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「大阪住民投票 大阪市存続の背景と影響」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

いわゆる「大阪都構想」の是非が問われた大阪の住民投票は、11月1日、投開票が行われ、反対が多数を占め、大阪市は存続することになりました。反対が多数を占めた背景と構想を推進してきた維新の会や政治への影響を考えます。

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法的な拘束力を持つ今回の住民投票は、政令指定都市の「大阪市を廃止」し、4つの「特別区を設置」することの是非が問われました。

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結果は、反対が賛成を、およそ1万7000票上回り、大阪市は存続することになりました。
投票率は、62.35%。賛成と反対の差は、1ポイントあまりというわずかな差で、いわゆる「大阪都構想」は、5年前に続いて、再び否決されました。
なぜ、反対が多数を占めたのか、「大阪都構想」が目指したものと、有権者の意識から探ってみます。
大阪では、維新の会が、去年4月の大阪府知事と大阪市長のいわゆる「ダブル選挙」と衆議院の補欠選挙で勝利して以降、存在感と支持を広げてきました。
今回の住民投票で、1日に投票した有権者を対象にしたNHKの出口調査では、大阪維新の会による大阪府と大阪市の行政運営について、「大いに評価する」と答えた人が26%、「ある程度評価する」が47%で、あわせて73%が「評価する」と答え、評価は高い水準です。
ところが、この「評価する」とした人たちの投票先を見ると、そのおよそ3割が「反対」に投票したと答えています。維新の会の行政運営への評価が、必ずしも「賛成」に結びつかなかったことがわかります。

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「大阪都構想」の狙いは、まず、大阪府と大阪市が、同じような権限を持ち、競い合うように投資を行ってきた「二重行政」の解消があげられます。
維新の会は、大阪府知事と大阪市長を擁し、これまでに「二重行政」は解消されてきているとしています。そのうえで、「今は、知事と市長の人間関係で成り立っているのであって、仕組みを変えなければ、将来、選挙によって、再び『対立や二重行政』が再燃しかねない」と主張しました。これに対しては、維新の会の行政運営を支持する人の間でも、「すでに『二重行政』は解消されつつあり、成果も出ているのに、なぜ大阪市を廃止しなければならないのか」という疑問の声がありました。
また、維新の会は、「二重行政」のムダを省き、成長戦略など広域行政を大阪府に一本化し、必要な政策は、スピード感をもって実現できると強調してきました。
これに対しては、司令塔を一本化することがなぜ成長戦略に結びつくのか。賛否が分かれるカジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備や活性化の起爆剤とする2025年の大阪・関西万博に頼るだけでなく、中小零細企業の活性化策など成長戦略の具体的な中身が必要ではないか。さらに、新型コロナウイルスが社会と経済に大きな影響を及ぼしている、今、この時期に必要な改革なのか、こうした疑問や懸念に答えきれなかったという面があったように見えます。

住民投票で、反対が多数を占めた要因には、特別区への再編によって、行政サービスの低下や格差が生じるのではないかという疑問や不安もあげられます。

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選挙の結果を、現在の大阪市の24の区ごとに見ます。府庁や市役所がある中心部に近い10の区で賛成が多数を占めたのに対し、これを取り巻くように、おおむね南東部から西部にかけての14の区で反対が多数を占め、地域ごとに差が出ています。

「大阪都構想」の柱の一つが、4つの特別区に再編することで、住民のニーズを反映し、行政サービスを拡充できるという点でした。

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維新の会は、4つの特別区は、これまでと違って、区長と区議会議員を直接選挙で選ぶことから、身近なことは身近な特別区で決めることができる。
また、これまでは大阪市に1つだった児童相談所、保健所、教育委員会が4つの特別区ごとに設置されることで、きめ細かい対応が可能になる。
そして、必要な事務サービスと財源をセットで振り分けるので、特別区がスタートする段階で、行政サービスが低下することはないと強調しました。
これに対し、反対派は、「特別区独自の行政サービスは、選挙で選ばれる区長や区議会に委ねられ、将来も維持される保証はない」、「大阪市が一つだから同じ水準が維持できるのであって、4つに分割してしまえば、財政状況など特別区の体力の違いから、格差が生じる可能性がある」などと批判してきました。
「都構想」を推進する側にとっては、「身近なことは身近なところで決める」という地方自治の大原則を掲げる以上、将来の行政運営を、あらかじめ縛ることはできないという点が、有権者の疑問や不安を払拭しきれなかった背景にあったように思います。

ここからは、構想を進めてきた維新の会を中心に、政治への影響を考えます。

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地域政党の大阪維新の会と国政政党の日本維新の会の代表をつとめる松井大阪市長は、「先頭で旗を振ってきた。政治家として、けじめはつけなければならない」と述べ、残り二年半の市長の任期までで政界を引退する意向を示しました。また、大阪維新の会の代表代行をつとめる吉村知事は、「否決を重く受け止める。僕自身が都構想に再挑戦することはない」と述べています。
衆議院議員の任期が残り1年を切る中で、維新の会としては、「都構想」を実現させ、それをはずみに、全国での勢力拡大を図りたいところでした。しかし、「1丁目1番地」としてきた「看板政策」が封印され、5年前の住民投票が否決され政界を引退した橋下元大阪市長とともに結党当時からの中核メンバーの松井代表が、政界引退を表明した打撃は大きく、何を旗印に、どう求心力を維持していくか、難しい課題をつきつけられた形です。
一方、国政への影響は、どうでしょうか。

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維新の会は、国政では是々非々の立場を取っていますが、菅総理大臣とは近い関係にあるといわれ、発足後の菅内閣の方針を支持する場面が目立っていました。菅総理大臣は、「都構想」の否決について「地域の判断なので政府としてコメントは控える」としながらも、「大都市制度の議論において一石を投じることになったのではないか」と述べるなど、一定の配慮をうかがわせました。ただ、自民党大阪府連には、「都構想」に反対し、衆議院選挙でも維新と激しく争うことが予想されるだけに、反対に積極的に動かなかった党本部への不満の声もあります。
また、公明党は、今回、構想に賛成の立場を取りました。衆議院選挙で維新との小選挙区での競合をさける狙いもあったと見られますが、連立を組む自民党との間で、選挙協力などをめぐって、しこりが残ることを懸念する声もあります。
一方、野党側の立憲民主党や共産党などは、これまで維新の会とは一定の距離を置いてきました。今後、連携の余地を探りながらも、小選挙区で競合する可能性もあるだけに、維新への批判を次第に強めていくのではないかという見方も出ています。

否決された「大阪都構想」。これは、全国の都道府県で二番目に面積が狭い大阪府に、人口のおよそ3割を占める大阪市という政令指定都市があるという特別の事情から、浮上してきたと見ることもできるでしょう。一方で、全国には、大阪市を含めて15の道府県に20の政令指定都市があり、道府県と政令指定都市が、協力、補い合って成長戦略を実現できるか、身近な住民サービスをどう維持していくか、これから答えを出すべき大都市共通の課題を浮き彫りにしたのではないでしょうか。
そして、それを推進してきた維新の会にとって、「都構想」の否決は、地域政党から国政に進出し、第三極を標ぼうしてきた国政での存在意義と役割を改めて問いかけるものになったともいえると思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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