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「『保護』から『刑罰』へ 少年法改正の答申案 影響は」(時論公論)

山形 晶  解説委員

もし、子どもが罪を犯したら。
少年法という法律によって、大人の刑事裁判とは違う、立ち直りを重視した特別な手続きが行われます。
これには「甘い」といった批判がある一方で、再び罪を犯すのを防ぐために役立っているという見方もあります。
この少年法の改正に向けた答申案が、国の審議会の部会でまとまりました。
これをもとにした改正案が来年の国会に提出される見通しです。
その意味や影響について考えます。

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まず、今の制度について説明します。

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20歳以上の“大人”は、犯罪行為をしたら、警察や検察の捜査を受け、検察に起訴されれば公開の法廷で刑事裁判が開かれ、刑務所で服役することになります。
一方、20歳未満の“子ども”は、警察や検察の捜査を受けるのは同じですが、その後、家庭裁判所に送られます。
家庭裁判所では、心理学などの専門知識を持つ調査官が、本人の育ってきた環境なども含めて、犯罪行為に至った原因を調べます。
そして裁判官が非公開の審判を開き、立ち直りのためにはどのような処分がふさわしいのか、本人と話をしながら判断します。
処分の内容は、少年院に送ったり、社会生活に戻しつつ保護観察を受けさせたりするもので、立ち直りに向けた保護や教育を受けさせます。
ただ、16歳以上が殺人などの重大事件を起こした場合は、原則として家庭裁判所から検察へ送り返す「逆送」という手続きが行われ、大人と同じ刑事裁判が開かれます。

そもそも、なぜこのような制度ができたのでしょうか。
実は多くの国で同じような制度があります。

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歴史を振り返ると、かつては、子どもも大人と同じように罰せられていました。
しかし、産業革命の後、都市に人口が集中するようになると貧困問題が起きます。
非行や犯罪に走る子どもたちが急増し、社会として対処する必要に迫られました。
そこで、子どもは「可塑性」、つまり、内面が変わる余地が大きいことに着目して、国が、親のように本人と向き合って更生させ、社会を安定させようという流れができてきました。
日本でも大正時代に少年法ができ、戦後の混乱期を乗り越え、制度が定着していきました。

ただ、ここ20年ほどの間に繰り返し見直しが行われました。
きっかけは、社会に強い衝撃や不安を与えるような少年事件が相次いだことです。

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まず平成12年の改正で、刑事罪を科すことができる年齢が「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられました。
さらに、重大事件については原則として検察に「逆送」して刑事裁判を受けさせる制度が、この時から始まりました。
さらに平成20年の改正では、重大な事件で被害者が非公開の少年審判を傍聴できるようになり、平成26年の改正では、少年事件の刑を緩和する仕組みが一部見直されました。
このように、少年であっても罪に見合う厳罰が必要だという声が高まるにつれ、改正されていきました。
そして今回は、より抜本的な見直し、つまり少年法の対象を「20歳未満」から「18歳未満」に引き下げることが議論されました。
直接的なきっかけは、選挙権の年齢が20歳から18歳に引き下げられたことと、2年後に民法上の成人の年齢が18歳に引き下げられることでした。
ただ、背景には、やはり「少年法は甘い」という批判がありました。

これに対して、今の制度は十分に機能しているとして、改正は必要ないという反対の声も上がりました。
少年事件が年々減り続けていることに加え、再び罪を犯す「再犯」が大人より多いわけではないことから、厳罰化する必要はないという意見です。

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議論は、3年前、法制審議会で始まりましたが、対象年齢を引き下げるべきか、委員の間で意見が対立しました。
そして今月9日に答申案がまとまりましたが、引き下げについては判断が見送りになりました。
一方で、18歳と19歳については、これまでの基本的な枠組みは残しつつ、一部、違う扱いをすることになりました。

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注目したいのは、大人と同じ刑事裁判を受け、刑務所に送られることになる「逆送」の対象が広がることです。
これまで「逆送」の対象は、殺人や傷害致死といった、「故意に人を死なせた罪」でした。
今回の答申案では、懲役や禁錮1年以上の刑罰が定められている罪に広げました。
例えば、強盗や強制性交といった性犯罪などです。
その影響について過去のデータを当てはめて考えてみます。
18歳と19歳の少年審判は、年間6千件から7千件ほどです。
このうちの多くは窃盗や傷害といった事件で、答申案の「逆送」の対象からは外れました。
一方で、強盗や性犯罪など「逆送」の対象になるのは年間100件前後で、全体の数パーセント程度になるとみられます。
このため、多くのケースは、これまでどおり審判で処分が決まり、施設へ送ったり保護観察を受けさせたりすることになります。

では、「逆送」を拡大する影響は小さいのでしょうか。
数が少ないとはいえ、これまでと比較すれば件数は10倍以上に増える見込みです。
そして見逃せないのは、質的な変化です。
その影響について考えるため、私は、2つの現場を訪ねました。

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1つは少年院です。
家庭裁判所が社会の中で更生させるのが難しいと判断すると、少年院に送ります。
その特徴は、集団での寮生活です。
日中は学習や職業訓練を受けさせ、夕方以降は少年院の中の寮で生活させます。
そこには教官も泊まり込み、就寝時間まで指導にあたります。
寮生活では、それぞれ役割を分担し、後輩の指導を通じて人間的な成長や自覚を促します。
ここで得た教官との信頼関係や「自分は人の役に立てる」という自信が、社会に戻ってからの支えになるといいます。
施設を出てからも困ったことがあれば相談できるというのも少年院の特徴です。

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もう1つ、私が訪ねた現場は、少年刑務所です。
「逆送」によって刑事裁判で懲役刑などを言い渡されるとここで服役することになります。
日中、学習や職業訓練を受けさせたりする点は、少年院とそれほど変わりません。
違うのは、夕方以降は自由時間だという点です。
そして出所すれば自由の身で、刑務所が関与することはできません。

本人の立ち直りという意味では、それを目的としている少年院の方が、明らかに手厚い対応になっていると感じました。
しかし、こうした手厚さが被害者や遺族などにとっては「甘い」と映ってきた面もあります。
今後、少年法が改正されれば、刑務所に送られるケースが増え、大人として自分で罪と向き合うことが求められます。
果たして本人任せでいいのでしょうか。
出所後、再び罪を犯さないように自立させるため、私たち社会の方で受け皿づくりを進める努力がこれまで以上に必要になります。

今回の答申案は、私には、「厳罰化」というよりも、保護の対象から外す少年を増やすという形に見えます。
それが、長い目で見たときに少年事件の動向にどのように影響するのか。
今後の国会での審議では、さまざまな視点から議論を深めるべきではないでしょうか。

(山形 晶 解説委員)

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