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「はやぶさ2帰還 ミッション成功の意義」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

探査機はやぶさ2が無事地球に帰還、小惑星の岩石のかけらが入ったとみられるカプセルも回収されあす日本に到着する。そしてはやぶさ2は、予定外のあらたな小惑星探査に向かった。小天体探査で日本がまた世界を大きくリード。
ただ成果の一方で、こうした宇宙科学分野は日本の宇宙政策の中で優先順位は高くなく、予算は低迷。
▽ミッション成功のカギは何だったのか?
▽今後どんな成果が期待されるのか
▽そしてこの分野で世界をリードし続けるには
以上3点からミッション成功の意義を水野倫之解説委員が解説。

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帰還後の会見で、津田プロマネは「我々は惑星間の往復の飛行の扉を、完全にくぐり抜けることができた。100点満点で1万点。」と述べ、ミッションの締めくくりも完璧だったことを強調。
はやぶさ2のカプセルはきのう未明に大気圏に再突入。
着地点のオーストラリアでは夜空にオレンジ色に30秒間輝き続け、広大な砂漠地帯に着地。
新型コロナの影響で回収チームは縮小せざるを得なかったがその分ヘリコプターなど6段構えの態勢で捜索にあたり、カプセルを発見。あす日本に到着する。

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はやぶさ2はこれまで数々の成果。
直径900mの小惑星リュウグウが46億年前に天体どうしが衝突してできた破片が集まってでき、内部はスカスカであること。
そして光の反射率から炭素が多くあることなどを明らかに。
さらに2回の着陸と人工クレーター作成にも成功。小天体探査で日本がまた一歩世界をリード。
一連の成功のカギはトラブルが多発した初号機の教訓を全員が共有した上で、相手をよく知り、さらに自分たちを知ることを徹底したこと。

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1回目の着陸延期後の対応でよくわかる。
リュウグウはどこも岩がゴツゴツの状態で、チームは着陸を延期。
その後4か月、チームは相手となるリュウグウを知ることに徹しました。1万個の岩を徹底観測。高さを見直し立体地図を作成して、ようやく平坦な場所を発見。
ただそこは幅が6mしかなく、機体の飛行精度は設計上50mの誤差があったためまだ着陸できない。
そこでチームは自分たちの能力を知りその向上に力を注ぐ。まずは機体の12個ある姿勢制御エンジンのくせを調べ、どう噴射するかを決めたプログラムを作り、飛行精度を2.7mに高めた。さらにメンバーの運用能力を高めるためシミュレーターでトラブルが次々に起きる着陸訓練を48回重ねました。22回はうまくいかなかったがその分対応方法がわかり、着陸成功につなげた。

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こうした対応は2回目の着陸でもカギとなった。
チームは人工クレーターで噴出した地下物質の採取に挑戦しようとしたところ、JAXA上層部は待ったをかけた。
すでに岩石を手にした可能性が高いのにあえてまた危険を冒す必要があるのか、100点ではなく60点で帰ってくればいいと。国の予算を使う以上失敗は許されないというわけ。
これに対しチームは、「風化していない地下物質は価値が高く、着陸して採取すべき」との意見で一致。着陸地点周辺に危険な岩がないことを再確認した上で、姿勢制御エンジンが想定通り噴かないなど10万通りを想定し、そのすべてで対応できることを示してようやく了解を得て、再着陸に挑戦。
さらに最後の帰還も姿勢制御の訓練を繰り返した上で成し遂げた。
このようにミッション成功は何も偶然ではなく、常に自分たちの能力を高め続けて勝ち得たもの。

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では、苦労して手にしたかけらからどんな成果が期待されるのか。
最も注目されるのは、生命誕生のなぞに迫る成果。
地球の生命は、有機物や水を含む小惑星が隕石となって地球に運ばれ、そこから生命が誕生した、つまり地球上の生命は宇宙からやってきたとする説が注目。

リュウグウに多く存在する炭素は有機物を作る成分。
またリュウグウの表面の光を分析したところ、水の成分を含む岩石の存在も判明。
今回採取したかけらに有機物や水の成分が含まれていれば、生命誕生のメカニズムを解明する手掛かりが得られることが期待される。

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さらにはやぶさ2はミッションを延長し、あらたな探査。
目的地は1998KY26という直径30mの小さな小惑星で、10年かけ100億キロ飛行し到着する計画。数10mクラスの小天体は数100年に1回の確率で地球に衝突し被害を及ぼすおそれがあるとされる。こうした小天体の実態が明らかにできれば、その防御方法を検討する上でも役に立つ可能性があり、延長ミッションは大きな意義がある。
ただはやぶさ2は設計上の寿命を大幅に超えて運用されることになるため、今回培った探査のノウハウを生かして慎重な運用に徹し、新たな成果を期待したい。

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このように小天体探査で様々成果を上げている一方で、その基盤は心もとない。日本の宇宙関連予算は少しずつ増えて年間3千数100億円。ただ安全保障や産業利用に重点投資され、無人で天体探査を行うような宇宙科学分野の優先度は高くない。その予算も5年前は200億円以上確保されていたが減少傾向で今年度は160億円。実際はやぶさ2も当初は十分な予算がつかず、初号機が帰還していなかったら実現していなかったかも。現場で関係者は技術開発で探査機を小型にして予算を抑えるなど、知恵と工夫で乗り切っている。
ただ世界はこの分野に意欲的。
すでにアメリカが1000億円をかけて大型探査機を小惑星に送り、10月に岩石採取に成功したとみられるほか、ヨーロッパも今後探査の予定。また中国の探査機が今月月面に着陸、岩石を採取したとみられるなど、各国は追い上げ。
日本がはやぶさの2機にかけた予算は500億円あまり。アメリカの半分の予算で世界初のことを成し遂げ、大きな成果も期待されている。
日本の小天体探査は費用対効果が高いともいえるわけで、実際欧米より10年先を行くと評されるなど宇宙開発の中でも数少ない世界トップレベルの分野。
こうした得意分野を持てば、国際協力で宇宙利用を進める場合に対等にやっていけるメリットもある。今回得られたノウハウを継承し小天体探査をさらに育てていくためにも、予算や人員面でしっかりと支えていく必要。
ただそのためには国民の理解も必要。
小惑星の岩石は今月中にはカプセルから開封され、分析が始まる。チームはその分析の経過と成果を逐一示して、小天体探査をめざす意義をわかりやすく説明していってほしい。

(水野 倫之 解説委員)

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