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「座間市9人殺害 死刑判決 SNS通じた被害どう防ぐ」(時論公論)

山形 晶  解説委員

3年前、神奈川県座間市のアパートで若い女性など9人の遺体が見つかった事件で、被害者をSNSで誘い出し、殺害した罪に問われた被告に死刑が言い渡されました。
法廷での審理から見えたのは、あまりにも短絡的な動機と、使い方によっては犯罪の被害に直結してしまうSNSの危うさでした。
同じ被害を繰り返さないためにはどうすればいいのかを考えます。

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白石隆浩被告は、3年前の8月から10月にかけて、SNSで誘い出した男女9人を殺害し、女性には性的暴行をして、現金を奪った強盗殺人などの罪に問われました。
被告は1人目の被害者を誘い出すことに成功した後、わずか2か月の間に、次々とSNSを通じて知り合った人たちをほぼ同じ手口で殺害していきました。

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動機は「楽をして金を手に入れたい」というごく単純なものでした。
この時に悪用したのが、風俗店に女性を紹介するスカウト時代の経験です。
悩みを抱える女性がSNS上で発した声に寄り添うように接近すれば、金を引き出せると考えたのです。
そして金を引き出せなければ性的暴行をして、被害が発覚しないように殺害するというあまりにも身勝手な行動でした。
私が注目したのは、事件の発覚につながった被害者の家族に対して、「今も恨みが残っている」と述べたことです。
さらに、発覚しなければ次の被害者を誘い出すつもりだったと述べました。
つまり、被害はさらに広がっていた可能性があったのです。
SNSの匿名性が裏目に出て、最悪の結果につながった形です。
東京地裁立川支部は、「手口は巧妙かつ卑劣で、SNSの利用が当たり前となっている社会に大きな衝撃や不安感を与えた」として死刑を言い渡しました。

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やはり重要なのは、SNSなどを通じて悪意のある相手とつながってしまうのを防ぐことです。
インターネット関連の企業で作る「セーファーインターネット協会」によりますと、かつては「死にたい」といった悩みの声は、主にネット上の掲示板でやり取りが行われていましたが、スマートフォンやSNSの普及に伴って、2010年ごろからはSNSが主流になったということです。
SNSは、匿名で投稿できるだけでなく、誰かとつながって直接メッセージをやり取りできるようになれば、その内容を外からうかがうことはできなくなります。いわば密室の状態です。
警察庁のまとめによりますと、SNSがきっかけとなって犯罪の被害に遭った18歳未満の子どもの数は増え続けていて、去年(2019年)、2082人と過去最悪となりました。

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SNSの事業者はどう対応しているのでしょうか。
ツイッターは、利用者から報告を受け付けていて、自殺をそそのかすような、問題のある投稿を見つけたら、削除を要請したり、従わなければアカウントを凍結したりする措置を取っています。
まずはこうした「加害者」または「加害者予備軍」を見つけ出し、犯罪の芽を摘むような対応を、スピーディーに実行していってもらいたいと思います。
一方で「被害者」となるような人たちへの対応も重要です。
悩みを抱えた人がSNS上に発する声を削除するという手段も可能ですが、それはかえって事態を悪化させる可能性があります。
それは、しがらみのないネット上でしか本当の気持ちを打ち明けることができない、その行為自体が支えになっている人が少なくないからです。
そこで、ツイッターやフェイスブックは、「自殺」といったキーワードで検索すると信頼できる相談機関の連絡先が表示されるようにしています。
また、LINEは、アプリを入れた人が18歳未満かどうかを携帯電話の事業者に確認して、18歳未満の場合は、不特定多数の人とつながれないように機能を制限する対応を取っています。
SNSの事業者は、トラブルの対応にあたるために団体を作り、各社で情報を共有しています。
こうした取り組みを続け、すぐに対策に取り組んでもらいたいと思います。

