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「2020アメリカ大統領選挙 試されるデモクラシー」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ大統領選挙は残りの開票集計が進められています。トランプ大統領が土壇場の巻き返しで再選をつかむのか?それとも民主党のバイデン前副大統領が政権奪還を果たすのか?両者とも、みずからの勝利を確信していると譲りません。未曽有のコロナ禍で異例ずくめの展開となった今回の選挙。はたして有権者が下す審判を双方は混乱なく受け入れるでしょうか。民主主義のモデルとされてきたアメリカ版デモクラシーの根幹が今まさに試されています。現状を分析し、今後の見通しを探ります。

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ポイントは3つ。
▼勝敗を決する激戦州の行方
▼そこで何が明暗を分けるのか
▼そして開票後に予想される事態についてです。

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これまでの開票結果から見て参りましょう。
アメリカ大統領選挙は、ほぼ人口に応じて各州に割り振られた選挙人の過半数270人を獲得した候補が勝つ仕組みです。ほとんどの州で1票でも多く得票した候補がその州の選挙人をすべて獲得する“勝者総取り方式”がとられます。
今のところバイデン氏が獲得した選挙人が225人。トランプ大統領が獲得した選挙人は213人。勝敗の行方は残り9つの州の争奪にかかっています。

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真っ先に注目された激戦州は南部フロリダでした。選挙人が29人とカリフォルニアやテキサスに次いで全米3番目に多く、選挙のたびに共和・民主両党が激しく競り合います。このフロリダの激戦をトランプ大統領は前回4年前に続き今回も僅差で制しました。トランプ大統領にとって、地元フロリダは“必ず勝たなければならない州”のひとつです。トランプ支持者の熱気と底堅さでコロナ禍の逆風を跳ね返し、終盤でバイデン氏に追いつき追い抜いたかたちです。

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もうひとつ最後まで注目されそうな激戦州が東部ペンシルベニアです。選挙人が20人。もともと民主党の地盤でバイデン氏が生まれた州でもあります。ここは投票の締め切りから事前に届いた郵便投票の開票作業がスタートし、集計が進められていますので、まだ大勢が判明していません。
ペンシルベニア州は、前回トランプ氏が失業などで不満を抱える白人労働者層から支持を集めて僅差で競り勝ちました。今回は一貫してバイデン氏が優勢に戦いを進めてきましたが、最後のテレビ討論会でバイデン氏が、環境保護の立場から“フラッキング”と呼ばれる水圧破砕による石油・天然ガスの採掘方法に否定的な考えを示したことから、トランプ大統領がエネルギー産業の雇用を守ると訴えて巻き返しをはかりました。

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では、最終的にどの激戦州で決着がつくでしょうか?
トランプ大統領が再選に向けて“必ず勝たなければならない主な州”は、いずれも前回は競り勝った南部フロリダ、中西部オハイオ、南部ノースカロライナ、西部アリゾナ、また従来は共和党の地盤だった南部テキサスやジョージアも今回は激戦州となりました。
このうちフロリダとオハイオ、テキサスは、すでに勝利を確実にしています。南西部の各州は、人口流入や都市化に伴って、共和・民主両党の勢力図が以前とは変化していることから、こうした“サンベルト”と呼ばれる地域で抑えるべき州を軒並み死守できるかが焦点です。

これに対して、バイデン氏が政権奪還に向けて“必ず勝たなければならない主な州”は、従来は民主党の地盤でありながら前回はトランプ氏に奪われた中西部ミシガン、ウィスコンシン、それに先ほどの東部ペンシルベニア。こうした“ラストベルト”と呼ばれる3つの州の奪還が焦点です。
いずれもまだ大勢は判明していません。3つの州をすべて奪還すればバイデン氏の勝利が濃厚となります。しかし、ふたつ以上落としたらバイデン氏の勝利は厳しくなるでしょう。

