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「展望2021 コロナ禍から復活の年に」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長

新型コロナウイルスの感染者が再び急増し、政府が一都三県について緊急事態宣言の検討に入るという異例の年明けを迎えました。2月下旬にはワクチンの接種が始まりますが、今年もコロナの感染防止が最大の課題になります。一方今年はアメリカでバイデン政権が誕生、世界各国ともにグリーン戦略を前面に打ち出し、感染防止に取り組みながらもコロナからの再生を目指して動き出す年になります。

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〇感染防止と危機感の共有

菅総理大臣は年頭の会見で、東京、埼玉、千葉、神奈川の一都三県を対象に緊急事態宣言を出すことを検討する考えを示しました。政府は飲食による感染リスクを軽減するため、今週中、できるだけ早い時期に宣言を出し、期間は一か月程度とする方向で調整しています。
医療現場から通常の医療体制や救急体制が維持できなくなりつつあるという切実な声があがっているにも関わらず、感染拡大が収まらない背景について、専門家からは、感染状況や対策を巡って政府と自治体の間で温度差があるケースがあり、国民に十分に危機感が伝わっていないという指摘も出ています。
政府と自治体、関係者が一体になって、今、感染がどのような状況にあり、何が必要なのか、どう行動すべきか、わかりやすいメッセージを発し国民と危機感を共有するとともに、地域ごとの実情に即して最も効果的な対策をちゅうちょなく行うことが求められています。

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〇脱炭素に動く世界

緊急事態宣言が出されれば、コロナ収束への道のりはさらに険しくなることは避けられません。ただ感染拡大が続く中でも、世界は今年、コロナ後を見据えて気候変動対策を通じ社会の再生に動き出そうとしています。
アメリカではバイデン次期大統領が今月20日の就任後、直ちに温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰し、100日以内に気候変動サミットを開催する考えを示しています。今後4年間で再生可能エネルギーなどに200兆円規模の投資を行い、環境政策を強力に推進する構えです。
EUも復興基金と次期予算計画で70兆円を投資しグリーンによる経済成長を目指します。温暖化対策に不可欠なバッテリーについて域内での生産を強化し、産業振興にも繋げようとしています。最大排出国、中国も2030年に排出量を削減に転じさせると表明、2060年に実質ゼロを目指しています。
相次ぐ脱炭素化に向けた表明は、世界の気候変動対策を後押しすることは確かですが、各国が環境対策の名のもとに自国の産業競争力の保護に走れば、新たなルール作りに向けた国家間の戦略的な競争に突入するリスクがあると懸念する声も出ています。

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〇動き出す日本のグリーン成長戦略

日本も2050年の脱炭素社会の実現に向けて、温暖化への対応を経済成長の機会と捉えたグリーン成長戦略をとりまとめ、今年、新しい技術開発のため2兆円の基金を設けるなど、官民挙げた取り組みを本格化させます。
ただその実現には、飛躍的な技術革新や抜本的なビジネスモデルの転換、さらにライフスタイルの変化も欠かせず、日本社会全体に大きな変革を迫るものになります。
計画では2050年に向けて発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%から60%に引き上げることが参考値として盛り込まれ、今年、その手前の2030年段階で再生可能エネルギーをどこまで引き上げるかが議論されます。

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計画のうち洋上風力発電については2040年まで4500万キロワットに引き上げる目標ですが、現在国内には風車の製造拠点はなく、関連産業の育成が課題です。原子力も脱炭素の選択肢として位置づけられましたが、安全性への懸念は根強く残っています。

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大きなインパクトを受けるのが、自動車産業です。計画では2030年代半ばまでに乗用車の新車販売をすべて、電気自動車やハイブリッド車などの電動車にする方針が示されました。自動車関連の産業に携わる人は550万人と日本の就業人口の10%に達します。ガソリン車がおよそ3万点の部品で作られているのに対し、電気自動車になると部品の数が大幅に減るとみられ、電気自動車の普及は、部品メーカーも含めて自動車産業に大きな影響を与えるとみられます。自動車業界は「業界を挙げてチャレンジする」としながらも、「研究開発や設備投資への支援、電動車購入の補助金など需要喚起策を含め十分なサポートが必要だ」と訴えています。

一方、世界を見渡すと電動化への流れをチャンスとみて新たな参入が相次いでいます。アマゾンは、自ら出資するベンチャー企業と組んで配送用の電動トラックを開発、来年中に世界各国で一万台を投入する計画です。またアップルも電気自動車の販売を目指して電池の開発を進めていると先月、海外の通信社が伝えました。巨大IT企業が実際に参入すれば、業界地図を一気に塗り替える可能性があります。日本の部品メーカーの中でも、新しいビジネスに乗り出す動きが出始めています。愛知県のある部品メーカーは、アメリカ・シリコンバレーのベンチャー企業と組み、人工知能を使って無人でも動く電動トラクターを開発、今年現地生産を始めます。将来は人手不足に悩む日本の地方の農家にも納入する計画です。武蔵精密工業の大塚浩史社長は、「自動車部品だけに依存ぜず、技術力を通じて社会課題を解決する会社への脱皮を目指したい」と話しています。

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〇デジタル社会への期待と課題

今年はデジタル化に向けた具体的な取り組みも本格化します。
9月にはデジタル庁が発足、行政のデジタル化の司令塔として動き出します。マイナンバーカードの普及に向けて、3月には健康保険証としての運用が開始、スマートフォンへの搭載に向けた実証実験も始まり、運転免許証との一体化に向けた調整も進められます。政府は全国1000か所でオンラインによる行政手続きの説明会を行い、高齢者などデジタル技術に慣れていない人への支援を行う計画です。利用者にとって便利でいかに使いやすいサービスを提供できるか、個人情報を委ねることに対する安心感と信頼感を醸成できるかが、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会」を目指す上で欠かせない条件ではないでしょうか。

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コロナ禍はテレワークやネットショッピングをはじめ社会のデジタル化を一気に加速させています。今後、デジタル化は人工知能やロボットの導入に伴ってさらに進み、三菱総合研究所の試算では、2030年には、事務職、生産現場でそれぞれ120万人、90万人、人手が余る一方、逆に専門技術者は150万人、不足するとみられています。
オンライン診療やビジネスホテルへのロボット導入などデジタル化は感染症に強い日本社会を築くためにも必要で、それを支える人材の育成を急ぐ必要があります。

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感染防止をどう抑え、最もしわ寄せを受ける弱者を守りながらいかに経済活動を維持していくか、今年も難しい舵取りが続きます。その上で、世界各国がグリーンによる再生に動き出す中、コロナ後の社会は元には戻らないという現実を踏まえて、変革への一歩を踏み出せるかが問われる年になります。

(今村 啓一 解説委員長)

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