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「核のごみ処分場 調査応募表明の波紋」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

原発の高レベルの放射性廃棄物・核のごみの最終処分場の選定を巡って、きょう、北海道の寿都町が調査に応募すると正式に表明。
処分場に向けた調査が始まれば初めてのこと。
しかし地元の一部では調査反対の動きが激しくなり揺れている。
核のごみは全国の原発から出ているだけに、北海道以外の地域も無関心でいるわけにはいかない。
▽取り組みが遅れた核のごみ問題
▽調査応募の背景には何があるのか
▽そしてこの先何が求められるのか
以上3点から核のごみ問題について水野倫之解説委員の解説。

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きょう調査応募を決めたのは北海道の泊原発に近い寿都町。
議会の全員協議会での議論を受けて、片岡町長が調査応募を正式に表明。
また寿都町の近く神恵内村でも、村議会が商工会の調査応募を求める請願を賛成多数で採択し、髙橋村長が近く応募を表明するとみられる。
自治体の動きに政府内では梶山経済産業大臣が「大変ありがたい。」と述べ、神恵内村についてはあす、調査に応募するよう国としても申し入れを行う予定で、安堵の感が広がる。
それだけ、日本の取り組みは大きく遅れていた。

核のごみは、原発の使用済み核燃料に含まれる放射能レベルが極めて高い廃棄物。
日本では廃液に処理してガラスで固めて処分する計画。
近寄れば20秒で死に至るほど強い放射線。
使用済み核燃料のまま直接処分する国もあるがいずれの方式も安全になるまで10万年は隔離する必要があるとされる。

そこで各国とも地下深くに埋める方針で、早くから取り組んだヨーロッパでは処分場の建設を始めている国も。
しかし日本は、あと始末は厄介だとして正面から向き合おうとせず、対応が遅れた。

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原発運転開始から30年あまりの2000年に政府はようやく処分事業者を設置。
地下300mに総延長200㌔の坑道を掘って処分する計画をまとめ、論文などから地盤を調べる文献調査、次にボーリングを行う概要調査、さらに坑道を掘って調べる精密調査と3段階、20年かけて候補地を調査することを決め、自治体を募集。
しかし地震国日本での地下処分の安全性への不安は強く、調査に入れないまま問題は先送り。

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そして福島の事故。
大量の使用済み核燃料のメルトダウンが懸念されてその危険性が再認識され、政府は重い腰を上げた。
科学的に処分できる可能性のある場所を地図で緑色に示して自治体の応募を促し、今回まずは寿都町がこたえた。

ただ積極的に処分場を受け入れたいわけではない。
産業の衰退、そして過疎化という事情。

寿都町は漁業と水産加工業が主力産業。でも漁獲高は10年前の5分の1に、また人口もこの20年で30%減って、2900人に。
このため町は風力発電に力を入れ、11基の風車で年間2億4000万円の収入を得て財政の柱に。
しかし電力の買い取り価格が3年後から半額以下になる見通しで、町は大幅な財源不足に陥ると試算。こうした中、町長が目を付けたのが核のごみ。
文献調査に応じるだけで20億円の交付金が出るから。
町長は「いずれどこかが引き受けなければならない問題で、自分たちが手をあげることで一石を投じたい」とも。

また神恵内村も状況は同じで人口がこの30年で2000人から800人にまで減少。村の存続への危機感から応募検討に至った。

こうした自治体の意向に理解を示す住民がいる一方で、反対の住民もいて、特に寿都町では町が二分状態。

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住民説明会では、
「国が安全だと言った原発で大事故が起きた。核のごみもどうかわからない」
「一旦金に手を出したら後戻りできなくなる」とほとんどが反対。
これに対して町長や国は、制度上、知事や市町村長が反対すれば次の段階へ進まないとして理解を求めるも反対グループもでき、住民投票を求めて署名活動も行われた。きょう未明には関連ははっきりしないものの町長の自宅に男が火のついたものを投げ込んで逮捕される事件も。
ほかにも北海道の漁業組合連合会も断固反対を表明。
さらには北海道の鈴木知事も、「札束でほほをたたくようなやり方は疑問だ」と反対の姿勢を明確にした上で、北海道には「核のごみの持ち込みは受け入れがたい」と宣言する条例があり守るよう要請するなど、調査応募の波紋は北海道全体に。

これだけ反対の声が広がったのは、短時間で結論を出そうとする自治体トップの拙速な姿勢への不信もあると思う。
寿都町では応募の動きが表面化してからきょうの表明まで1か月半あまり、多くが賛成というならともかく、反対の意見も相次いでいる。

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当初町長は「調査に入るには住民の同意が必要」と繰り返していたが、最近になって「肌感覚では賛成が多い。長時間議論しても反対の人たちとの溝は縮まらない」と方針変更して応募を決定。
ただこの応募に期限があるわけではない。分断を避けるためにももう少し丁寧に、住民の意見を聞く機会を増やし、議論を尽くしてから判断しても遅くはなかったのではないか。

このように北海道では核のごみが社会問題化。これを私たちは北海道の問題だとして無関心でいるわけにはいかない。
核のごみを含む使用済み核燃料は全国の原発で発生、その量すでに1万9,000t。いずれは処分する必要。原発の電力の恩恵にあずかってきた都市部を含め多くの国民が考えていかなければならない問題。

そのためにも今回の応募表明を国民的な議論を始める機会に。
地図の提示後、国は各地で説明会を開いてきてはいる。しかし、それは推進の立場からの説明で不祥事もあって、参加者が少ない状況が続いている。
今後は批判的な専門家らも交えて一般の人が自分たちの問題として考えることができるような場を作っていかねば。
焦点は安全性。
ヨーロッパには20億年もの間変化していない安定した岩盤があるが、日本にはない。毎年のように大きな地震。
活断層が見逃された場合、処分場の安全性にどんな影響があるのか。
10万年先をどうやって保障するのか。
疑問は多々ある。

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どこに処分場を造るにせよ、こうした点について国民的な合意が得られて初めて処分事業が進められるということ。国や電力業界はこの先核のごみ問題に正面から向き合い続けなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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