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「欧州 再び感染拡大 強まる警戒」(時論公論)

二村 伸  解説委員

世界の新型コロナウイルスの感染者が3100万人に達しました。1か月間でおよそ1000万人増えた計算です。中でも顕著なのがヨーロッパの新たな感染者の増加で、WHO・世界保健機関は「驚くべき速さで感染が拡大している」と警鐘を鳴らしています。都市封鎖などの厳しい措置により、いったんは感染拡大を抑え込んだかに見えたヨーロッパでなぜ再び感染が拡大しているのか、また経済の回復が求められる中でどのような対策がとられているのか、日本にとっても気になるところです。今夜はヨーロッパの現状をもとに第二波への取り組みについて考えます。

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まず、世界の新型コロナウイルスの感染者に関する最新の情勢です。
ジョンズ・ホプキンス大学の集計によればきょう午後3時現在の世界の感染者数は3160万人。国別では最も多いのがアメリカの690万人、次いでインド、ブラジルの順です。ヨーロッパは全体でおよそ500万人ですが、アメリカで新たな感染者が減っているのに対して、ヨーロッパは再び感染拡大に見舞われています。

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このグラフはヨーロッパでとくに感染者数が多いスペイン、フランス、イギリスの新規感染者数の推移です。
▼2月下旬にイタリアで集団感染が確認されたあと、3月から4月にかけて各国で感染が一気に拡がりました。
▼このため各国政府は都市封鎖や外出禁止、商店の営業や工場の操業を停止するなど厳しい措置をとった結果、
▼新たな感染者の数が減り始めました。そこで各国は厳しい制限を次々と解除、7月にはEU域外からの入国も認められました。
▼すると8月以降感染者が再び急増し、ヨーロッパ全体の新規感染者は1日に5万人を超え、アメリカを上回っています。新たな感染者が増えたのは、規制の緩和や検査の拡充以外に、夏休み中の人の移動が活発になったことが要因と見られ、新学期に入り感染者がさらに増えるのではないかと懸念されています。

フランスとスペインでは先週、1日の新規感染者が1万人をこえ、これまでで最多を記録しました。イギリスでも1日の新規感染者数は4千人をこえ、イギリス政府は21日、警戒レベルを5段階のうち上から2番目の感染急増を示す4に引き上げ、「対策を強化しなければ来月半ばには1日当たりの新規感染者が5万人に達する可能性がある」と警告しました。

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こうした状況を受けて各国政府は対策を強化しています。
フランスでは第3の都市リヨンなどでは屋外イベントの入場者数を5千人から千人に制限、午後8時以降屋外のアルコール類の販売を禁止しました。さらにパリの新たな対策がまもなく発表されることになっています。
スペインでは21日から首都マドリードの一部地域で、通勤や通学を除く住民の出入りを原則禁止。イギリスでは、ロンドンを含むイングランドで、今月14日に7人以上の集まりが禁止されたのに続いて24日からパブやレストランの営業が午後10時までなった他、在宅勤務が再び奨励されました。

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このように、各国で感染防止の強化策が相次いで打ち出されていますが、それでも春先のような都市封鎖や営業禁止といった厳しい措置をとる国は少なく、多くの国が感染の拡大防止と経済活動維持の両立をはかっていることがうかがえます。当面は、いかに感染拡大を抑えながら経済を回復させるか、これがヨーロッパの国々に共通した立場です。その背景にあるのは、これ以上経済を悪化させられないという危機感です。

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EUが最近発表した今年の経済成長率予測は前年比マイナス8.3%。GDPがコロナ前の水準に戻るまでには数年かかると専門家は見ています。各国にとって経済の回復は死活問題であり、とりわけ経済回復が急務のイギリスのジョンソン首相は、厳しい措置に慎重な姿勢をとり続けてきました。新たな感染者の急増を受けて22日、「危険な転換期に達した」として規制の強化を発表しましたが、遅きに失した感は否めません。

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IMF・国際通貨基金は、経済活動の早すぎる再開が第二波のリスクを高めていると指摘しています。さらに、WHOは、来月から11月にかけて新型コロナウイルスによる死者がさらに増えるだろうと警告しています。現在は新規感染者が急増している割には死者の数に大きな増減が見られませんが、今後の状況次第で各国首脳は3月のような厳しい決断を迫られることも予想されます。その場合、経済の回復にさらに時間がかかりそうです。WHOのヨーロッパ担当者は、ワクチンが開発されればパンデミックは終わるという楽観は禁物だと警告しています。まさに長期戦であり、新型コロナウイルスとの共存が今後のカギです。

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感染拡大への警戒と同時に、落ち込んだ経済を立て直し、中長期的な復興につなげるためにまず必要なのが各国の連携です。EUはことし7月の首脳会議で、激しい論争の末、総額7500億ユーロの復興基金の設立に合意しました。新型コロナウイルスの被害が大きい国々への支援にとどまらず、グリーンリカバリーと呼ばれる脱炭素社会への移行など環境問題への取り組みとデジタル化の促進を通じてコロナ後の経済復興を進める、将来を見据えたプロジェクトで、求心力の低下が言われて久しいEUが結束して取り組むという点で大きな意味があります。 
各国の結束とともに重要なのが、未曽有の危機に国をまとめるリーダーシップです。自由と人権を重んじるヨーロッパでは、様々な規制に反対する人も少なくなく、各地で抗議デモが開かれています。十分な説明もなく制限や自粛をいきなり国民に押し付けても反発や戸惑いを招くだけで、今こそ指導者の力量が問われているように思います。

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ドイツのメルケル首相は3月、テレビで国民向けに演説し、「誰もがこれからどうなるのか疑問や悩みを抱えているでしょう。事態は深刻です。あなたも真剣に考えてください。これほど市民の結束が重要になったことはありませんでした」と述べ、なぜ制限をするのか、被害を最小限に食い止めるには何が必要かを、まっすぐ前を向き自らの言葉で語り掛けました。就任以来15年間でもっとも心を打たれる演説だったと多くの人が言います。この演説のあと首相の支持率は急上昇しました。

未曽有の事態を乗り越えるためには、国民に危機を丁寧に説明し、透明性のある議論を経て今後の道筋を明確に示すこと、そして何よりも国民の声に耳を傾けることが必要です。
感染防止策と経済活動のバランスを取りながらコロナ後の復興に向けて試行錯誤を続けるヨーロッパ。その行方は楽観でききませんが日本をはじめ世界の国々にとって極めて重要な指標となるだけに、対岸の火事とせず、そこから何を学び取るかが問われていると思います。

(二村 伸 解説委員)

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