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「新型コロナ1年 対策の課題と今後の展望」(時論公論)

米原 達生  解説委員

2020年は新型コロナウイルスへの対応に追われた1年になりました。
感染の2つの波を乗り越えた私たちは、いわゆる第3波に加えて変異ウイルスが登場する中で年末年始を迎えました。これまでの1年でわかってきたこととその課題、そして今後に向けた展望を探りたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
▽飲食の場への感染対策
▽医療体制はなぜひっ迫するのか
▽「変異ウイルス」の登場

▼舞台は「飲食店対策」に
最初は感染経路や感染力もはっきりしなかった新型コロナウイルス。春のいわゆる第1波は緊急事態宣言に伴う外出自粛や休業要請などの強い措置と、濃厚接触者を追うクラスター対策で封じ込めました。

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その過程で分かってきたのが、▽主な感染経路が「飛沫感染」や「マイクロ飛沫感染」であること、そして、▽症状が出る2日前から無症状であっても感染させることでした。通常のウイルスは症状が出てから感染しますから、特別な対策が必要になります。症状がない人も常にマスクを着用する「ユニバーサルマスク」は国民的な運動になり、大きな効果を上げました。
しかし、この対策、マスクを外す食事の場面ではめっぽう弱いという急所があります。いわゆる第2波は接待を伴った飲食店、第3波は一般的な会食の場が感染を広げる場面となっています。これまでの集団感染の数は、飲食店が700件を超えて最も多くなっていて、感染の連鎖がここで終わらずにほかの場所にもひろがっているとみられています。感染対策はここにきて、飲食の場面にどう対策を打つかに焦点が絞られた形です。私たちも大人数での会食は控える必要がありますし、飲みすぎて大声を出さないなど十分注意しなければなりません。

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飲食の場への対策をめぐって議論になっているのが新型コロナウイルス対策の特別措置法です。特措法では飲食店などへの営業時間の短縮は知事による「協力の要請」にとどまっています。罰則はありません。書き入れ時の忘年会・新年会シーズンを迎えている飲食店には要請に応じないところも多いとされ、東京では時短を要請したにもかかわらず、人の流れが増加、感染拡大が続いています。政府は、要請に応じない店には罰則をつけ、応じた店には支援を行う法改正を検討しています。

しかし、営業に大きな影響を与えるような措置が取られる前に、ほかに実効性のある手立てはないのでしょうか。

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飲食店には業界が定めた感染防止のガイドラインがあります。客同士を1メートル以上離すかアクリル板を設置するのはもちろんのこと、換気ができているかどうか二酸化炭素の濃度でチェックする方法なども、冬の感染対策として新たに盛り込まれました。

しかし、ガイドラインはどの程度守られているのでしょうか。
実はよくわかっていません。
例えばGOTOイートではガイドラインを順守していることが飲食店の参加条件です。
しかし、国の事業であるこのGOTOイートですら参加する前に守っているかどうかチェックしているのは、農林水産省によりますと山梨県くらいで、ほとんどありません。基本的に飲食店の自己申告です。
飲食店の組合では、ガイドラインを順守しているかどうかチェックしてもらう取り組みを始めていますが、チェックして回る人の人件費が足りないため、十分には進んでいません。行政も関わって感染対策をチェックし、十分でなければ改善するなど、対策の実効性を確保していくことが必要だと思います。

▼「医療の受け入れ体制」
一方、この1年、感染対策と社会経済活動のバランスをとるうえで、常に課題になったのが、思うように進まない医療の受け入れ体制でした。新型コロナの患者の入院のために確保したとされる病床は全国で2万7000床あまりと、急性期病床68万床のうちのわずか4%にすぎません。感染者数が欧米より一桁少ないにも関わらず、日本で医療がすぐにひっ迫するのには構造的な問題があります。

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新型コロナ患者を診療する病床を確保する主体は各都道府県です。都道府県が病院に協力を要請し、それぞれの病院が受けるかどうか、どの程度受けるか、経営判断していくことになります。
もともと日本は欧米に比べて規模が小さい民間病院が多く、そこに医師や看護師が分散しています。小さい病院ではスタッフの確保や感染対策が難しく、新型コロナの患者の受け入れは進んでいません。円グラフは新型コロナの患者を受け入れ可能な病院の割合を示したものです。小規模の病院では1割、中規模の病院でも半数程度で、受け入れを可能としている医療機関は全体の23%しかありません。

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新型コロナ患者の受け入れは病院の経営にとって大きな負担にもなっています。4月以降の入院患者の数を分析すると軒並み患者が減っています。グラフの赤い棒が新型コロナの診療に当たった病院ですが、一貫して受け入れのなかった病院より減っていて、5月には2割以上減っています。コロナ患者の診療には多くのスタッフが必要で、診療科を閉鎖したり、手術を延期したりしなければなりませんでした。頑張っている現場の看護師のボーナスが皮肉にも減ってしまうのはこうした事情があるのです。
国は、新型コロナ患者を受け入れた病院への財政支援を緊急で追加するよって病床を増やし、医師や看護師を派遣した派遣元の病院にも財政補助をして、人材を捻出しようとしています。

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しかし問題の根っこにあるのは、多くの病院に医師や看護師が分散してその連携が取れていないこと、そして、この状況に対して、都道府県が法的根拠のあいまいな要請しかできないことだと思います
コロナ患者の受け入れ状況や、専門の人材について、情報やデータを共有したうえで、医療資源の集約と最適な配分ができるよう、都道府県の権限を強化することが必要ではないでしょうか。

厚生労働省は、医療法を改正して、都道府県が策定する次の医療計画(2024年~)に「新興感染症」を位置付ける方針で、次の感染症に備えて感染者を受け入れる病院や、受け入れた病院の代わりに入院患者を引き受ける病院などをあらかじめ決めるよう求める方針です。もちろん、事前に準備をしていくのは大切ですが、感染の拡大と縮小を繰り返すパンデミックでは、想定外の事態が起きがちです。そこに臨機応変に対応するためには病床をダイナミックに調整していく“司令塔機能”を強化することが不可欠だと私は思うのです。

▼「変異株」の登場
そして、2021年の対策を考えるうえで懸念されているのが、「変異ウイルス」の登場です。

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「変異ウイルス」は、感染が拡大したイギリスから世界各地に広がりつつあり、日本でも滞在歴のある入国者などから感染者が見つかっています。
この原稿を執筆している段階では、重症化しやすいかどうかやワクチンの有効性など、まだ確定していないことが多い段階です。
ただ、注目されているのは感染力がこれまでより最大で70%強い可能性があることです。国内に入ってくることを前提として、感染拡大のスピードが速くなることを覚悟しなければなりません。

この1年で分かったことは、感染対策の強化が遅れれば遅れるほど、封じ込めに時間と労力がかかること、そしてGoToキャンペーンのような産業振興策と感染防止を同時に呼び掛けても、国民には響かないということです。拡大の兆しがあればすぐに感染対策モードに切り替え、分かりやすいメッセージで協力を呼び掛けていくことが、変異ウイルスの登場でこれまで以上に求められるのだと思います。

「社会の弱いところを狙う」といわれる新型コロナウイルスは感染症対策や医療体制においても弱いところを突いているように感じます。一年で得られた教訓を次の対策につなげていくことが、新型コロナウイルス克服の近道になるのだと思います。

(米原 達生 解説委員)

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