とりわけペンシルベニア州は、郵便投票の受付の延長をめぐる共和党による異議申立てが連邦最高裁に受理されず、投票日から3日後の11月6日までに到着した分も集計するとしていることから、大勢の判明はずれ込む公算が大きくなっています。トランプ大統領は「不正の温床になる」として郵便投票に反対してきたため、これが法廷闘争の火種になるかも知れません。

選挙戦の最終盤、新型コロナウイルスで報告されたアメリカ国内の1日の感染者数は、およそ10万人にも上り、もはや感染ルートを追跡できない制御不能に陥るのではないかと心配されています。そうしたコロナ禍で、期日前投票は記録的な多さとなり、最終的な投票率は過去最高の水準に達するのではないかという見方も出ています。

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トランプ大統領は、「コロナ感染でロックダウンはもう沢山」「もうすぐワクチン配布も始まる」と訴えて、コロナ対策より経済回復を優先する姿勢を鮮明にしています。
これに対してバイデン氏は「感染拡大に歯止めがかからないのはトランプ大統領がコロナを甘く見たからだ」とその責任を追及し、当初はみずからの遊説は最小限にとどめ、自宅の地下室からリモートで政策を訴える、いわば“地下室戦略”を採りました。外出時はマスクを着けるなどの良識と科学に基づく対策の立て直しが必要だというのです。
いわば“コロナに始まりコロナに終わる”のが今回の選挙なのかも知れません。

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一方こちらは全米の有権者に4年前に比べて暮らしが良くなったかどうかをたずねた世論調査です。コロナ感染拡大の真只中でも「良くなった」と答えた人が過半数を占めています。実はこの56%という数字は、同じ世論調査機関のデータでオバマ前大統領が再選された2012年当時の45%、ブッシュ元大統領が再選された2004年当時の47%よりも格段に高いのです。向こう4年のトランプ政権の継続を問う今回の選挙で、大統領の経済手腕への期待は衰えていないようです。

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では、今後はどのような事態が予想されるでしょうか?
いま各州が進めている開票集計について、異議を申し立てる事実上の期限は12月8日。それまで両陣営は、郵便投票の有効性や票の再集計などをめぐり、法廷闘争を展開する構えを崩さないかも知れません。
この結果に基づく選挙人が、それぞれの州で投票するのが12月14日。そこで一般の有権者による投票結果には従わない“Faithless Elector”=不誠実な選挙人と呼ばれる造反が出てくる可能性もあります。
この選挙人による投票結果が連邦議会で確定するのが12月23日。そこで仮にどちらの候補も過半数を獲得できなければ、来年1月に発足する新しい連邦議会に決着の舞台は移されます。大統領は下院で、副大統領は上院で決選投票が行われます。
このため大統領選挙と同時に改選される上下両院選挙もきわめて重要になります。下院は民主党が多数派を維持する見通しです。しかし決選投票は各州1票ずつの投票となるため、州ごとの議席数次第で共和党が有利になる可能性もあります。
新しい大統領の就任式は1月20日の正午。それまでに正副大統領がもし決まらなかったら、下院議長が暫定的に大統領代行に就任します。アメリカ史上そのような前例はありません。

アメリカ大統領選挙の仕組みは奇妙で複雑です。全米の総得票数が多かった候補が、必ずしも勝者になるとは限らないケースもあり得ます。しかし、遡ればアメリカが建国まもない頃、異なる政党間で投票による政権交代を初めて実現して以来、こうした大統領選挙を綿々と踏襲してきたのは、人民の意志が示した投票結果を双方が尊重し、敗者が敗北を認め、平和裏に政権移行することこそが、デモクラシーを支える礎と考えてきたからです。
トランプ大統領とバイデン氏のどちらにも、たとえどんなに時間がかかろうと、今回の結果を混乱なく受け入れて、これ以上アメリカに世界が寄せる信頼を傷つけることのないよう求めたいと思います。

(髙橋 祐介 解説委員)

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