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「台風で相次ぐ大規模停電 対策は進んだか」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

台風のたびに大規模な停電が繰り返されている。
先週の台風10号では九州を中心に56万戸が停電。数日で復旧したが、ちょうど1年前の台風15号では千葉を中心に電柱倒壊が相次ぎ93万戸が停電、復旧に2週間かかり死者も出た。
これを教訓に電力会社は自治体との連携強化を、また政府も抜本策として電線を埋める無電柱化の加速を打ち出したものの、停電の原因となった木の事前伐採は進まず、電柱も増え続けている。
台風の停電対策がどこまで進んだか水野倫之解説委員の解説。

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台風10号は特別警報の可能性も指摘されたことから、九州電力は接近前に対策本部を設置、7000人を超える態勢。47万戸が停電したが、電柱の被害が少なかったこともあり、数日で復旧。

九州電力が大規模な態勢をとった背景にあるのが、ちょうど1年前、台風15号で千葉を中心に起きた大規模長期停電。

電柱2000本が倒壊するなどして93万戸が停電し、復旧までに2週間以上。
エアコンが使えず熱中症で亡くなる人が出たほか、入院患者は転院を余儀なく。
また電話もつながりにくいなど、不便を強いられた。

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ここまで大規模・長期間の停電は、現場の態勢や、関係機関との連係も不十分だったことが原因。
東電は1200人態勢をとっていたが、自宅待機者もいて初動が遅れた。
また電柱倒壊の多くは木が倒れ電線を引っかけたことが原因、撤去しようにも所有する自治体などの了解を取る必要があり、手間取った。さらに大手電力の電源車の応援も、機器の違いから使えないケースもあり、復旧が遅れた。

これを教訓に東電は態勢強化を打ち出した。
常時3200人の巡視員を確保、全員が情報端末を持ち、現場の状況をその場で入力、本社がリアルタイムで被害を把握できるように。
関係機関との連携も強化し、1都5県と災害協定を締結。千葉県との協定では、自治体の街路樹などが倒れた場合、東電が撤去できるよう定められたほか、あらかじめ電線まわりの木を切る事前伐採を進めていくことも。
さらに大手電力会社間では応援の電源車の機器の仕様を統一。

このように大規模停電の教訓を踏まえて、対策の枠組みを作った点は一定の評価。ただ実際にその中身をみると、課題が多く残されている。

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中でも停電防止のカギとなる木の事前伐採については、東電と千葉県の間では「今後進めていく」という方向性が確認されたにとどまっており、いつどこから行うのか具体的な計画は決まっていない。伐採には1本100万円以上がかかり費用負担の調整が難しいと東電や千葉県は説明。

また大手電力同士の協力も機器や手順書は共有されつつあるが、実際に機能するには訓練を繰り返し、連携を確認することが求められる。しかし東電は自社内での訓練は始めているが、他社との訓練についてはまだ本格的に行っていない。

今年は日本近海の海水温が高く、台風10号のような台風が首都圏を襲うおそれも否定できない。東電と各自治体はすぐにでも費用負担の話し合いを行い、樹木の点検を行い事前伐採を急ぐことが求められる。
また電力会社間の協力についても合同の訓練を急いで行い、課題を洗い出していざというときに機能する態勢を作っておかねば。

こうした短期的な対策に加えて、政府はより抜本的な対策強化の方針も打ち出した。
「台風の被害を受けにくい無電柱化の必要性を認識した。スピードアップしたい。」
これは去年被災地を視察した赤羽国土交通大臣の発言。電線を地中に設置する無電柱化を急ぐという。
しかしこの1年、とてもスピードアップされたとは言えない状況。

無電柱化は、電線を地中に埋めて電柱をなくす。
台風などの災害に強いとされ、去年も千葉県では地域の発電所周りの無電柱化されたエリアは停電を免れ、効果が実証。
また倒れた電柱が緊急車両の通行を妨げることもなくなり、普段から子どもや障害者が通行しやすくなる交通安全上の大きなメリットも。

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海外ではロンドンやパリ、アジアでも香港シンガポールなど主要都市で100%地中化。

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これに対して日本の無電柱化率はわずか1.2%、3600万本を抱える電柱大国。
しかし度重なる災害を経て4年前無電柱化推進法が成立。国と自治体、大手電力が取り組むことになり、国土交通省は今年度までの3年間で、幹線道路2400キロ分着手する計画を打ち出した。
そこへ実際に電柱倒壊で長期停電が発生したことを受け、さらに加速させようという機運が盛り上がったわけ。
ところが計画が上乗せされることもなく、電柱は減るどころか毎年7万本ずつ増。

最大の壁はコスト。
無電柱化では電線を埋めるため、道路を管理する自治体も関わる。
全国で無電柱化率が最も高い東京都が事業を進めるJR田端駅前を取材。
ここでは電線が埋められ、去年まであった電柱がなくなっていた。
ただ地下には特別なスペースが必要。
舗道上のマンホール、ここから地下に入ると……、高さ1.8mのコンクリートの空間が広がり、6600Vの高圧電線が通っていた。
ここは点検のためのスペースで電柱では必要ないもの。
また高圧電線は感電しないよう特殊な黒いカバーで覆わなければならないほか、作業しやすいよう3本ねじる必要があり、一般の電線よりも強度があり値段のはる銅の電線を使う必要も。
さらに地下に埋めるために電線を覆うオレンジ色の配管も必要で、1キロ当たり電柱の10倍以上の5億円かかるという。

確かにこのままではスピードアップは難しい。
ただ無電柱化の法律があり、台風のたびに大規模停電が起きているわけで、少なくとも電柱を増やさないことを出発点にすべきではないか。

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そのためにもまずはコストダウン。
東電は電線の配管について、つるはしを打ち込んでも壊れないという技術基準が現実的でないとして、スコップで壊れない素材に変えて3割のコスト削減を実現。こうした技術基準の緩和を全国的に広めることが考えられる。
また無電柱化は自治体ごとに行われ資材も別々に発注。国土交通省が計画をまとめ資材を一括で発注してコストダウンにつなげていくことも考えられる。

さらに電柱の抑制策も必要で、国土交通省は災害時に緊急車両が通る道路については電柱の新設禁止している。しかし今ある電柱の建て替えは認めている。これでは電柱はなかなか減らない。こうした道路では建て替えも無電柱化を原則とする方針を打ち出すなど、一歩踏み込んだ対策を検討する必要。

ただすぐに電柱並みのコストにするのは難しく、また木の事前伐採もコストがかかる。その分電気代に跳ね返る可能性もあるわけで国民の理解なしに進めることはできない。政府そして大手電力はこうした対策の費用対効果を丁寧に説明して理解を得たうえで、災害に強い電力インフラの実現を急がねば。

(水野 倫之 解説委員)

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