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「トランピズムは終わらない」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ大統領選挙は、民主党のバイデン氏の当選がようやく決まりました。トランプ大統領は「選挙に不正があった」と主張し、今なお敗北を認めていませんが、法廷闘争で訴えをことごとく退けられ、もはや結果を覆して再選を果たす道は閉ざされたとみられています。この4年間トランプ大統領が衝撃と熱気そして軋轢と混乱も内外に巻き起こした型破りな政治スタイル=いわゆるトランピズムは何を残すのか?その功罪とこれからを考えます。

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ポイントは3つ。
▼なぜトランプ大統領は敗北を認めないのか?
▼分断が生んだトランピズム
▼そしてコロナ禍による影響についてです。

合衆国憲法と州の定めに従って、全米各州で一斉に行われた選挙人538人による投票。いまアメリカはコロナ感染拡大“第3波”の真只中。しかし混乱や不測の事態は起きず、意外にあっけなく終わりました。

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選挙人の獲得数は、▼共和党のトランプ大統領が232人、▼民主党のバイデン氏が306人。バイデン氏が当選に必要な過半数の選挙人を獲得しました。一般の有権者による投票結果に従わない“不誠実な選挙人”と呼ばれる造反は、今回は1人もいませんでした。
これにより年明けの来月6日、連邦議会の上下両院合同会議が開かれて、この結果が最終的に確定し、ジョー・バイデン氏が来月20日、第46代大統領に就任する運びとなりました。
バイデン次期大統領は、地元デラウェア州で「明確な勝利」をあらためて宣言。一方、訴訟を乱発してきたトランプ大統領は、ひとつの州でも結果を覆せず、“完敗”を喫したかたちです。

翌日、選挙の勝敗について、これまで頑なに沈黙を守ってきた共和党・上院トップの実力者、マコネル院内総務がついに重い口を開きました。

(マコネル院内総務の発言)「選挙人投票で正副大統領が公式に選ばれた/バイデン次期大統領を祝福したい」

共和党の議会指導部がトランプ大統領から距離を置き、政権交代を事実上受け入れた瞬間でした。ほかの有力議員らも相次いで結果を容認しています。

このあとトランプ大統領には、どんな選択肢があるでしょうか?

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▼まず、年明けの議会で選挙結果が正式に承認され、最終的に確定する事態を阻めるか?それは無理でしょう。下院の共和党議員の一部には異議を申し立てる動きがありますが、下院は民主党が多数を占めますし、上院も共和党指導部が結果の受け入れを表明したからです。
▼次に法廷闘争について、トランプ大統領は「まだ終わっていない」としています。しかし、頼みの綱だった連邦最高裁判所は訴えを事実上の門前払い。また選挙の不正をめぐる捜査にも、バー司法長官から協力を得られず、長官は任期満了を待たず来週辞任します。このため法廷闘争で結果を覆す可能性も、現実的には無いに等しいでしょう。
▼それならいっそホワイトハウスに居座り続けたらどうなるか?無論絶対ダメでしょう。大統領の任期は来月20日正午に終了すると憲法が定めているからです。
▼結局トランプ大統領は、このまま敗北を認めず、“岩盤支持層”をつなぎとめ、みずからの政治的な影響力を温存しようとするのかも知れません。そうすれば、4年後の次の大統領選挙で返り咲きを狙うことも理屈の上では出来ますし、就任前から抱える訴訟対策や、退任後の身の振り方にも有利にはたらき得るからです。

なぜトランプ大統領は「選挙に大規模な不正があった」と主張するのでしょうか?

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こちらは今回の大統領選挙で有権者が投じた1票が正確に集計されたと信じるかどうかをたずねた世論調査です。回答者の85%が正確に集計されたと信じると答えました。
これを今度はトランプ大統領を支持した人とバイデン次期大統領を支持した人で比べると、明らかな違いが読み取れます。トランプ大統領を支持した人の3割近くは正確な集計を信じているとは答えず、公正な選挙に一定数が疑念を抱いていることがうかがえます。

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そうした疑念は投票方法の違いにも表れました。今回の選挙ではコロナ感染を防ぐため、郵便投票や不在者投票を可能にする条件が各州で大幅に緩和され、すべての投票者の半数近くが通常の投票所では投票せず、郵便投票などを利用したことがわかっています。
これもトランプ大統領の支持者とバイデン次期大統領の支持者で、明らかな違いがありました。トランプ大統領を支持した人の7割近くは郵便投票などを利用せず、逆にバイデン次期大統領を支持した人の6割近くは郵便投票などを利用したのです。

トランプ大統領は、選挙前から「郵便投票は不正の温床になる」と主張してきました。一方のバイデン次期大統領は、郵便投票の積極的な利用を呼びかけました。その郵便投票に勝敗を覆すほどの“大規模な不正”がどこにあったのか?今に至るまでトランプ陣営の弁護団は、司法の場で立証することが出来ませんでした。

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トランピズムは、アメリカ社会の分断の中から生まれ、分断の溝をますます深めながら、
アメリカじゅうに拡散してきました。
“誰が何と言おうと、自分が見たい現実だけを見て、それ以外は断じて信じない”そうした特有の傾向は、以前は耳慣れなかった奇妙な言葉を振りまきました。
事実とは異なるあからさまな嘘も、まるで一面の真実であるかのように語る“オルタナティブ・ファクト”=“もうひとつの事実”。
アメリカのメディアの一部に政治的な偏向があるのは確かですが、自分とは異なる見解や批判、不都合な報道も、すべてひっくるめて“フェイクニュース”。
そして、本当は自分が勝利したはずなのに選挙結果が不当に盗まれたと確たる根拠もなく主張する“仕組まれた選挙”。選挙で選ばれた大統領が、自分が負けたら公正な選挙自体を否定し、平和的な政権移行を拒むことが、民主主義の根幹を揺さぶる危機でなくて何でしょうか。今後への影響が心配です。

またコロナ禍への対応でも、トランピズムは事態悪化に拍車をかけました。当初から一貫して感染拡大の危険性を打ち消し、選挙戦の最終盤、大統領自身が感染しても「コロナを恐れるな」と発言。マスク着用を積極的に呼びかけることもありませんでした。それが結局、「大統領はコロナを甘く見た」と批判するバイデン氏に勢いを与え、再選のチャンスを棒に振る大きな要因になりました。

トランプ大統領は、ワクチン開発に巨額の国費を投じて後押しし、わずか1年足らずで接種の開始に漕ぎつけたことは自らの手腕による大きな成果だとアピールします。しかし、アメリカ国内のコロナ感染による死者はすでに30万人を超えています。

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今なお全米の大半の州で感染拡大に歯止めがかからず、今月に入ってからは、たった1日で20万人以上もの感染が新たに確認される爆発的なペースで増え続け、文字通り“制御不能”の状態に陥っているのです。今度はバイデン次期大統領が、この厳しい現実に向き合わなければなりません。

再選に失敗したとはいえ、トランプ大統領が前回の選挙を1000万票以上も上回り、現職としては史上最多となる7400万票以上の支持を得た事実は無視できません。
歴代の多くの大統領たちのように、表舞台から静かに消えていくことはなく、ドナルド・トランプ氏は、来月ホワイトハウスから去っても、注目を浴び続けようとするでしょう。
大統領の任期は間もなく終わります。しかしトランピズムは簡単に終わりそうにありません。もし終わらないのなら、従来の常識に囚われないトランピズムの特質を破壊ではなく建設的な方向に振り向けるよう願います。

(髙橋 祐介 解説委員)

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