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「参院選『1票の格差』 大きな改革議論を」(時論公論)

山形 晶  解説委員

去年の参議院選挙の「1票の格差」をめぐる裁判で、最高裁判所が判決を言い渡しました。
「1票の格差」というのは、国政選挙の際に、住んでいる地域によって1票の重みが違うという地域間の格差の問題です。
去年の参議院選挙では、最大で3倍程度の格差がありました。
これが憲法に違反するかどうかが争われましたが、最高裁判所大法廷は、憲法に違反しないという判断を示しました。
一方で、国会は、引き続き格差の是正を図ることが求められているという認識を示しました。
問題は、これまでのやり方では格差の縮小に「限界」が近づいていると指摘されていることです。
今後、国会にはどのような議論が求められているのでしょうか。

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そもそもなぜ「1票の格差」が生じるのでしょうか。
参議院選挙の選挙区は、都道府県単位で区割りが行われていますが、有権者の数は都道府県によって大きな差があります。
これが格差の原因です。
それぞれの定員を多くしたり少なくしたりして調整しても、一定の格差が生じてしまうのです。

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例えば、地方のA県の有権者数が100万人だったとして、割り当てられた議員の定員が1だったとします。
一方、都会のB県の有権者数が300万人で、同じく定員が1だったとしたら、どうなるでしょうか。
この場合、地方のA県は都会のB県に比べて、1票の重みが3倍ある、という見方ができます。
逆に言えば、都会のB県の1票の重みは地方のA県の3分の1になります。

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実際に、去年夏の参議院選挙では、議員1人あたりの有権者数が最も少ない福井県と最も多い宮城県との格差は、これとほぼ同じ3.002倍でした。
その前、4年前の選挙も3.08倍で、ほぼ同じでした。
1票の格差をなくすというのは、法の下の平等を定めている憲法から導かれる要請です。
一方で、選挙制度には、地域の声や様々な職種の人たちの声など、多様な民意をきちんと国政に届けられるようにすべきだという要請もあります。
この2つをどう両立させるのか、というのがこの問題の難しさです。
今回、裁判では、どう争われたのでしょうか。

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裁判を起こした2つの弁護士のグループは、あくまでも憲法上の要請に基づいて格差をなくすべきだと主張しました。
今の制度は、憲法が保障する「投票価値の平等」に反するという主張。
そして、1票の重みに今のような格差があると国政に民意が正しく反映されず、憲法が定める国民主権に反するという主張です。

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一方、訴えられた側の各都道府県の選挙管理委員会は、憲法に違反しないと反論しました。
どのような選挙制度にするのかは国会の裁量に委ねられているということ、そして、多くの国民が帰属意識を持つ都道府県は、政治的にまとまりのある単位として重要な意義があり、合理的な区割りだということを主張しました。
さらに、埼玉県の定員を増やすことで4年前の選挙に比べ、格差をわずかながらも縮小させたということも主張しました。
今回の判決で、最高裁はどう判断したのでしょうか。

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最高裁判所大法廷は、今の制度は憲法に違反しないと結論づけました。
「違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない」という判断です。
判決の中では、「国会には格差のさらなる是正を図ることが求められている」という認識を示し、「是正に向けた取り組みが大きな進展を見せているとは言えない」という指摘もありました。
しかし、「わずかではあるが格差を是正しており、性質上、慎重な考慮を要することにかんがみれば、是正を目指す姿勢が失われたとは言えない」として、国会の取り組みに一定の評価を示しました。
これは15人の裁判官の多数の意見でした。
一方で、裁判官の1人は「違憲状態」だという意見を、3人は、「憲法に違反する」という反対意見を述べました。

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最高裁も、今の状態にまったく問題がないと受け止めているわけではないことがうかがえます。
考えなければならないのは、一部の選挙区の定員を少しずつ見直すというこれまでのやり方では、格差を大きく縮小することはできないということです。
さらに、2つの県を合わせて1つの選挙区とする「合区」を今の形で維持するのか、という問題もあります。
今は、人口の少ない鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ「合区」で1つの選挙区となっています。

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参議院の1票の格差は、以前は5倍程度で推移していましたが、それが3倍程度に縮小したのは、この「合区」が大きく影響しています。
格差を大きく縮小するには「合区」をさらに増やすという方法が考えられます。
しかし、一部の地方だけの「合区」は、強い不公平感を伴います。
現に、「合区」になった地域を中心に、見直しを求める声が上がっています。

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今、求められているのは、参議院の位置づけも含め、どのような選挙制度が望ましいのか、という大きな改革の議論ではないでしょうか。
憲法は、二院制のもとで、参議院の任期を6年と衆議院より長く定めています。
衆議院のような解散もありません。
これは、多角的、かつ長期的な視点から民意を反映させるための仕組みだと解釈されています。
それにふさわしい選挙制度を、1票の格差の是正との兼ね合いの中でどう考えるのかは、まさに国会の役割です。
これまでは都道府県を単位とする区割りを行ってきましたが、より細かい区割りになっている衆議院に比べると、どうしても格差が大きくなります。
最高裁も衆議院より大きな格差を容認してきましたが、5倍前後の状態が続く中、平成24年と26年に「違憲状態」だという判断を示しました。
このため、「合区」によって3倍程度に縮小させたという経緯があります。
しかし、「合区」については、間に合わせの策だという指摘があり、先ほど述べたように、批判の声も上がっています。
はたしてこれが参議院にふさわしい制度と言えるでしょうか。

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参議院でも、これまで、さまざまな議論が積み重ねられてきました。
今回の選挙が行われる前には、各会派の代表が集まって、制度の見直しに向けて意見を交わしました。
この中では、地域の声を反映させるという点を重視して、参議院議員は都道府県の代表だという位置づけを明確にし、そのために憲法を改正するという意見が出されました。

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一方で、1票の格差の是正を重視して、衆議院の比例代表のように全国を11の選挙区に分ける「ブロック制」にして格差を1.1倍から1.2倍程度に縮小するという意見も出されました。
しかし各会派の意見の隔たりは大きく、結局、埼玉県の定員だけを増やすという改正にとどまりました。
この次の選挙に関しても同じように小幅な改正に終われば、格差の縮小は進みません。

最高裁は今回の判決で、今後も格差の是正を進める必要があるという認識を示しました。
参議院の位置づけや参議院にふさわしい議員の選び方も含めた大きな議論の中で、できるだけ1票の格差を縮小できるような制度を考える必要があります。
国会の中で、それぞれの立場を超えて、今度こそ議論が深まり、一定の結論が出ることを期待したいと思います。

(山形 晶 解説委員)

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