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「辺野古土砂投入2年 対立はなぜ続くのか」(時論公論)

田中 泰臣  解説委員

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設計画。
沖縄県が移設の阻止を目指して起こした裁判が先月27日に開かれ、県が敗訴しました。しかし埋め立て予定海域で見つかった「軟弱地盤」により、工事の難航、長期化が予想され、今後この問題の取り扱いが焦点となります。政府と沖縄県の対立の今と、今後について解説します。

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《辺野古は今》
今月14日で土砂の投入が始まってから2年になります。防衛省は9月末で、護岸で囲った1つの区域、6へクタールあまりの陸地化を終えたと発表しました。これは埋め立て面積全体の4%にあたります。

《「承認」と「撤回」で対立》
今、政府と沖縄県が激しく対立しているのが、「承認」と「撤回」をめぐってです。

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防衛省は、2013年に当時の仲井真知事が辺野古沖の埋め立てを承認したことを根拠に工事を進めています。その後、移設阻止を掲げた翁長氏が知事に就任、工事の進め方に問題があるなどとして承認の撤回を表明しました。翁長知事の死去後、県は承認を撤回。翁長知事の後に、就任した玉城知事も方針を受け継ぎました。これに対する政府。埋め立ての法律を所管する国土交通大臣は、「撤回には理由がない」などとして取り消しました。

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先月27日、この撤回をめぐる裁判の判決が那覇地裁で言い渡されました。
県が、国土交通大臣による撤回の取り消しは違法と訴えたものです。
玉城知事がみずから法廷に立ち、「埋め立て予定海域で軟弱地盤の存在が明らかになり、工事では環境破壊が繰り返されている」などとして、撤回の正当性を訴えました。しかし判決は「撤回」が妥当かどうかなどには踏み込まず、「裁判の対象にならない」と、いわば「門前払い」の却下としました。沖縄県は、移設の阻止を目指し、これまで何度も裁判を起こすも訴えは認められていません。

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一方、官房長官時代、移設計画を中心になって進めてきた菅総理大臣。10月の初めての所信表明演説で、「普天間基地の危険性を1日も早く除去するため、辺野古移設の工事を着実に進める」と述べました。
玉城知事は、菅総理大臣とおよそ5分間の会談で対話による解決を目指し、協議の場を設置するよう求めましたが、実現していません。

《焦点は軟弱地盤》
一方、政府にとっては今後、軟弱地盤という問題が大きな壁になってきます。
これにより、大部分の埋め立て工事ができなくなる可能性があり、工事が長期化するのは間違いない状況です。この問題について考えたいと思います。

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埋め立て承認後に、埋め立て予定海域に軟弱地盤があることがわかったとして、防衛省は、およそ7万1000本の杭を海底に打ち込み、地盤を強化する改良工事を行うことにしています。図の黄色の部分が、その工事が必要な所です。現在埋め立てが進められている区域とは別の所で、広範囲に及んでいます。
これによりなぜ工事が進められない可能性があるのか。
それは、法律で、工事の方法を変更するには知事の許可が必要になるからです。
防衛省はことし4月、変更を県に申請。
実に埋め立て面積全体の70%以上が、知事が認めなければ、今後、工事ができない状況になるのです。玉城知事が結論を出すのは年明け以降になる見通しです。
また、この改良工事、簡単なものではありません。

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防衛省が作成した海底の推定断面図です。茶色で示したのが「粘性土」という、いわゆる軟弱地盤の部分です。一番左のところ、海面から90メートルの深さに及びます。ここには70メートルの深さまで杭を打ち込むとしていますが、ここまでの深さの工事は国内では前例がないということです。
また軟弱地盤の深さは場所によって違い、固い地盤も入り組んでいるのがわかります。このため改良工事後も時間の経過につれ地面の高さが均一にならず、いわば「段差」のようなものが生じることが想定され、防衛省は定期的な補修が必要になるとしています。防衛省は20年間で2回から4回ほどの補修を行う必要があると試算。これに対し沖縄県は基地として使い物にならず補修の費用も莫大になるのではと指摘しています。防衛省はその費用については、これまで明らかにしていません。また改良工事が加わったことで、作業にあたる船も1日最大100隻におよぶことから、県は周辺の自然環境に悪影響を及ぼす可能性も指摘しています。

《早期返還は絶望的?》
そして工事の長期化の問題があります。

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防衛省は、改良工事に着手すれば9年間で埋め立ても含めて工事を終え、その後3年間かけて必要な手続きなどを行うとしています。
軟弱地盤の存在が明らかになる前は、普天間基地は早ければ2022年度に返還としていましたので、10年以上遅れるのは間違いない状況です。また3500億円程度としていた移設工事費用も改良工事が加わり工期が延びたことなどから9300億円に上るとしています。

玉城知事は工事の変更申請について、「普天間基地の早期返還につながらないのは明らか」として最終的には認めない構えです。認められなければ大部分の埋め立て工事ができなくなり、今度は政府の方が県を訴える可能性が出てきます。
その争いが長引けば長引くほど、移設の実現は遠のき、普天間基地の返還は見通せない状況になります。
仮に、政府の主張が認められても、それからようやく12年後に移設が可能になります。普天間基地の早期返還は政府も県も一致して目指すところですが、当初の計画と比べれば絶望的と言えます。

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それでも防衛省の担当者は、日米両政府の間では辺野古が唯一の選択肢というのは揺るがず、これが一番の近道だと言います。
ただ先月公表された、アメリカの有力なシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所の報告書では、工期の延長や費用の高騰に触れ、「完成する可能性は低いと思われる」という記述が盛り込まれました。

菅総理大臣は、日米同盟による抑止力を維持しつつ沖縄の基地負担軽減に取り組むと強調しています。辺野古には普天間基地の規模や機能を縮小したうえでオスプレイの部隊などを配備する計画で、政府関係者の1人は、「今の安全保障環境を考えれば、沖縄からその部隊を削減するという発想は出てこないのではないか」と言います。ただアメリカの、この問題へのスタンスに、今後変化が出てこないかは注目していきたいと思います。

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これまで見てきたように、移設阻止を掲げた翁長前知事、玉城知事が選挙で勝利し、去年の県民投票では埋め立てに「反対」が多数を占めた、いわば沖縄の民意と、政府の方針の食い違いの溝は埋まっていません。
3世代にわたり辺野古に住む男性は、「目の前の海が埋め立てられるのは賛成ではないが反対しても国には勝てず、もう疲れたというのが正直なところだ」と話していました。沖縄県内では、「政府はそうした“あきらめ”を待っているのではないか」という見方もあります。ただ移設工事が長期化するのは間違いない中、政府と沖縄県が一致している沖縄の基地負担軽減、とりわけ普天間基地の早期返還をどう考えるのか、政権が変わるアメリカの出方も踏まえながら、打開に向けた糸口を見つける時期に来ているのではないでしょうか。 
     
(田中 泰臣 解説委員)

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