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「菅新政権発足 政治は変わるか」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

菅内閣が、16日、正式に発足しました。新政権の特徴と課題を踏まえ、今後の日本政治は変わっていくのかどうか考えます。

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菅総理大臣は、就任後の記者会見で、安倍政権の取り組みを継承し、前に進めていくことが自らの使命だとして、新型コロナウイルス対策と社会経済活動の両立を目指す考えを強調しました。
さっそく新内閣の顔ぶれをみます。

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政権の移行に伴う影響をできるだけ抑え、政策の継続性を重視したのがポイントです。20人の閣僚のうち、麻生副総理兼財務大臣をはじめ8人が再任、ポストを変えて閣僚を務めるのが加藤官房長官など3人とあわせて半数を超えます。
また、安倍政権で経験したポストに再びついたのが、田村厚生労働大臣など4人で、専門性と経験を活かす、手堅い布陣だといえます。

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次に政権の「守り」の要と「攻め」の中心となる2人の閣僚をみます。「守り」の要は、加藤官房長官でしょう。
菅総理は、歴代最長の官房長官の経験から、「総合力」を、この役職に必要な資質と指摘しています。加藤官房長官は、安倍内閣での官房副長官や党の総務会長も経験しています。また、厚生労働大臣として、政権の最大の課題である新型コロナウイルス対策に初期の段階から対応してきました。菅総理は、複数の候補者の中から、これまでの仕事ぶりも見て、その安定感を評価して起用したものと見られます。
一方、「攻め」の中心は、規制改革も担当する河野行政改革担当大臣ということになるでしょう。河野大臣は、このポストの経験者で、行政改革、規制改革には強い思い入れがあり、数々の改革案を打ち出してきました。防衛大臣として、新型迎撃ミサイルシステム「イージスアショア」の計画を断念した手法などをめぐって、批判もありましたが、菅総理としては、その決断力と実行力を評価したのではないかと思います。また、河野大臣のツイッターなどでの発信力にも期待したものと見られます。

閣僚の派閥ごとの割り振りをみます。

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最大派閥の細田派から5人、総裁選挙を争った岸田派、石破派も含め、7つの派閥すべてから、ほぼ、その勢力に応じて、起用した形になっています。
また、初入閣は5人。女性の活躍が政権の課題とされていますが、女性の閣僚は2人でした。

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一方、自民党役員では、二階幹事長が続投、新たに、佐藤総務会長、下村政務調査会長、山口選挙対策委員長が起用され、続投した森山国会対策委員長を含め、総裁選挙で、菅総理を支持した5つの派閥から起用しました。
菅総理は、派閥に所属していません。内閣と党役員の人事にあたって、各派閥に一定の配慮をすることで、総裁選挙で圧勝した党内基盤の安定を図る狙いもあったものと見られます。

こうした菅新政権に対して、野党側からは、「安倍亜流内閣」だとか、「顔ぶれに驚きはない」、「派閥に配慮した内向きの政権」だなどいう批判が出ています。
では、菅新政権のこれからの政権運営は、どうなっていくのでしょうか。
わたしは、安倍政権の継承を掲げる菅政権の独自色が見えてきたように思います。

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菅政権の性格は、「問題解決型」だといえます。
前の安倍政権と比べますと、安倍政権は「理念、目標先行型」といえると思います。
アベノミクスで物価上昇率2%など具体的な目標を示し、全世代型社会保障、一億総活躍などを打ち出し、戦後外交の総決算を掲げました。こうした理念や目標に基づいて、政策を肉付けしていく形です。

これに対して、菅政権が掲げるのは、「行政のタテ割り、既得権益、悪しき前例主義」の打破であり、デジタル庁の創設や、携帯電話料金の引き下げ、すでにあるダムの最大限の防災への活用など、きわめて具体的です。こうした政策は、自らが官房長官として主導してきた独自のものだという自負があり、その実現に責任があると考えているのだと思います。一つ一つ成果を積み上げていく、これは、足場を固めながら、一歩ずつ政治家としての階段を昇り詰めてきた菅総理の経歴とも重なり合うように思えます。
今後、内政、特に地方の活性化を重視する姿勢が、より鮮明になっていくでしょう。

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一方で、菅総理に対しては、外交・安全保障への手腕は未知数だという指摘もあります。
菅総理は、各国首脳との電話会談には同席し、外交方針の決定にも携わってきたと強調しています。アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮などへの個別のアプローチの仕方とともに、総理自身が言及している「自分型の外交姿勢」を、どう具体化していくかが問われることになります。
さらに、国のトップリーダーとして、国際情勢を踏まえた日本の進路、社会保障の将来像、それに憲法観などを、折に触れて、自らの言葉で語る必要もあるのではないでしょうか。

さて、歴代最長となった安倍政権が幕を閉じ、その継承を掲げる菅政権が発足。一方、野党側では150人が合流した、新たな立憲民主党が誕生しました。来年10月の衆議院議員の任期満了まで、1年余りのタイミングで、日本政治は、大きな岐路に立っています。

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それは、自民党を中心とした自公連立政権の枠組みの中で、総理大臣が交代していく「与党優位」が続くのか。それとも野党の勢力や支持が拡大し、「選挙で政権交代」、あるいは、その可能性が高まる政治状況に転換するのかです。

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与野党双方の課題を「安定」と「緊張感」をキーワードに考えます。
まず与党側です。自民党と公明党が初めて連立を組んでから20年余りになります。
両党が連立することで、支持の幅が広がり、いずれも強固な地方組織、支持団体が、それぞれの持ち味を生かした選挙協力で、安定した勢力を維持してきました。
ただ、政権が長期に及んだことによる、おごりやゆるみも指摘されています。
まずは、自民党が、菅総理が「国民から見て当たり前でないことは直す」というように、自らを戒めることができるのか。
また、公明党が、与党の政治姿勢を厳しくチェックし、主張すべきは主張していくことも政治の緊張感という意味では重要です。
一方、野党側は、どうでしょうか。

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なんといっても野党勢力が支持を拡大できるかどうかが、政治に緊張感をもたらせるかどうかを大きく左右します。そして、新しい立憲民主党が、結束できるかどうかは、政治の安定という点で重要です。立憲民主党にとっては、共産党や合流新党に参加しなかった議員で作る新しい国民民主党などとの選挙協力をどう進め、その先の具体的な政権構想をどの枠組みで打ち出していくかも焦点です。
枝野代表は、政権交代に関連して、「安心と安定」を大切にするとしています。政権の交代によって、変えるものだけでなく、変えないものを明確にすることが、国民の理解を得やすい環境を整えることになるでしょう。
さらに、日本維新の会は、与党に対して是々非々の立場を取っています。政策によって、政権に協力することは政治の安定につながります。しかし、選挙では、与党と競争する関係にあり、政権との距離が問われることになります。

政治の安定と緊張感は、必ずしも対立するものではなく、むしろ、ともに目指すべき課題です。新型コロナウイルスへの対応、雇用や生活の維持、地方の活性化などは、与野党が共通の土俵に立っている課題でもあります。与野党の政策のより具体的な違い、実現への道筋やスピードが問われる局面です。選挙が近づいていくだけに、国民が今後の政治の方向性を判断できるように、国会で、それぞれの主張を明確にした真正面からの論戦を期待したいと思います。

( 伊藤 雅之 解説委員)

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