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「実現なるか? 小中学校の少人数学級」(時論公論)

二宮 徹  解説委員

今、教育界では、小中学校の1クラスの上限を、40人から30人などに引き下げる「少人数学級」を求める声がかつてないほど高まっています。

文部科学省も、学力向上やいじめ・不登校への対応に効果が見込めるほか、新型コロナウイルスの感染防止にも必要だと、予算折衝に力を入れていますが、財務省側は、教員の大幅増につながりかねないなどとして慎重です。

この「少人数学級」をめぐる動きと課題についてお伝えします。

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<解説のポイント>
ポイントは①上限“40人”の経緯と現状、②少人数学級の効果、③実現への課題と道筋です。

<「少人数学級」とは>
政府の教育再生実行会議の部会でも、学校や自治体、専門家の委員からは、現在の1クラスの上限40人を、30人以下に減らすよう求める意見が相次いでいます。

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公立の小中学校は、義務教育標準法という法律で、1クラスの人数の上限が定められています。
上限は、1959年度から全国一律に50人とされ、その5年後に45人、1980年度には40人に引き下げられました。そして、2011年度からは小学1年のみ35人になりました。ただ、小1以外の上限は、40人のまま、40年間変わっていません。
去年、30人を超えたクラスは、全国で小学校の37%、中学校の70%でした。
これは、地方では少子化で1つの学年に30人もいない小学校が増えた一方で、子どもが多く、学年に複数のクラスがある学校の多い都市部では、少人数化があまり進んでいないことなどを反映しています。

<上限「40人」とは>
このため、40人の上限をすべての学年で引き下げることは、教育界が長年求め続けている悲願です。
まずは、そもそも、この40人という上限がクラスの人数にどう関わるのか、その仕組みを説明します。

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ある学年の子どもが40人ちょうどの場合、上限を超えていないので、そのまま1クラスです。41人だと、40人を超えているので、21人と20人の2クラスに分けます。同様に、121人の場合、3クラスだと1つが41人になってしまうので、4クラスになります。このように、クラスの人数は、その学年の人数によって決まります。

<効果①教室の現状>
1クラス40人と30人では、子どもの環境や授業にどのような違いが出るのか。コロナ対策に関わる教室の環境を考えます。
先日、私が取材した都内の小学校は5年生が80人で、上限40人ずつの2クラスです。40人のクラスでは、左右との間隔はおよそ1メートルですが、前後は90センチ程度しかありません。
一方、92人の2年生は、30人や31人のクラスが3つです。30人の教室は、40人に比べて、机が縦横1列ずつ少ないので、間隔は前後左右1メートル以上あります。

<少人数学級はコロナ対策だけではない>
教育関係者の多くが、教室での感染を防ぐには、緊急に少なくとも30人以下にすべきと要望しています。
ただ、コロナ対策のためだけに少人数学級が実現しても、感染が終息したら、元の40人に戻すことになりかねません。

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このため、文部科学省や中教審・中央教育審議会も、コロナ対策が唯一の目的ではなく、学力や指導に効果が見込めることを強調しています。
中教審では、6年前から独自予算で小学3、4年を35人学級にした埼玉県和光市から、学力が向上したうえ、一人一人の成長支援も実感できるようになったという報告がありました。
他にも、コロナ対策で分散登校にしたところ、不登校の子どもが通いやすくなり、クラスの人数が少ないほど、登校する子どもが増えたというデータも示されました。
教員がもっと目を配れるようにして、学習の理解度を高め、いじめや不登校を減らす。私も、こうしたきめ細かい指導こそが少人数学級の最大の効果だと思います。

<実現へのハードル>
しかし、上限の引き下げは、そう簡単に実現する状況ではありません。これまでも跳ね返されてきた財政面の問題が立ちはだかっています。先月開かれた財務大臣の諮問機関・財政制度等審議会の部会でも、慎重な意見が相次ぎました。

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上限40人を基準に算定した公立小中学校の教職員の「基礎定数」は63万人あまりです。30人に引き下げた場合、8万人から9万人増やす必要があると試算されています。単純に計算すると、国庫負担は数千億円増えます。また、財政審は、教員1人あたりの子どもの数も他の先進国と変わらない水準であり、学力向上も明確なデータはないとしています。

<段階的導入は?>
すぐに教員を8万人増やすというのは、教員の質という面でも現実的ではないかもしれません。
そこで、文部科学省などからは、少子化を織り込みながら、10年ほどかけて上限の引き下げや適用する学年を段階的に進めるという案が出ています。これは前回、1980年度に引き下げた時と同じような方法です。

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公立小中学校の子どもの数の推移と見通しです。2000年には1109万人でしたが、今年は925万人に減りました。10年後には、さらに減って805万人と推計されています。こうした中で、教員の定数を10年程度、今の水準を維持できれば、教員を5万人程度増やすのと同じような効果が得られる計算です。
加えて、現在、習熟度別指導などの目的で加配・つまり追加で配置されているおよそ3万人の人材や予算の一部を活用するという案も出ています。

<教員の働き方改革が重要>
段階的に進める場合は、先ほどの和光市の35人学級など、独自の工夫で成果を上げている地域や学校を尊重し、参考にしながら、効果的な進め方をしてほしいと思います。そして、少人数学級を目指す中で、もう一つ、大切な視点があります。教員の働き方改革です。

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教員は、多様化する子どもや家庭、それに、いじめや不登校、外国籍の子どもの増加などへの対応に追われています。さらに今は、体温・体調の確認、教室の消毒なども加わり、残業も増えています。
働き方の改善は、教員の志望者を増やすことにつながり、今後、教員の質と数を確保するためにも欠かせません。さらに少人数学級の効果も高められると思います。

<まとめ>
コロナ禍の学校を取材して、あらためて感じるのは、日本の学校は、学習だけでなく、子どもたちの居場所や成長の場としても重要な役割を担っているということです。
小中学校では、夏ごろまでは比較的、感染を抑えていましたが、最近は感染者が増え、クラスターが発生した学校も出てきています。まずは、学校での感染対策の徹底が求められます。
その上で、新しい時代の日本を見据え、今回こそ少人数学級を実現させてほしいと思います。

(二宮 徹 解説委員)

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