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「冬の発熱患者 診療・検査体制は間に合うか」(時論公論)

米原 達生  解説委員

熱が出ているのに医療機関にかかれないような事態は避けられるのでしょうか。インフルエンザが例年流行する冬を控えて、各都道府県では新型コロナウイルスとの同時流行を想定した診療・検査体制の大きな変更が10月末を目途に進められています。しかし、十分な体制が取れるのかは見えてきていません。その現状と課題、そして今後何が求められるか考えます。

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【現状は】
例年冬に流行する季節性インフルエンザの患者は、およそ1000万人。ピーク時には、その患者を含めて発熱患者は一日30万人にのぼるとされています。ところが今年は症状が似ている新型コロナウイルスと臨床的に見分けがつきにくいことから、新型コロナの流行がみられる場合は両方の検査を行うことが推奨されています。ことし南半球ではインフルエンザは流行しませんでしたが、経済活動や海外との往来が徐々に再開される中で、同時流行への備えを怠ることはできません。

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これまでは新型コロナが疑われるような発熱患者は保健所が運営する帰国者・接触者相談センターに相談し、帰国者・接触者外来で受診・検査をしていました。しかし発熱者が増え、相談が殺到すれば、患者が行き場を失うことになりかねません。

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このため、厚生労働省は、地域の診療所に発熱した人の受診の窓口となってもらい、そこで検査まで行うか、検査が行える医療機関を紹介する方法に切り替えることにしました。そして都道府県が医師会などと協議しながら、検査を行える医療機関を「診療・検査医療機関」として指定し10月中をメドに体制を整備するよう指示しました。

「診療・検査医療機関」の指定がどの程度進んでいるのか、国は進捗を公表していません。その代わり、各都道府県にとっていわば“スタートライン”になるデータがあるので、参考に見てみましょう。

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上の地図は10月14日時点で、帰国者接触者外来など、いわゆる検査ができる医療機関として国に報告のあった数を人口10万人当たりの数で色分けしたものです。濃い緑で示したのが10を超えている県、白くなるほど少ないところで、最大で30倍の差があります。
今までのシステムの中での数字なので、一概には言えませんが、濃いところは早いうちから地元の医師会が協力するなどして医療機関が検査に参加していたことを示しますので、診療・検査医療機関の数も一定の数を確保できると考えられます。逆に色の薄い地域では、急ピッチで地元医師会と調整し、数を増やす必要があるでしょう。
白い地域の中でも比較的人口の多い県に聞いてみますと、愛知県では約1200の診療・検査医療機関が指定されましたが、数には地域差があるといいます。千葉県は「病院を中心に約80件を指定したものの、診療所がどのくらい参加するかは不透明」と話し、茨城県では「10月23日の時点で目標の3割程度で、危機感を持って取り組みたい」と話しています。
期限の10月末を間近に控えて、地域による温度差や、地元医師会との意思疎通、調整の遅れなど、様々な課題を抱えていることがわかります。

【課題】
思うように医療機関から手が上がらない地域があるのはなぜでしょうか?日本医師会で新型コロナを担当する釜萢常任理事は、「主な理由は『院内感染』と『風評被害』への恐れだ」と指摘します。

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ただでさえ高齢者や持病のある人が多いクリニックでは、発熱患者とそれ以外の患者をエリアや診療時間で分けることが欠かせません。しかし、それが困難な医療機関が多いのが課題です。また手を挙げる医療機関が少なければに発熱患者が集中し、スタッフの感染リスクが高まること、感染に伴う休診や経営に影響がでることを医療機関は懸念しています。

国も一定の対策を打ち出しています。院内感染対策として無床診療所に100万円を上限として補助するほか、患者が来なかった場合は最大20人分の診療費を補填するなどします。検査も感染リスクが低くなるよう、患者が自分で検体採取する方法を認めました。しかし、仕組みづくりや周知が急ピッチだったため、情報が医療現場にうまく浸透しない、あるいは十分だと思われていないという指摘があります。

もう一つが風評被害への恐れです。診療・検査医療機関は名前を公表するか、地域の医療機関の間で共有することにしています。しかし、医療機関の中には、新型コロナの診療・検査を行っていることが明らかになると、普段来ている患者が来なくなり、経営が行き詰まるのではないかという声が根強くあります。また、スタッフやその家族、入居するビルのオーナーから反対にあったという事例も聞きます。コロナ差別や偏見は、ここでも問題になっているのです。

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地域を詳しく見ていくと、さらなる課題も見えてきます。「診療・検査医療機関」をいち早く公表した高知県でみてみましょう。
10月22日時点で指定されているのはおよそ140施設。数は一通りそろったとしていますが、高知市に集中し、10の町村は空白で、県は引き続き医師会と協議しています。人口も医療機関も少ないとはいえ、郡部ほど診療のアクセスが悪くなる傾向は他の県でも見られる課題です。
また、医療機関に聞くと、実施する予定の検査の種類が、大量に供給される「簡易検査キット」よりも、数が限られる「PCR検査」に集まっていること、検査の対象も「現在通院中の患者」としている医療機関が少なくないことも気になります。
診療・検査ができる医療機関の数は多いほうがよいのがもちろんですが、数だけでなく、現場の細かい実態にも注意していくことが必要だと思います。

【今後に向けて】
診療・検査体制の整備には今後どのようなことが求められるのでしょうか。

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行政に必要なのは説明と対話の継続です。院内感染防止の支援策や感染しにくい検査手法などを丁寧に説明して、医療者の不安の払しょくに努めることはもちろんですが、検査や患者の集中などが起きないか、丁寧に詰めていく必要があります。院内感染が起きた場合の補償や保健所との役割をどう分担するかなど、医療者側の懸念は残っている状態です。今後もより良い体制を探るため、対話や支援の検討が国や都道府県には求められると思います。
また、地域の医療事情を最もよく知っているのは地元の医師会です。その温度差によって体制に差が出るのは避けなければなりません。診療・検査医療機関に参加する診療所が少ないところでは、参加の機運を高めることが必要ですし、それが難しければ、別の方法を提案するなど、リーダーシップを期待したいと思います。
私たちにも協力できることがあります。まずは、発熱して受診する際に、事前に電話連絡をすること、これは院内感染を防ぐ基本になります。そして発熱患者を診るクリニックを支えることです。高知県で名前を公表したクリニックの一つは、患者から「自分が発熱した時に受診できると聞いて安心した」と言われ、誇りに思ったと話していました。感染対策を取って検査を行う医療機関を「敬遠」するのではなく、「支える」ことが大切なのです。また、冬の南半球でインフルエンザが流行しなかったのは、新型コロナへの感染対策の効果だと考えられています。体調の悪い時には仕事に行かない・外出しない、3密を避けることなど、私たちが引き続き感染対策を行うことで、同時流行自体を防げれば、それが最善の方法となります。

新型コロナの最初の流行に直面した春、国内は診療や検査の体制が追い付かず、発熱患者が行き場を失う事態にもなりました。発熱患者が増える冬に同じような事態を招かないよう、診療・検査体制は継続して点検しながら拡充していくことを求めたいと思います。

(米原 達生 解説委員)

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