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最後に、私たちにできることを考えます。
まずは、SNS上で問題のある投稿などを見つけたら、すぐに事業者に報告すること。
そして、悩みを抱えている人の家族や友人として、あるいは将来、自分が悩みを抱えたときのために、正しい知識、つまり、信頼できる相談機関があることを知っておくことです。
不特定多数の人に向かって悩みを打ち明けると、悪意のある人物に付け込まれるリスクがあるからです。
信頼できる相談先として、厚生労働省の「まもろうよ こころ」というサイトがあります。
ここには、電話やSNSの相談窓口が紹介されています。
また、相談窓口を検索できるサイトも設けています。
(本文の最後に電話番号や団体名を載せています。ご覧ください)

そもそも、悩みを抱えている人たちは、なぜSNSを頼ってしまうのでしょうか。
厚生労働省のサイトで紹介されているNPO法人の1つ、「BONDプロジェクト」は、座間市の事件のあと、相談を受けたことのある女性たちにメールでアンケートを行い、100人から回答を得ました。
その結果、SNSで「死にたい」とつぶやいたことがある人や、SNSを通じて知らない人とつながったことがある人は、6割を超えました。
なぜこうした行動をとったのかを尋ねると、必ずしも本当に死にたいと思っていたわけではなく、「さみしい」「誰かに共感してもらいたい」という気持ちからだったといいます。
身近に相談できる人がいなければ、たとえ危険な人物が待っているおそれがあったとしても、「今よりはマシだ」と思って気持ちを吐き出してしまうのです。
やはり信頼できる相談機関があることを知ってもらう必要があります。
「BONDプロジェクト」は、相談を受けるとともに、SNS上で助けを求める声を探したり、街頭で悩んでいる様子の人たちに声をかけたりする「パトロール」も行っています。
中には、保護した女性からの情報で加害者側の摘発に至ったケースもあったといいます。

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そして、相談を受ける手段としてSNSを活用することも重要です。
同じく厚生労働省のサイトで紹介されているNPO法人、「東京メンタルヘルス・スクエア」のもとには、ツイッターやLINEなどSNSを通じて多くの相談が寄せられています。
団体によると、真面目に物事を考えてしまう人ほど悩みが深くなるといいます。
「周りに相談すると迷惑をかける」という遠慮や、「相談したけど相手にされなかった」という苦い経験によって行き詰まってしまうのです。
こうした場合、従来のような電話や対面での相談は敬遠されてしまうかもしれません。
SNSは危険な相手とつながるリスクもありますが、特に若い人たちはふだん使い慣れているものなので、相談を受ける手段としてうまく活用すれば、効果を上げられるのではないでしょうか。
実際に、SNSによる相談は後を絶ちません。
すぐに返信できないこともあるため、「東京メンタルヘルス・スクエア」は、相談員を増やして対応することにしています。
カウンセラーなどで作る団体がSNSの相談員を育成したり、認定したりする事業も始まっています。
SNSで相談を受けられる態勢を強化していくことが重要だと思います。

最近は先の見えない新型コロナウイルスの影響で、つらさを感じることがますます多くなっているかもしれません。
悩んだり、弱音を吐きたいと思ったりするのは、決して恥ずかしいことではありません。
どうか信頼できる相談機関や、場合によっては専門の医療機関を頼ってください。

(相談先)
厚生労働省のサイト「まもろうよ こころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

相談窓口を検索できるサイト(厚生労働省)
http://shienjoho.go.jp/

下記は、厚生労働省のサイトに出ている相談先です。
すぐにつながらない場合もありますが、あきらめずに相談してください。

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(電話の相談先)
「こころの健康相談統一ダイヤル」0570-064-556
※地域によって対応できる曜日や時間が異なります。詳しくは厚生労働省のサイトをご覧ください。
「よりそいホットライン」0120-279-338 ※24時間対応
※岩手県・宮城県・福島県の方は、0120-279-226

(SNSの相談先)
「自殺対策支援センターライフリンク」(SNSやチャットで相談)
「東京メンタルヘルス・スクエア」(SNSやチャットで相談)
「BONDプロジェクト」(10代や20代の女性を対象にLINEで相談)
「チャイルドライン支援センター」(18歳以下の子どもを対象にチャットで相談)

(山形 晶 解説委員)

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