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「日本経済つかの間の回復か 二極化する雇用」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

新型コロナウイルスの感染が再び広がる中、政府は新たな経済対策を実行するための第3次補正予算案を閣議決定しました。
最新の「日銀短観」では、企業の景気に対する見方がこの3か月間で改善していることが確認されたものの、「Go To トラベル」の全国的な一時停止の決定も発表され、
先行きへの不透明感が強まっています。
「つかの間の回復にとどまりそうな日本経済」と、その中ですすむ「二極化」の動き。そしてその対応策について考えます。

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【短観からみえる、束の間の回復】
まずは日本経済の現状を知る上で、企業およそ9500社が景気をどうみているかを示す最新の「日銀短観」をみてみます。

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こちらは景気が「良い」と答えた企業の割合から、「悪い」と答えた企業を差し引いた指数の推移です。
今回の調査は11月中旬から行われ、大半が、先月中に回答しています。
それによりますと「大企業の製造業」はマイナス10ポイント。2期連続の改善でした。
自動車や半導体の生産や輸出が、回復していること。
巣ごもり消費が増える中、IT関連製品の売れ行きが堅調なこと。
中国向けの出荷が増えたことを背景に、前回のマイナ27ポイントから、17ポイント改善しました。
一方、「大企業の非製造業」も、7ポイントの改善。
こちらも宿泊や飲食業で、いくぶん、持ち直しがみられました。
9月か11月にかけては人の動きも活発になり、go toキャンペーンの影響もあって、景気に対する見方も改善に向かっていたことがうかがえます。

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ただ、先行きについては、非製造業の大企業・中小企業がともに、悪化すると予想。
12月には、さらに感染の再拡大が加速し、企業の懸念は、一層、高まっています。
▼このところの円高傾向や、
▼GO TOの一時停止の影響で、業績の悪化が避けられそうにないこと。
▼冬のボーナスの減少で収入が減り、今後の個人消費が冷え込む恐れがあること。
▼さらに景気回復をけん引してきた輸出については持ち直しの動きが続くことが予想されるものの、来年2021年に「感染症拡大前の水準に戻るのは難しい」とみられるのが理由です。
株価だけが上がる一方で、日本経済は、「つかの間の回復」にとどまる可能性が高まっています。

【2極化がすすむ雇用】
さてこうした中で、最も心配なのは私たちの生活を支える「雇用」への影響です。
短観でも、企業の来年春の新卒の採用計画は前の年度にくらべてマイナス6パーセント、となっています。
その上で懸念されるのは、今、業種や企業の規模、それに働き手の専門性などによって「2極化」の動きがさらにすすむおそれがあることです。

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▼まず業種別では、「製造業や非対面型のサービス業」にくらべ、宿泊・飲食・航空といった「対面型のサービス業」は、大きな打撃を受けることが予想されます。
年末年始のかきいれ時に営業できないことで、店をたたむ人が増えることも予想されます。新しい仕事を見つけようにも、同業他社には転職できない、苦しい状況です。
▼また「大手企業」にくらべ、「中小企業」の状況は、より厳しくなっています。
東京商工リサーチの調べでは中小企業の8.6パーセントが廃業を検討し、そのうちの半数近くが、1年以内の廃業を検討しています。こうした企業が実際に廃業に踏み切れば、単純計算で120万人もの雇用が失われる可能性があります。
▼さらに、「正社員」と「非正規雇用」の差も広がっています。

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こちらは、前の年の同じ時期にくらべた労働者の数の推移をグラフにしたものです。正規雇用の人たちが5か月連続で増加しているのに対し、非正規雇用の人たちの数は8か月連続の減少。
直近では、前年同月比で、85万人も減っています。

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▼そして、来年春に向けた「高卒」「中卒」の求人数も、前の年にくらべていずれも、20パーセント以上、減少しています。
家計が苦しく、進学を諦める生徒が増える中、追い打ちをかけるように、「職業経験がない人たち」への求人も減っています。
転職求人サイトのデータによれば、IT・電機・通信といった比較的好調な業種でも、その仕事の「未経験者」に対する求人の割合が、ことし1月とくらべて半分以下に減っています。
会社側に、イチから人を育てて、使うといった余裕がもはや、ないことがうかがえます。
▼その一方で、医療の現場では「離職」がすすみ、心配です。医師・看護師・介護士の離職のニュースが連日聞かれ、人手不足により、現場の過酷さが増しています。
日本医療労働組合連合会によれば、調査対象となった医療機関の40パーセントあまりで、冬のボーナスが減っていて、厳しい現場で働く人たちの労働意欲が失われないかが、心配されます。

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こういった状況を受けて政府はきのう、新型コロナウイルスの対応で医療機関に派遣されている医師や看護師の処遇を改善するため、補助金の上限額を倍増することを表明しました。コロナ患者の受け入れ施設で働いている人たちに、すぐにも支援金を届ける。また、離職してしまった医療従事者が復職したり、コロナ患者受け入れの施設に移ったりした場合にはそれを経済的にも支援する。労働時間や心理的な負担に見合った、医療関係者の待遇の改善を今すぐはかる必要が出ています。

【今後の対応策】
さて、厳しさを増す雇用状況の中で今後、どのような対応策が求められるのでしょうか。

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政府が打ち出した対応策をみてみますと、
まず、▼社員として会社に在籍しながら、別の会社に出向する「雇用シェア」を支援する制度を新たに設けることが盛り込まれました。仕事が減っている宿泊施設で働く人がスーパーに出向する。または観光バスの運転手が人手の足りない宅配会社に出向するといった取り組みです。
今回の対策では「出向元」だけでなく「出向先」にも支援をするのが特徴で、人が足りない業種と人が余っている業種の差が開く中、雇用を吸収する一定の役割が期待できると思います。
▼また、職業経験が浅い人を雇ってくれる企業の動きを後押しする、「トライアル雇用」の支援をしていく方針も打ち出されました。
さきほども申し上げた、職業経験がない人たちへの求人が極端に減っていることへの対応策です。
ただ、専門家からは、企業側に余裕がなく、「そうした支援があってもなお、未経験者を雇いたいと思う会社がどのくらいあるか?がハードルになる」という指摘も、あがっています。
▼そこでたとえば、国が今、すすめている「就職氷河期世代」を対象に、公務員を採用する取り組みを、今の高卒や大卒の人にも対象を広げ、「第2の就職氷河期世代」となるのを防ぐことはできないでしょうか。
期間限定でもよいので、職業経験を積み、キャリアの空白を作らないことが、若者たちの将来には大きな意味があると思います。

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▼また、短期派遣などで雇用保険を受けられない人や、雇用保険を受けている期間中に再就職できなかった人をサポートする「求職者支援制度」の強化も、求められているのではないでしょうか。
職業訓練を受けたい人その人だけでなく、世帯収入にも条件があることや、連続して支援を受けられないことなど、条件がヨーロッパなどにくらべて厳しいことが指摘されています。
失業保険がきれたあと、生活保護へと移るのを避けるための対応策のメニューが乏しいのではないかとの声もあがっています。

トンネルの先が見えない中で、政府ができることは何かを、今ほど、問われているときはありません。
二極化がすすむ中、本当に困っている人たちに思いを馳せ、その人たちに「届く」対策を実行する。
日本経済が正念場を迎える今、全力を挙げた取り組みが求められています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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