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「欧州コロナ危機から見えるものは」(時論公論)

二村 伸  解説委員

世界の新型コロナウイルスの感染者が累計で6000万人をこえました。9月下旬に3000万人をこえたばかりでしたので、わずか2か月で2倍に増えました。その4分の1がヨーロッパの感染者です。8月以降強烈な第2波に見舞われたヨーロッパでは外出制限などの厳しい措置をとった結果、ようやく今月後半になって感染者増加のペースが鈍り始め、一部の国で制限を緩和する動きも見られます。感染の拡大を防ぎながらいかに経済を回復させるか、試行錯誤を続けるヨーロッパからどんな教訓が得られるのか、各国の対応を見ながら考えたいと思います。

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ヨーロッパで新型コロナウイルスの感染者がもっとも多いのはフランスで、ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、きょう午後8時現在、224万人に上り、世界で4番目に多い数です。スペインは162万人、イギリスとイタリアも150万人をこえています。

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ヨーロッパでは8月以降、新たな感染者の数が今年春の第1波をはるかに上回るペースで増え続けました。▼フランスでは今月6日、1日の新規感染者数が6万人をこえ、▼イタリアは13日に4万人、▼イギリスもその前日に3万人をこえました。変化が現れたのは今月後半になってからです。各国の新規感染者数が前の日より減り始め、フランスでは1日の新規感染者が今週1万人を割り込みました。

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▼マクロン大統領は24日、「第2波のピークがすぎた」と述べ、先月30日から全土で行ってきた外出制限を段階的に解除する方針を示しました。第1段階として、明日28日から食料品店以外の商店も営業を認め、買い物のための外出が可能になります。
第2段階は来月15日以降、一定の条件を満たせば日中の外出制限を解除し、映画館や美術館の再開を認めます。第3段階は、来年1月20日頃をめどに夜間の外出制限も解除し、飲食店の営業も認める方針です。
▼イギリスもロンドンを含むイングランド全域の外出制限や店舗の営業禁止措置を解除し、来月2日以降は全国一律の規制をやめて、地域の状況に応じて規制を行うことを決めました。感染状況が改善された地域では、レストランやパブの深夜営業が認められ、観客数を制限したスポーツイベントの開催も認められるようになります。
▼イタリアも来月4日以降、ロックダウン・都市封鎖の対象地域を減らす方針です。
▼一方でドイツは慎重です。メルケル首相は25日新規感染者が依然多いことを理由に今月までとしていた飲食店の営業停止を来月20日まで延長すると発表し、1月も規制が必要だろうとの見方を示しました。スポーツや文化施設も引き続き閉鎖されます。このように国によって対応は異なっています。

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ヨーロッパの国々は新型コロナウイルスの流行が始まってから規制の強化と緩和を繰り返してきました。▼今年春の第1波では、各国で都市封鎖や商店の営業禁止、工場の操業停止などといった厳しい措置がとられました。▼4月後半以降、新規感染者の数が減り始めると規制を緩和。すると夏のバカンスシーズンに人の移動が活発化し感染者が急増、第2波が始まりました。このため各国は再び外出制限などを行いましたが、第1波のときのような厳しい措置はとりませんでした。経済の回復を優先させたからです。▼感染拡大は歯止めがかからず、フランスやイタリアなどでは集中治療室が足りなくなるのではないかと懸念される事態となりました。経済活動の早すぎる再開は、第2波のリスクを高めると専門家が指摘した通りになったのです。そこで各国は、先月になって都市封鎖など規制を強化し、ようやく感染者増加のペースが鈍ったのです。
とはいえ今また規制を緩めれば、再び感染が広がる可能性は否定できません。とくに懸念されるのがクリスマス期間中の人の集まりです。イギリス政府はクリスマス期間中、3世帯までの集まりを認めることにしています。フランスのマクロン大統領も、この期間は夜間の外出も認める方針です。厳しい規制には住民の不満が強く、各地で抗議のデモも起きているだけに、1年でもっとも重要なクリスマスのときだけでも家族や親しい人たちが一緒に過ごせるように配慮したのです。しかし、ヨーロッパ委員会のフォンデアライエン委員長は、「緩和を急ぎすぎるとクリスマス後に第3波を招くおそれがある」と警告し、各国に慎重な対応を求めています。WHO・世界保健機関のヨーロッパ担当の局長も「まだ6か月間は厳しい状況が続くだろう」と述べています。第2波は第1波のときより死者の数が大きく減っていますが、パーティーなどに参加した若者の感染が多く、今後高齢者の感染が増えたときの重症化が懸念されます。

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それでも規制を緩和せざるをえないのは、外出制限や商店の営業停止による景気の落ち込みが深刻だからです。ヨーロッパ委員会は5日、今年のEU27か国のGDPの実質成長率をマイナス7.4%と予測し、失業率も7.7%と、前回予測より1.3ポイント下方修正しました。ユーロ圏のGDP・域内総生産も、規制を緩和した7月から9月は前の3か月より12.9%の大幅な伸びとなりましたが、10月から12月は再びマイナス成長に陥ると見られます。一方、イギリス政府は25日、今年の経済成長率がマイナス11.3%と、過去300年で最悪となりコロナ前の水準に戻るのは再来年末になるとの見通しを示しました。感染が長期化すれば経済のさらなる落ち込みは避けられそうにありません。
フランスのマクロン大統領は来月から来年1月にかけてワクチン接種が始まる可能性があると述べ、ドイツ政府も来月にもワクチン接種の準備を始める方針です。とはいえワクチンが広く行き渡るにはまだ時間がかかるだけに過剰な期待や楽観は禁物です。

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これまで見てきたようにヨーロッパ各国は、規制を強化したり緩和したりする柔軟な対応をとってきました。また、国の中でも地域ごとに規制の濃淡をつけています。
ただ、どんなに厳しい規制を実施しても感染を完全に封じ込めることは不可能であり、規制の緩和と同時に第2波、第3波に備える必要があること、経済の回復を急ぎすぎると状況が悪化し却って対応が難しくなることがヨーロッパから見えてきました。
未曽有の危機に政府と自治体、そして国民が一つになって立ち向かうためには、規制の強化だけでなく休業者への補償や零細企業への補助金の支給、融資などの支援策まで状況に応じて速やかに実施すること、そして長期的な見通しを示しながら、なぜ規制を強化するのか、また、どうなったら規制を緩和するのか、丁寧な説明が必要であることは言うまでもありません。ドイツのメルケル首相がテレビを通じて国民に率直に語り掛け、多くの共感を得たのはその一例です。
日本はヨーロッパと生活習慣が大きく異なり必ずしも同等の対策を講じる必要はないかもしれませんが、感染がさらに拡大した場合どのような対応が考えられるのか、国民の理解を得るためには何が必要か、試行錯誤を続けるヨーロッパの取り組みから教訓として得られるものも少なくないと思います。

(二村 伸 解説委員)

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