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「猛威振るう鳥インフルエンザ」(時論公論)

佐藤 庸介  解説委員

新型コロナウイルスの感染が拡大する一方で鳥の伝染病、鳥インフルエンザが猛威を振るっています。

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今年度は、12月14日までに西日本の養鶏場で26例が確認されました。ニワトリの殺処分数はすでに330万羽を超えていて、さらに増える可能性が高まっています。現状と感染拡大の背景、それに消費者への影響について、お伝えします。

【西日本全域に飛び火 「全国にリスク」】

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猛威を振るっているのは、毒性が強い「高病原性」と言われるウイルスです。香川県三豊市の養鶏場で、1例目の感染が確認されたのが、11月5日。国内での確認は平成30年1月以来、2年10か月ぶりのことでした。その後、同じ三豊市を中心に、立て続けに香川県内で発生しました。さらに福岡、兵庫、宮崎、奈良、広島、大分、和歌山、岡山、滋賀の10県で発生。1か月あまりの間に西日本のほぼ全域に飛び火しました。急速な拡大に、野上農林水産大臣は、もはや「全国どこでも発生するリスクがある」と述べています。

高病原性鳥インフルエンザは、生きた鳥がウイルスを増殖、拡散させるため、確認された場合は、原則として一定期間、鳥の移動が制限されます。農場で飼われていた鳥はすべて殺処分して、感染の拡大を防ぎます。

【未曾有の拡大ペース さらに増加も】

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高病原性鳥インフルエンザは、平成15年度に山口県で79年ぶりに発生し、この年度におよそ27万羽が殺処分されました。それから何年かに1度のペースで起こり、これまでにもっとも多かったのが、平成22年度のおよそ183万羽。多くの養鶏農家が打撃を受けました。ところが今年度は、12月14日までにこの年をはるかに上回る、およそ335万羽まで増え、さらに拡大するという懸念が高まっています。

こうして過去のケースを見ても、今シーズンは異例の拡大だと分かります。鳥インフルエンザは、おおむね11月から3月にかけて感染が広がります。早くも過去最多を更新したことに専門家からは「42.195キロのマラソンで言えば、まだ5キロ地点なのに大変な事態だ」という声も出ています。

【ウイルスは渡り鳥が持ち込む】

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なぜ、ここまで広がってしまったのでしょうか。そもそも鳥インフルエンザのウイルスは、渡り鳥を通じて日本に持ち込まれます。10月から11月ごろにかけて、感染したカモなどの渡り鳥が日本に南下して、フンや死体を通じてスズメなどの日本に住む小鳥に感染したり、ネズミなどの小動物にウイルスが付いたりします。これらの生物が養鶏場に入り込んで、中のニワトリにうつすというパターンが考えられています。また、知らず知らずのうちに人間にくっついて、人間が鶏舎の中に持ち込む可能性もあります。

【養鶏場の対策に問題 薄かった危機感】

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もっとも疑われるのが、養鶏場の基本的な対策が不十分だったのではないかということです。農林水産省のチームが調べたところ、多くの問題が明らかになりました。例えば鶏舎に隙間があり、ネズミが侵入した形跡があったこと、作業員が鶏舎に入る際に長靴を交換していなかったことが分かりました。また、鶏舎の周りに消毒のための消石灰をまく対策も一部の養鶏場では取られていませんでした。ため池の問題も指摘されています。西日本にはため池が多くあり、水辺を好む渡り鳥が集まります。発生した農場の近くにもあるところが多く、対策の強化が必要な環境でした。

ここ数年、発生していなかったことで、関係者の危機感が薄かったのは否めません。それを裏付けるように、最初に発生した香川県では面的に拡大しました。三豊市で最初に発生した養鶏場の半径3キロの区域内で立て続けに確認され、農林水産省の専門家でつくる小委員会が、異例の緊急提言をまとめる事態になりました。

【予想された感染の拡大】

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行政側が、早くから警鐘を鳴らすべきだったという指摘もあります。家畜の伝染病に詳しい北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授は、ことしは拡大が予想できる年で、少なくとも3つ、シグナルがあったと言います。1つ目に、ことし1月にはヨーロッパですでに流行していたことです。感染した鳥がユーラシア大陸を渡って、日本にくるリスクが生まれました。2つ目に、10月25日に隣の韓国で野鳥のフンからウイルスが確認されたことです。韓国から日本というのは、多くの渡り鳥のルートになっていることから、日本に持ち込まれる可能性が強まりました。そして、3つ目、10月30日になって北海道紋別市で野鳥のフンからウイルスが見つかり、日本にも現実に入り込み、養鶏場にも広がる危険性がいちだんと高まりました。国内の養鶏場で今シーズン初めて発生したのは、それから6日後のことです。農林水産省は、9月に1度、北海道で感染が確認されたあとにもう1度、都道府県に対策の徹底を呼びかける通知は出しました。しかし、迫田教授は「農林水産省は早い段階でもっと強く警戒を呼びかけるべきだった。見通しが甘かったのではないか」と対応を批判しています。同じ意見は、私が取材した養鶏会社の関係者からも聞かれました。

【基本を徹底するしかない】

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これ以上の拡大を防ぐには、どうしたら良いのでしょうか。専門家は「基本の徹底しかない」と口をそろえます。養鶏場側の予防策としては、鶏舎を出入りする車の消毒、作業員が鶏舎に入る際には専用の服や長靴に交換すること、動物や野鳥が入り込まないように鶏舎の壁や網が破損していないか確認すること、周りに木がある場合は野鳥がとどまらないように枝を払い落としておくことなどがあります。北大の迫田教授は「1つ1つの対策を地道に積み重ねることでリスクを大幅に抑えることができる」とその意義を強調しています。加えて大切なのは、養鶏農家が見つけたらすみやかに通報し、殺処分することで封じ込めることです。この面では、今シーズンは各地で起こっているものの、最初の香川県を除いては次々に広がったというケースはなく、ある程度、対応できていると言えます。

【消費者への影響 限られるも…】

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最後に、消費者への影響を考えます。まず健康面への影響についてです。国の食品安全委員会も「鶏肉や卵は食べても『安全』」だと訴えていて、専門家も「過度な心配は不要だ」と言っています。ヒトへのウイルスの感染は、海外では報告されていますが、生きた鳥と長時間生活するというような特殊な環境にあった人に限られています。また、日本では感染した鶏肉や卵は、出荷が制限されていますし、万が一感染しているものを食べてももともと鳥からヒトには感染しにくく、胃酸で感染性もなくなるということです。

もう1つ、これだけ多くのニワトリが殺処分され、鶏肉や卵が値上がりする可能性はないかも気になります。農林水産省では「現時点では需給に大きな影響が懸念される状況ではない」と説明しています。日本で飼育されている鶏の数は、卵を産む「採卵鶏」で1億8000万羽あまり、肉用の「ブロイラー」でおよそ1億4000万羽。あわせておよそ3億2000万羽に上り、殺処分数は、全体の1%ほどにとどまるからです。今後、もちろんさらに感染が拡大していった場合、影響が及ぶ可能性はゼロとは言えませんが、今のところは気にしすぎなくてもよさそうです。

とはいえ、鳥インフルエンザが発生すれば養鶏農家にとって影響は甚大ですし、ヒトに感染する可能性を完全に絶つためにも、早期の封じ込めは欠かせません。養鶏関係者や行政には、これ以上の拡大を食い止めるために実効性のある対応を強く求めたいと思います。

(佐藤 庸介 解説委員)

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