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「新型コロナ 差別・偏見とどうたたかう?」(時論公論)

米原 達生  解説委員

新型コロナウイルスは、感染の拡大だけでなく、感染者などへの差別や偏見という点でも深刻さを増しています。対策に当たっている政府の分科会も、9月1日、ワーキンググループの初会合を開き、検討を始めました。差別や偏見はなぜ起きるのか、そして今起きている差別を私たちはどうたたかうかについて、考えます。

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解説のポイント
▽「差別・偏見の実態とその影響」
▽「なぜ起きる?そのメカニズム」
▽「コロナ差別をどう克服するか」

【差別・偏見の実態と影響】
差別の問題が最初に表面化したのは、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の医療関係者でした。診療に当たった医療関係者が、中傷されたり、子供を保育園に登園させないよう求められたりしました。

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診療にあたる人たちへの差別はその後も各地で問題になっていて、それ自体、あってはならないものです。加えて、「目の前の患者を救う」という使命感で仕事をしたことが、自分や家族が差別に合うという不当な結果になるのであれば、医療現場の崩壊につながりかねません。実際に看護師が退職したケースも報告されています。

感染者本人や、クラスターが起きた組織に向けられる差別も深刻です。

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患者個人の住所や職場が特定され、家を引っ越さなければならなくなったケースもあるといいます。クラスターが発生した高校のケースでは、生徒の顔が分かる写真がネット上に挙げられ「マスクもつけずにけしからん」という非難がエスカレートして、地域から排除するような言葉も次々に書き込まれました。
特徴的なのは、それがネット上のSNSで書き込まれること、そして、それをシェアしたり、さらに書き込んだりする同調者が現れることです。症状に苦しむ患者に、感染して迷惑をかけたという罪の意識をも抱かせる不当な誹謗中傷は容認できません。

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感染者への差別は感染対策にも深刻な影響をもたらします。保健所は感染者が確認されると、封じ込めのため、感染経路や濃厚接触者を調べますが、差別を恐れるあまり、誰と接触したのか口を閉ざす人が増えているといいます。差別が怖くて検査を受けたがらないケースも出ていると語る検査の担当者もいます。差別は感染拡大の温床になるのです。

このほか、クラスターが発生した業界、とりわけホストクラブも偏見の対象になりました。接待を伴う飲食店は、感染対策のガイドラインを守り、体調の相談や検査の拡充など、行政とも一緒になって対策を進めようとしています。しかし“夜の街”という偏見で分断されれば、折角の取り組みや対策も、止めてしまう店が増えるかもしれません。また、自粛要請に応じない店に嫌がらせをする「自粛警察」や、流行が拡大する地域から帰省した人への偏見、他の県のナンバーの車への攻撃など、差別や偏見の対象や内容は多岐にわたっています。

【なぜ起きる?差別のメカニズム】
感染症をめぐる差別はこれまでも繰り返されてきました。どのように起きるのでしょうか。
感染症によって差別が起きるメカニズムを日本赤十字社が「3つの顔」として解説しています。

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一つ目の顔は病気そのもの。2つ目の顔は病気に対する不安や恐れです。ウイルスという見えない敵でワクチンや薬もないことから、不安や恐れが増幅していきます。その見えないものへの不安や恐れが、感染者という見える形になって現れたときに、遠ざけ排除しようとし3つ目の顔の差別につながります。差別は受診をためらわせ、感染を拡大させる負のスパイラルに陥り、不安や差別も大きくなっていく、これが感染症の典型的な差別のパターンです。
しかし、これを監修した諏訪赤十字病院の森光玲雄さんは、今回起きた「自粛警察」や他県のナンバーの車への攻撃などの差別・偏見のもとは、不安だけではないと指摘します。
人に迷惑をかけてはいけないという日本特有の「社会規範」に加え、感染対策の徹底を求める「同調圧力」が、一種の正義感を生み出し、感染者に「対策が不十分だったもの」というレッテルを貼って攻撃する傾向が出ているというのです。

この同調圧力。一方では感染防止に一役買っているという意見もあります。しかし感染拡大を防ぎながら、社会を回していくことが求められる今、感染リスクをゼロにする、いわゆる“ゼロリスク”は、現実的ではありませんし、ウイルスの感染力や重症化リスクがわかってくるにつれて、過度に恐れる必要もなくなってきています。正確な知識に基づいて誤解や偏見を解消していくことも必要だと思います。

【コロナ差別を克服するには…】
国のワーキンググループは、実態についてヒヤリングを行い、感染者情報の公表基準などを検討する方針で、11月をめどに中間とりまとめを行う予定です。

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私はそれに加えて、どういった事象が「コロナ差別」なのか、一般の人にもわかるよう具体的に例示してほしいと思います。医療従事者の子供を受け入れない、あるいは、感染した職員に療養期間が終わっても休んでもらうといった差別は、すでに医学的に理由がたたないものの“念のため”として起きています。例えば、会社で誰かが「Aさんは療養も終わって調子もいいけど、念のためもう少し休んでもらったほうがいいよね」といっても、ほかの人が「それは必要ないし、差別になりませんか」と言えれば、未然に防げる差別はあると思うのです。差別の対象も内容も多岐にわたる中で、単に「差別はダメ」ではなく、事例をもとに市民が判断できるようにすることが、対策の第一歩になるのではないでしょうか。

そして、感染対策が必ずしも十分ではなくても、その人への非難や攻撃が正当化されないようにすることが大切です。差別が感染対策の敵であること、感染対策の徹底がゼロリスクを意味するものではないというメッセージを、これまで以上に強く出してほしいと思います。

私たちにもできることがあります。

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こちらはシトラスリボンという運動です。愛媛県の市民グループ「ちょびっと19+」(COVID-19よりプラスになるよう命名したそうです)が、感染しても「ただいま」「おかえり」を言いあえることを目指して作ったマークで、バッジを作ってつけたり、ひもでリボンを作ったりする運動が、学校や企業・自治体など全国の団体に広がりつつあります。この運動のように私たちにできることは、「ともに歩む姿勢を示すこと」です。感染した人には「早く良くなってほしい」と励まし、治った人には「おかえりなさい」と伝えることが、差別とたたかう方法の1つになると思います。加えて、ネットの差別的な発言や、不安をあおる発言に同調しないことも大切です。

いま、私たちは「感染し治癒した人が地域社会に戻ってくる」段階に本格的に入ってきています。感染対策を進める一方で、新型コロナウイルスによって地域社会が差別と分断で壊されないよう、ともに取り組んでいく必要があるのです。

(米原 達生 解説委員)

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