たな分野に移行する体力のない中小企業への影響は深刻で、十分な手当が必要です。コロナ対策の当面の支援と、新たな社会への転換に向けた布石との兼ね合いをどうするか。準備不足のまま、転換を急げば急ぐほど、影響は大きくなります。新たな負担や痛みをどう分かち合っていくか、重要な政治の課題です。

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さて、ことしは、有権者が政治の取り組みを判断する選挙の年です。
今月18日に召集される見通しの通常国会。政府・与党は、今年度の第3次補正予算案と新年度予算案の早期可決・成立とデジタル庁を設置する法案などの可決・成立を目指します。
4月。吉川元農林水産大臣の議員辞職に伴う衆議院北海道2区と立憲民主党の羽田元国土交通大臣の死去に伴う参議院長野選挙区の補欠選挙が行われる予定です。

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吉川元大臣が在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金を受け取った疑いがある事件など「政治とカネ」をめぐる問題、そして、立憲民主党と他の野党との選挙協力も焦点になりそうです。
7月に任期満了を迎える夏の東京都議会議員選挙は、都市部の無党派層の影響が大きく、これまでも政治の流れを先取りした例があります。

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そして、9月末に自民党総裁の任期満了。10月には衆議院議員の任期満了を迎えます。
政界では、衆議院の解散の時期について、▼4月の補欠選挙や都議会議員選挙とあわせる案、▼東京オリンピック・パラリンピック後が取りざたされています。
また、自民党内では、▼自民党総裁選挙で国民の関心を高めた後、衆議院選挙に臨むのが得策だという考え方や、菅総理に近い議員からは▼衆議院選挙で勝利し、その後、総裁選挙で菅総理を事実上無投票で再選するのが望ましいという声もあります。
いずれにしても、解散の時期は、今回の緊急事態宣言による感染と経済の状況、ワクチンの接種とその効果、それにオリンピック・パラリンピックがどうなるか、与党公明党の意向なども、菅総理の判断を左右するものと見られます。

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新型コロナ対策は、これまでタイミングが遅く、内容も不十分だという批判もありました。緊急事態宣言が出された後、召集される見通しの通常国会で、政治は、こうした批判に、どうこたえていくのか。
3月、東日本大震災と原発事故から10年の節目を迎えます。「人口減少や少子高齢化などの課題を克服できる復興」を目指した教訓は、社会を変えていくという点で、これからの対策に生かされているのでしょうか。

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そのうえで、政治に求められるのは、希望を持てる将来に向けた「構想力」であり、将来に通じる「セーフティネット」の構築など実現への道筋を示す「説得力」でしょう。そして、最も重い問いかけは、政治は国民に信頼されているかどうかにあることを重ねて強調しておきたいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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