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「再編か独自路線か~苦境続く地方銀行」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

長引く低金利に、コロナ禍が追い打ちをかけ、厳しい状況が続く地方銀行。菅総理大臣は、経営基盤の強化をはかるために再編も選択肢の一つだという考えを示しました。地銀の経営の何が問題なのか、生き残るためには何が必要か、この問題を考えていきます。

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解説のポイントは三つです
1)銀行苦しめる低金利は長期化へ
2)にわかに注目 “再編”の行方
3)模索続く 地域と共に生きる道

1) 銀行苦しめる低金利は長期化へ

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まず、コロナ禍のなかでの銀行経営の現状からみてみます。
銀行などの貸し出しは、先月まで6か月連続で前の月を上回りました。背景には、売り上げが急減し、資金繰りに窮した企業が、政府の経済対策による無利子・無担保の融資に殺到したことがあります。

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ところが、融資が増えているにも関わらず銀行の経営は厳しい状況が続いています。
上場している地方銀行の78社の今年4月から6月の、業務純益いわゆる本業のもうけは、前の年に比べて3.2%の減少。全体のおよそ6割が最終的な利益が減る減益となり、2社は赤字でした。利益が減った背景には、取引先の経営破たんなどに備えるための費用が膨らんだことに加え、二つの構造的な要因が考えられます。

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ひとつは、長引く低金利環境です。
日銀は、物価上昇率を2%まで引き上げる目標をかかげ、2016年1月からマイナス金利政策を導入、さらにその年の秋からは、10年物の長期金利をゼロ%程度にする金融緩和策を続けています。
一方で、銀行は、低い短期金利で預金者から集めた資金を、より高い金利で企業などに長期で貸すことで利ザヤをとって利益を上げています。このため長期の金利までもが極端に低くなると、利ザヤが稼げなくなってしまうのです。

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この20年あまりの銀行の業務純益の推移です。97年山一證券が破たんした日本の金融危機、2008年のリーマンショックの直後に大きく落ち込みましたが、いずも翌年には回復しています。しかし、2016年のマイナス金利の導入後に落ち込んだ後は、回復できない状況が続いています。過去二回と異なり、構造的な要因を抱えているからです。
日銀は物価の見通しについて再来年度でも0.7%と、目標の2%に遠く及ばないとしており、いまの低金利政策は今後も長期にわたって続きそうです。

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さらに気になるのは、こうした低金利環境が、日本だけでなく、アメリカでも長引きそうなことです。
アメリカの中央銀行に当たるFRBは、先週の公開市場委員会で目標とする物価上昇率をこれまでの2%から2%をいくぶん上回る水準に修正しました。物価上昇率が2%を超えても、景気の回復が確かなものとなるまでは、金融緩和を続ける姿勢を鮮明にしたのです。この会合では、参加した17人のうち13人が少なくとも3年先の2023年末までいまのゼロ金利政策を継続するという見通しを示し、低金利の長期化は避けられそうにありません。これが日本にどのような影響を及ぼすのか。アメリカが金利をあげない中で日本だけが金利を上げれば、投資家は金利のより高い通貨で資金を運用しようと円を買い求め、急激な円高を招くおそれがでてきます。日銀はマイナス金利からの脱却により慎重にならざるをなくなるのです。

2)にわかに注目 “再編“の行方

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もう一つの構造要因が、オーバーバンキング、銀行の数が多すぎると指摘される問題です。
各銀行は、預金者から預かった資金を貸し出すことで利益の大半を稼いでいます。しかし、地方では人口減少に伴って企業の数も減り、地域の各銀行は、競い合うように貸出金利を引き下げてお金を借りてもらおうとします。勢い収益力が下がってしまうのです。

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こうした中、菅総理大臣の「再編もひとつの選択肢」という発言が注目を集めています。同じ地域の地方銀行同士が経営統合することで、重複する支店を減らしたり、決済システムの統合を通じてコストを削減し利益を確保できる体質に変えようというのです。今年11月からは経営統合によって地域でのシェアが高くなっても、一定の条件を満たせば独占禁止法の適用を例外的に除外する法律が施行され、経営統合を後押します。これに対し、全国地方銀行協会の大矢恭好会長は、「再編もひとつの選択肢だ」としながらも、必ずしもすべての答えではないという考えを示しました。

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実際に銀行業界に詳しい専門家からは、そもそも地元の名士としてプライドをもち、火花を散らしてきたライバルの経営者同士が、腹をわって互いの実情をさらけ出すだけの信頼関係を築くのは容易ではないといった見方や、経営基盤の弱い銀行同士が一緒になっても強い銀行にはならないという突き放した声も聴かれます。

3) 模索続く 地域と共に生きる道

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では、再編以外に、銀行の生き残りに向けて、どのような道があるのでしょうか。地方銀行の中には、まず自らの経営体力を強化しようと金融以外の業務への進出を通じて収益源の多様化をはかる動きが広がっています。
今年4月、四国四県の地方銀行が共同で地域商社を設立。地元の特産品をブランド化して全国に売り込もうとしています。山口銀行や青森県のみちのく銀行も地域商社を設立していて、こうした動きが全国に広がろうとしています。また広島銀行や大阪の池田泉州銀行は、それぞれ人材紹介業に参入。後継者不足や従業員の確保に悩む中小企業を対象に人材を紹介し、手数料をとるビジネスを軌道に乗せているといいます。いずれのビジネスも銀行が蓄積してきた取引先企業の情報を有効に活用し、新たな付加価値をうみ出そうというものです。金融庁も銀行がほかの企業に出資する際の規制を緩和することで収益源の多様化の動きを後押ししようとしています。ただ一方で、銀行の経営には、高い健全性が求められており、本業以外の分野での損失が波及しないよう、リスクを適切に管理していくことが求められます。

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さらに新たな生き残り策として、業界の垣根を超えた提携の動きもでています。
島根銀行、福島銀行、福岡の筑邦銀行、静岡の清水銀行は大手ネット証券のSBIホールディングスと相次いで資本業務提携に踏み切りました。SBIが得意とする金融とITを融合したフィンテックの活用や、様々な金融商品の提供を受けることで、収益の改善につなげようとしています。一方、SBI側には地銀との提携を通じて顧客基盤を拡大したい思惑があります。
地方銀行にとって大手との資本提携は信用補完にもなり、今後もこうした動きが増えることも予想されています。

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しかし、地方銀行をみるときに大事な視点は、再編するにせよ、独自路線で行くにせよ、地元の経済にどのよう貢献ができるか、ということではないでしょうか。
銀行はかつて雨が降っても傘を貸さない。つまり企業の経営が悪化して本当にお金が借りたいときには、銀行は安全策をとって融資をしないとも揶揄されてきました。

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しかし今回は、コロナで苦しむ企業に積極的に融資を行い、地域経済に欠くことのできないインフラだと再認識する声もあがっています。ただその背景には融資先の企業が倒産してしまえば、共倒れになってしまうという強い危機感があるといわれます。その一方で今回拡大した融資が、今後のコロナの展開によっては不良債権化するリスクも抱え、将来の経営の見通しは一段と不透明になったともいわれます。

こうした中で地方銀行に求められるのは、自らの経営基盤の強化をはかるだけでなく、地元に密着した金融機関として、地域の産業が時代の変化に対応できるよう手助けをしていく。そして地域経済の立て直しと活性化につなげていく。そうした共存共栄の姿勢こそが生き残りに向けた重要なカギになると思います。

(神子田 章博 解説委員)

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