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「菅内閣初 来年度予算編成の課題」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

菅内閣で初めてとなる来年度の予算編成が本格化しています。新型コロナウイルスによる感染症対策や、落ち込む経済の下支えに向けた予算要求など、概算要求の額は過去最大の規模となる見通しです。必要な予算を適切に確保する一方で、悪化する財政状況にも目配りをする必要があります。

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解説のポイントは3つです。
1)コロナ対策で膨らむ予算
2)“コロナ”銘打つ予算に注意
3)縦割り打破で予算の効率向上を

1) コロナ対策で膨らむ予算
まずは、先週締め切られた各省庁からの予算要求の内容からみてゆきます。

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来年度予算の概算要求は、高齢化に伴って医療や年金など社会保障費が膨らむことなどから、一般会計の総額で105兆円を超え、過去最大の規模となる見通しです。これに上乗せされる形になるのが、コロナ対応の予算です。このうち厚生労働省は、PCR検査の検体採取を行う「地域外来・検査センター」を各地に設置する事業や、すべての国民がワクチン接種できるようにするため、研究開発の支援に加え、接種の手続きを担う自治体などの費用を負担する事業の予算を要求。また国土交通省は、来年のオリンピック・パラリンピックに向けた感染症の水際対策の強化や、鉄道やバスなど地域公共交通の維持や観光業への支援などの予算を要求しています。これらの予算の要求額については12月までに、感染状況の行方を見極めた上で算定したいとして、現時点では明示されていません。

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来年度の概算要求を前に財務省は、コロナ関連の予算など、緊急に必要なものは、通常の要求とは別に要望を認めるとしてきましたが、いまあげた予算は、いずれも緊急性のあるものとして理解できます。ただ今回決める予算は再来年の3月まで使われるものです。予算の編成に当たっては今後の感染状況と経済への影響をぎりぎりまで見極めたうえで、適切な水準の予算額を見積もることが求められています。

2) コロナ銘打つ予算に注意
一方で、今回の予算要求では、コロナに関連すると銘打ってはいるものの、従来の政策に似通っているものも目につきました。

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例えば総務省は、ポストコロナの社会に向けた地方回帰を支えるという表題をつけて、地域おこし協力隊のなり手の確保や、サテライトオフィスの誘致にとりくむ地方自治体と、企業の間のマッチングを支援する予算などを要望しています。ただ、一年前の今年度の予算要求でも、「一極集中の是正」という表題のもとに、このようにまったく同じ事業名の経費の予算を要求していました。

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また農林水産省の来年度の要求では、コロナと共存する生活様式への転換をはかるというサブタイトルをつけ、感染症の影響による人手不足の解消をはかるため、ロボットやAIを活用して省力化をはかるスマート農業の予算を要求していますが、今年度の予算要求でも同様の事業を盛り込んでいました。

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確かに、これらの事業は、従来から認められていた必要性が、コロナ禍という特殊の事情が加わって、一段と高まった面もあると思いますが、政策の看板をコロナに架け替えただけのようにも見えます。コロナ対策と銘打つなら、コロナ対策としての有効性について、事業の内容を改めて精査する必要があると思います。
また文部科学省は、アメリカなどと共同で行う月探査プロジェクトを探査する「アルテミス」計画に、810億円の予算を、緊急に予算が必要な「コロナ枠」として要求しました。宇宙で必要となる遠隔操作や、宇宙ステーションの中で衛生を保つ技術が感染症の対策にも有効で、開発に成功した技術をコロナ対策にも役立てることができる。だから緊急に必要な予算だと説明しています。確かに感染症対策との関連はあるようですが、緊急性という点では、国民の目にどう映るでしょうか。

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財務省は各省庁が予算を要求する前に具体的な仕組みを示し、基本的に今年度の当初予算と同額とした上で、コロナ関連について別枠での要求を認めるとしていました。各省庁にとっては、今年度認められた事業を来年度はコロナ枠として要望すれば、その分ほかの予算を余計に要求できるようになっていたのです。しかし多くの国民は、コロナ対策として本当に緊急に必要な予算だからこそ、歳出が一時的に膨らむことになってもやむを得ないと受け止めるのではないでしょうか。予算の査定に当たってはこの精神を大切にしてもらいたいと思います。

3) 縦割り打破で予算効率向上を
さて、今年はコロナ対策で巨額の予算が費やされ、政府の財政は一段と悪化しています。

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政府の国債発行総額は、今年度新たに90兆円増えて、964兆円にのぼる見通しです。こうした中来年度は、政府のデジタル化や、不妊治療の支援拡大など、新たな政策に必要な歳出が求められている一方、歳入面では景気の悪化で税収の落ち込みが予想されます。さらなる財政の悪化はまぬがれそうにありません。こうした中で予算を使った際の効果をどう高めるか、予算の効率性をどう向上させるかがこれまで以上に問われています。

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そこで私は、菅政権がかかげる役所の縦割りの打破が一つのカギになるとみています。
いまから4年前、財務大臣の諮問機関として予算の在り方などを提言する財政制度等審議会は、経済産業省と環境省が要求した二つの事業について建議を行いました。当時、経済産業省は、天然ガスから、比較的低いコストで水素をつくり、燃料電池車が利用する水素ステーションを整備する事業。環境省は、風力や太陽光など再生可能エネルギーを使って水素ステーションや、工場のフォークリフトなどに利用してもらうという事業の予算を要求していました。これについて建議では「類似の事業を行う場合は、両省が連携し、政策の方向性を共有した上で効果的な予算としていく必要がある」と指摘したのです。

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その後もこの二つの事業はそれぞれの省で継続されてきましたが、両省の担当者は、事業の内容が異なっていることや、担当者同士で、予算要求の前から緊密に連携をはかっていることをあげ、問題はないとしています。ただ国民の目から見れば、同じ水素をつくっているわけですから、一つのチームでやれば、より連携が密になり重複する分野の経費が省けるのでないか、という思いが残ります。水素の運搬の方法について共同で研究するとか、両者が作った水素を互いの事業に利用しあうなど、同じ予算を使うにしてもより効率的な使い方を検討していく余地があるように思います。

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さらに、課題となるのは、異なる省にまたがる事業に重複するところがあった場合に、査定する側の財務省が見抜けるかということです。
予算を査定する財務省の主計局には、9人の主計官という幹部クラスが、それぞれの省庁を分担しながら査定に当たります。例えばもし仮に、担当が異なる農林水産省と環境省から似通った事業の要求が出てきた場合に、事業内容の重複を見逃すことはないのか。縦割りの弊害を乗り越えるための体制整備が査定する側にも求められているのではないでしょうか。

高齢化に伴う社会保障費の増大、コロナ禍という新たな要因に加え、今後1年以内に総選挙が行われ、政治的にも歳出圧力は一段と高まることが予想されます。その中で、コロナ対応など緊急に必要な優先順位の高い政策とそうでない政策をきちんと分けて、後回しにできる予算をしっかりと削り込んでいくことができるのか。初めての予算編成にのぞむ菅政権の姿勢が示されることになります。

(神子田 章博 解説委員)

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