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「自民党 菅新総裁選出 新政権の行方」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

安倍総理大臣の後任を決める自民党の総裁選挙が、14日行われ、菅官房長官を新総裁に選出しました。5つの派閥の支持を受けて圧勝した菅氏は、今後、人事を含む政権運営にどうあたるのでしょうか。新政権の行方を探ってみたいと思います。

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(投票結果)
自民党総裁選挙の結果をみてみたいと思います。
選挙は、「国会議員票」394票と、47の都道府県連に3票ずつ割り当てられた141票の「地方票」の、あわせて535票で争われました。

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菅官房長官が377票、岸田政務調査会長が89票、石破元幹事長が68票で、菅氏が圧勝しました。
菅氏は、国会議員票の7割、地方票の6割を獲得し、官房長官として長期政権を支えた経験と実績をもとに、安倍政権の継承を訴えた主張が、国会議員だけでなく都道府県連にも支持を広げた形です。
今回の総裁選は、総裁の任期が来年9月末まで1年間となっていることから、次の総裁選挙をにらんで、2位争いも注目が集まりました。

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一時は本命とみられていた岸田氏は、今回、安倍総理大臣から後継指名を得ることができず、ほかの派閥からの支援はありませんでした。ただ、国会議員票をみると、岸田派は47人ですから、30票以上、上積みして、全体で石破氏を上回りました。岸田氏は、すでに来年の総裁選挙への立候補に意欲を示しており、今後は、特に地方での支持の広がりが課題となります。

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石破氏は、国会議員への支持が広がらず、安倍総理大臣と争った前回の総裁選挙では、全国の党員の投票に基づく党員票で45%を獲得しましたが、今回は地方組織の代表による投票で獲得したのは30%でした。来年の総裁選挙への対応は、こうした結果をどう分析するかによりそうです。

(勝因 5派閥支持が流れつくる)

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菅氏は、派閥に属しておらず、「派閥の時代は終わった」と発言するなど、脱派閥をかかげています。総裁選直前に派閥を離脱するケースはあったものの、派閥に属していない候補者が自民党総裁に選出されたのは、初めてのこととみられます。
しかし、今回、菅氏勝利の流れを作ったのは、派閥の動きでした。党内7つの派閥のうち、5つが菅氏支持をいち早く打ち出し、帰趨が決まりました。
一連の動きは、派閥復権の兆しなのでしょうか。

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派閥は、かつて中選挙区制度のもとでの候補者の擁立や、政治資金集めで、大きな存在感を示してきましたが、小選挙区制度の導入や政治資金制度改革を経て、力は党本部に移りました。
こうした中、安倍内閣の閣僚人事などでは、骨格部分となる主要な人事を除き、派閥の意向が一部、反映されたとされ、派閥の存在感を示す数少ない場となっていました。主流派から外れ、人事で冷遇されれば、派閥の結束にも影響が出かねません。
今回も、派閥としては、なんとしても主流派から外れるわけにはいかず、優勢が伝えられる菅氏へと雪崩を打ち、結果としては、派閥の合従連衡で決まったとの印象を与えたというのが実情で、派閥が復権したというより、派閥が弱体化したがゆえに起きた皮肉な現象といえそうです。

(政権運営を行方は)

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菅氏の政権運営の行方を見るうえで、最も大きな要素は、総裁としての任期が1年後の9月末までに限られていること、そして、その翌月に衆議院の任期満了を迎えることです。
菅氏が、次の総裁選挙を見据えた「本格政権」を模索するとすれば、▼来年9月にあらためて総裁選挙を行い、再選を勝ち取った上で、その後、衆議院選挙に臨むか、▼それとも、その前に、衆議院の解散・総選挙に打って出るのかの2つの選択肢しかありません。
菅氏がどちらの戦略を描いているかは、16日行われる組閣の顔ぶれにも影響するものとみられます。

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菅氏は、党内の5つの派閥の支持がみずからを総裁に押し上げただけに、安定性を重視するならば、派閥の意向に配慮する必要がありますが、選挙を強く意識するならば、世論にアピールできる、思い切った人事も必要になります。

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これについて、菅氏は、記者会見で、「適材適所、改革意欲のある人はいろんな派閥に散らばっている」と述べる一方、「総理大臣が代わるわけだから、思い切って私の政策方向に合う人を登用していく」とも述べています。
組閣については、派閥への配慮と菅政権らしい独自色のバランスをどう取るかがが焦点で、特に内閣のスポークスマンであり、自らも務めてきた官房長官の人事が大きなポイントになりそうです。
一方、菅氏は、15日行う党役員人事について、派閥として菅氏の支持をいち早く打ち出した二階派の二階幹事長を続投させる意向を固めました。これは、政権の継続性と基盤の安定を図る狙いがあるものとみられます。

(今後の政治日程は)
では、衆議院解散の可能性を見るうえで、今後の政治日程はどうなっているのでしょうか。

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11月にはアメリカ大統領選挙が行われ、選出された大統領との間で、首脳間の信頼関係の構築に着手しなければなりません。
年明け1月には通常国会が召集され、3月末までに新年度予算の成立を図る必要があります。
さらに連立を組む公明党が重視する東京都議会議員選挙が6月か7月に行われます。
7月23日から9月5日までは、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、9月末(まつ)には、自民党総裁の任期が満了を迎えることから、年明け以降の日程はタイトであることがわかります。

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永田町では、こうした日程に加えて、安倍総理大臣が辞任を表明して以降、各種世論調査で、自民党の支持率が上がっていることなどから、年内に、菅氏が解散・総選挙に打って出るのではないかとの見方が出ています。今回の総裁選挙では「広く党員の声を聞くべきだ」という批判が寄せられました。その批判にこたえる形で、「総理大臣が新しくなるのだから、党員だけでなく、広く国民の声を聞く」という、解散の大義になりうるものです。

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ただ、菅氏は、記者会見で、感染収束が見通せない限り、解散は難しいとの認識を示したうえで、「せっかく総裁に就任したので、仕事をしたい。衆議院の残りの任期が1年しかないので。解散の時期はなかなか悩ましい」と述べています。
残り任期が迫る中で衆議院を解散できるタイミングは限られており、今後の政局は、菅氏がいつ解散に踏み切るかを軸に展開していくことになりそうです。

(まとめ)
今回、自民党は、継続性と安定性を重視して、菅氏を総裁に選びました。その一方で、政府には、菅氏が継承する安倍内閣が長期政権だったゆえのひずみがたまっているとの指摘もあります。
こうしたひずみに向き合いながら、コロナ禍に的確に対応し、さらに独自の政策を打ち出していけるのか。菅氏は、具体的な成果を限られた時間の中で出すことを求められることになります。

(梶原 崇幹 解説委員)

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