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「高校が変わる なぜ いま普通科改革なのか」(時論公論)

二宮 徹  解説委員

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「受験や就職に関係ない授業は上の空」という高校の現状は変わるのか。
文部科学省は、多くの生徒が通う普通科に新しい学科を設置できるようにする方針です。
現代社会が直面する課題や地域の抱える課題に取り組む学科をつくり、画一的なカリキュラムではない、特色や魅力のある学校を増やそうというのです。
なぜ、いま高校の普通科を改革するのか。その背景やねらい、そして課題について考えます。

<高校普通科改革とは?>

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“令和の教育改革”を議論している文部科学大臣の諮問機関・中央教育審議会は、来年初めに出す答申の中で、高校の普通科に、新たな学科を設置できるよう求める方針です。
その例として、格差や差別の解消、環境保全など17の目標達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)など、現代社会の課題について分野を超えて学ぶ学科と、人口減少や少子高齢化など、地域社会が抱える課題解決を探る学科の2つを挙げています。
文部科学省は、この2つ以外にも特色や魅力のある学科を認め、今の中学2年生が進学する2022年度から始める計画です。

<今の高校の制度>

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日本の高校は、教育課程によって3つに分かれています。
普通科は、国語や数学、英語など、多くの教科を幅広く学びます。この中に従来の普通科に加えて新しい学科をつくります。専門学科には、農業や工業、商業のほか、情報や理数、国際関係などもあります。
総合学科は、普通と専門両方の教科を選択できる学科として1994年につくられました。
生徒の割合は、普通科が73%を占めています。
今の制度では、普通科の中に別の学科をつくることはできず、これを見直すのは、制度ができた1948年以来、初めてです。

<改革の背景とねらい>

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なぜ、いま見直すのか。高校の現状が改革を迫っていると言えます。
まずは、高校を選ぶ際、多くの生徒が高校の特色や教育内容ではなく、自分の学力、いわば偏差値をもとに選んでいるという現状があります。これは、どの高校でも、普通科なら教育内容に大きな違いがないためでもあります。
それに、入学後も、文系や理系、就職など、進路が定まるにつれ、受験や就職に役立つ教科以外は意欲が薄れる生徒が増えてきます。
2001年に生まれた子どもを対象に毎年おこなっている調査でも、「楽しいと思える授業がたくさんあるか」という質問に、「そう思わない」と答えた生徒は、中学1年の時点で24%だったのに対し、高校2年になると43%に増えました。
また、「学校の勉強は将来役に立つと思うか」という質問では、「そう思わない」という生徒は、中学1年の時は15%だったのに対し、高校2年になると28%と2倍近くに増えました。
このため、画一的な普通科の在り方そのものを見直すことで、特色や魅力で選ばれる学校を増やすとともに、授業も生徒を引き付ける内容を増やすことで学習意欲を高めようというわけです。

<大学や地域との連携を>

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しかし、実際に特色や魅力のある教育を行うのは簡単ではありません。教師が教室で教科書を使って、これまで通りの授業をするだけでは、生徒を引き付けられないでしょう。
そこで求められるのが「大学や地域との連携」です。
文部科学省は、新しい学科の授業には、国際平和などのグローバルな課題や、復興や防災、地域活性化などの探求を想定しています。
そのためには、こうした研究や取り組みをしている地元の大学や自治体、企業やNPOなどと連携を深め、より実践的で実のある授業にすることが必要です。
地域や社会の未来を担う人材育成という観点からも、こうして学校と地域の双方が積極的に取り組む体制づくりが重要になってきます。

<新学科のわかりにくさ>

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ただ、そもそも、新しい学科と今ある学科の違いがわかりにくいことが大きな課題です。
新しい学科は、学問分野の枠を超えて現代社会の課題を学ぶ学科や、地域社会の課題解決を探る学科と例示されていますが、既にこうした内容を取り入れている総合学科や国際関係・理数などの専門学科があります。普通科にもサイエンスやワールドワイドに重点を置いた学校があります。
文部科学省は、新しい学科はあくまで普通科の枠内に置くとしていますが、これらの違いをきちんと整理して、周知してほしいと思います。
また、新学科をつくる自治体や学校法人も、教育方針や授業の詳しい内容をわかりやすく生徒や保護者に示す必要があります。

<根強い“普通科意識”>

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そして、実はこの改革の最も厚い壁は、受験生や保護者に根強い「普通科への意識」かも知れません。総合学科の現状が、この改革の難しさを突きつけています。
自分で学びたい教科が選べることが特色の総合学科が導入されてから、26年。学習意欲を引き出し、進学や就職に実績を上げている高校も多くありますが、生徒数は全体の5%にとどまっています。工業や商業よりも少なく、当初の期待ほど浸透していません。
こうした中で、新しい学科が広く定着するには、画一的と言われながらも今の普通科が選ばれている「普通科でいい」という意識を変えられるほどの魅力や内容が必要だと思います。

<あと1年3か月しかない>

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しかも、こうした課題を抱えながら、準備期間があと1年3か月しかないというのが心配です。
文部科学省は、「最初は間に合うところだけでもいい」という姿勢ですが、設置を望む自治体や学校法人は新しい学科の名前や教育方針、特色などを、遅くとも来年の秋までには公表し、募集要項で示す必要があります。
一方で、生徒から進路相談を受ける中学校の教員の役割も、来年からはさらに重要になってきます。生徒の学力で考えがちだったこれまでと違い、生徒の個性や目指す学科の特色を見極めたうえで、相談に応じることが求められるでしょう。
受験生や保護者も、「高校で何を学びたいか?」について、これまで以上に真剣に考え、早めに志望校選びを始める必要が出てきます。

<まとめ>
今、高校への進学率は99%。多様な生徒が通うようになりました。こうした中で、70年以上変わらなかった普通科の改革が、ようやく進むのかという思いがします。
とはいえ、新しい学科のわかりにくさに加え、再来年からというのは、やや性急な感も拭えません。
慌てて新しい学科をつくって、受験生や保護者が混乱したり、「変わった名前の看板が増えただけ」となったりしないよう、しっかり教育の方針や中身を整えてほしいと思います。
そのうえで、この改革をきっかけに、普通科に限らず、すべての高校で生き生きとした授業が増えることを期待します。

(二宮 徹 解説委員)

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