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「臨時国会閉会 見えてきた課題と展望」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

菅総理大臣が就任して初めての国会論戦となった臨時国会は、4日、事実上、閉会しました。菅総理大臣は、閣僚の多くを安倍内閣から再任する手堅い布陣で臨み、野党第1党の立憲民主党は、合流新党として国会を迎えました。会期中、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、論戦に大きな影響を与えました。今国会で、菅政権、野党側それぞれに見えてきた課題と展望について、考えてみたいと思います。

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(菅政権の課題①感染・経済対策)
臨時国会は、政府が提出した法案や議案がすべて成立し、5日、閉会します。菅総理大臣にとっては、就任後、初めての国会でしたが、国民への説明のあり方が問われました。

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今国会、菅総理大臣は、冒頭の所信表明演説で、「爆発的な感染を絶対に防ぐ。そのうえで、社会経済活動を再開させ、経済を回復させる」と述べ、感染対策と経済の両立を最優先課題に位置付けました。
しかし、会期中、感染の急速な拡大がみられました。国会が召集された10月26日に、全国で410人だった新規感染者数は、今月3日には2518人と、およそ6倍となり、162人だった重症者も、今月3日には497人と、およそ3倍になっています。先月25日、分科会が3週間程度の短期間に集中して、さらに強い対策を求める提言を出したことを受けて、政府は、▼知事と連携して、飲食店に対する営業時間の短縮要請を徹底すること、▼「Go Toトラベル」事業の一部を見直すことなどを打ち出しました。

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ただ、「Go Toトラベル」事業の見直しをめぐっては、わかりにくさが指摘されました。
政府の分科会は、強い対策が必要な「ステージⅢ」相当となる地域で、「Go Toトラベル」事業の一時停止を行い、その際には、その地域からの出発分についても一時停止を検討するよう提言しました。これに対し、政府は、札幌市と大阪市を目的地とする旅行は対象から外したものの、出発分は、事業の利用の自粛にとどめました。東京発着の旅行については、事業から外すことはせず、65歳以上の高齢者などに自粛を呼びかけることになりました。
提言と対応に違いが生じたことで、政府と専門家の間に認識のずれがあるのではないかという見方や、総理大臣の顔が見えないといった指摘が出されました。
菅総理大臣は、きょう、記者会見で、「強い危機感を持って対応している」としたうえで、基本的な感染対策の徹底を呼びかけました。
コロナ禍に打ち勝つには、幅広い国民の理解と協力が不可欠で、今後も、節目で、菅総理大臣が、感染の抑え込みと経済の両立に向けて、どの地域のどの年代に、どのような対策を打っていくかなど、方針をより分かりやすく説明することが求められます。

(菅政権の課題②日本学術会議問題)
今国会の前半、日本学術会議の会員の任命をめぐる問題は、政府と、立憲民主党や共産党などの野党側との間で激しい議論の応酬となりましたが、この問題も、総理大臣の説明のあり方が問われました。

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この問題は、学術会議側が推薦した会員候補105人のうち、いずれも人文・社会科学の学者6人が任命されなかったというもので、野党側は、安全保障関連法などに反対したことが今回の判断の理由ではないかと指摘し、措置の撤回などを求めています。

この問題は、学術会議の組織の持つ2つの側面が影響しているように思えます。
学術会議は、政治的判断から独立して学術的な観点から意見を出すため、法律で、独立して職務を行うとされています。同時に、学術会議は、内閣府に置かれた機関であり、会員は特別職の国家公務員となります。前者の側面をより重視する野党側は、独立性を確保するには、内閣は、学術会議の推薦通りに任命すべきで、任命しないことは、憲法23条が保障する学問の自由を侵害する、あるいは影響を与えるものだとしています。これに対し、政府は、公務員の選定は国民固有の権利であることが憲法15条で定められており、会員の任命は総理大臣が国民や国会に対して責任を負うものだとして、ともに憲法を根拠に主張しています。

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一連の質疑で、菅総理大臣は、政府の立場を説明しましたが、先月のNHKの世論調査では6割を超える人が、「説明は十分ではない」と答えています。
ただ、戦前の日本では、学問の自由が、直接、国家権力に侵害された歴史があり、学術界から強い懸念が示されています。人事をどこまで説明するかは難しいところがありますが、菅総理大臣は、学問の自由の重要性について所見を述べるなど、みずからの言葉で、国民の理解を得る努力が必要なのではないでしょうか。

(菅政権の課題③「桜を見る会」をめぐる問題)

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国会の最終盤で、安倍前総理大臣の「桜を見る会」の前日夜の懇親会をめぐる問題が報じられました。前の総理大臣の後援会が主催していただけに、捜査の行方次第では、政治への影響は小さくありません。安倍氏は、国会で、事務所や後援会の収入、支出は一切ないと繰り返し答弁していて、野党側は、虚偽答弁だとして、本人の国会招致を求めています。安倍氏はきょう、「誠意をもって対応していく」と述べています。仮にこれまでの答弁が事実と異なるとすれば、それをどう扱うのか、政府・与党の対応も焦点になります。

(菅政権の課題④看板政策は)

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菅政権の主要政策である、「デジタル庁」の新設や、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」は、法案や計画の詳細が固まっていないことから、今国会では総論的な議論にとどまりました。政府は、「デジタル庁」に関しては、来年の通常国会に必要な法案を提出するとしていて、本格的な論戦は来年に持ち越されることになりました。

(野党第1党・立憲民主党の課題)
野党第1党の立憲民主党は、非自民勢力の「大きな塊」を目指して、ことし9月、前の国民民主党などと合流して、数の上では、2009年に政権交代を果たす前の旧民主党と同じ水準となり、国会に臨みました。

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政党支持率をみますと、合流した9月には、6.2%と、前の月から2ポイント上昇しましたが、先月には4.9%に下落し、合流効果を支持拡大につなげているとは言えません。
今回の合流は、旧民主党が政権交代を実現したきっかけとなったとも指摘される2003年の民主党と自由党の合併がモデルになったとの見方があります。当時の政党支持率をみてみますと、両党が合併に合意した2003年7月に、民主党の支持率は6.4%でしたが、その年の12月には13ポイント以上上昇して、19.8%となっています。
当時は、合併したばかりの民主党が、選挙公約に具体的な数値目標を盛り込むマニフェストをかかげたり、党役員に当選回数の若い議員を抜擢したりするなど、清新さをアピールしていました。
立憲民主党は、現在、総選挙に向けて党の基本政策のとりまとめに当たっていますが、エネルギー政策などをめぐって異論が出て、核となる政策を打ち出せないでいます。
自民党に代わる政権の受け皿として、国民に信頼され、支持を広げられるかが問われることになります。

【まとめ】
来年の通常国会について、政府・与党は、来年1月中旬に召集する方向で調整を進めていて、感染状況を踏まえれば、早期の解散は難しいとの見方があります。
ただ、来年は、10月までに衆議院選挙が行われ、政治決戦の年であることから、通常国会は、冒頭から、与野党の激しい攻防が予想されます。予算案に加えて、今国会から持ち越された菅政権の主要政策、外交についても、本格的な論戦が交わされるとみられ、各党は、コロナ禍という未曽有の事態に取り組みながら、ポストコロナの社会を見据えた政策を国民に提示できるのかが問われることになります。

(梶原 崇幹 解説委員)

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