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「防災の日 コロナ禍 台風への備えは」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

きょうは防災の日です。今年は新型コロナウイルスの感染が収束しないなかで台風シーズンを迎え、いま台風9号が九州に近づいています。避難所での感染を防ぐため全国の自治体は避難先を増やし分散避難を呼びかけていますが、広域災害への対応は引き続き大きな課題となっています。

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そこで
▼分散避難の態勢は整ったのか
▼感染対策と被災地支援をどう両立させるのか
▼ウイルス感染と自然災害の複合という事態が日本の防災の弱い部分を浮きあがらせました。この経験を今後にどう活かしていくのかを考えます。

■分散避難の態勢は整ったか■
まず分散避難の準備はどこまで進んだのでしょうか。

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多くの市町村が小中学校など従来の避難所に加えてさまざまな公的施設や高校・大学などでも受け入れる準備をしています。民間企業の建物や駐車場に一時避難したり、旅館やホテルを避難所にする協定を結んだところも増えています。車での一時的な避難場所として高台の駐車場や空き地などを調べ公表している県もあります。

対応は一定程度進んできましたが、広域で大きな災害が起きたときの受け入れには限界があり、自治体は頭を悩ませています。

■足立区の取り組み■

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東京・足立区は大規模水害が起こると全域が浸水すると想定されています。
去年の台風19号では避難所がいっぱいになりました。
従来からの避難所は135ヶ所ほどで30万人の受け入れを見込んでいました。しかし感染防止のため避難者ひとりあたりのスペースを広くとると受け入れ人数は6万人に減ってしまいます。

区は従来からの避難所に加えてさまざまな公共施設や都営住宅の空き部屋、民間施設の駐車場で受け入れることができるようして、避難所を164ヶ所に増やす予定です。

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それでも大幅な不足が見込まれることから区民に3段階の対応を呼びかけています。
まず在宅避難。ハザードマップを調べて浸水しても命は助かる建物に住んでいる場合は十分な備蓄をしたうえで自宅にとどまります。
それが難しい場合は、早めに安全な親戚や知人の家などに避難します。
いずれも無理な場合は、ためらわずに避難所に避難をしてほしい、という呼びかけです。

足立区はそれでも多くの人が避難所に来た場合、すべて受け入れる方針です。まずは水害から命を守ることを優先する判断です。

■重要性増す地域と住民の取り組み■
災害に感染が重なる厳しい状況では、従来にも増して住民による主体的な取り組みが重要になります。

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おととい山梨県中央市で住民たちが感染対策を念頭に置いた避難訓練を行いました。
1400世帯が暮らすリバーサイド地区は釜無川が氾濫すると全域が浸水し、多くの家が壊れて流されると想定されています。

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市が指定する避難所も浸水することから、住民たちは独自に地区防災計画を作りました。
そして、まず各家庭で親戚・知人宅などを避難先として決めておくことしました。
こちらのお宅では夫婦で話し合ってホテルに避難することにしました。

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それができない人は地区の外の安全な場所にまとまって広域避難します。おとといの訓練では車を持たない高齢者などを住民が手助けしてバスに乗せ、隣の市にある県の施設に移動しました。避難所運営も自分たちで行うことにしていて、受付で健康状態をチェックしたり、段ボールベッドの組み立て方や消毒など感染対策の手順を確認していました。

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地域の取り組みに加え、もちろん個人の備えもとても重要です。長野県大町市ではマイタイムラインづくりに取り組んでいます。マイタイムラインは台風などが接近する日からさかのぼってどう行動するかを決めておくものです。大町市は感染対策のためマイタイムラインに親戚や知人の家などへの避難を組み入れるよう呼びかけています。
コロナ禍での災害ではひとりひとりの防災意識と住民たちが助け合う力、いわゆる地域の防災力が一層、問われることになります。

■感染対策と被災地支援をどう両立させるのか■
次に支援の問題です。感染下で災害が起きたとき、どの範囲から支援を受け入れるのか被災地が判断することになります。

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7月豪雨で被災した熊本県では医療チームや行政職員は感染対策を行ったうえで県域を超えて派遣、受け入れが行われました。

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一方、ボランティアについて県と市町村は県内からの受け入れに限定しました。

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ボランティア団体と社会福祉協議会、県などが参加する協議体が調整を行い、県内各地から被災地へのバスを運行したり、大学に呼びかけるなどしていますが、ボランティアの確保に苦労しています。
被災者からの支援要請の3分の1はまだ対応が終わっておらず生活再建を加速できずにいます。今後、大きな災害が起きたときにどう対応すべきなのか、熊本の経験から課題が見えてきました。

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▼まず都道府県内に災害支援のためにどのような人的・物的資源があるのかを把握することが重要です。NPOをはじめ企業や団体などをリストアップして連携する体制をつくっておく必要があります。

▼そして手薄な分野は県外からNPOや団体などの支援を受けられるよう条件を話し合うなど準備が求められます。熊本でも専門性を持ったNPOについてはPCR検査を受けてもらったうえで受け入れを始めています。「もっと早く受け入れたかった」と悔やむ関係者もいます。

▼さらに災害の規模が大きくなった場合、NPOなどだけでなく一般ボランティアの受け入れも視野に入れる必要があります。そのために国はPCRなど検査の態勢を整える必要があります。また国には土砂・がれきの撤去などをボランティア頼りにせず、自衛隊や民間業者が請け負う仕組みを一層整えることも求められます。

■“複合”の経験を今後にどう活かす■

7月豪雨では感染が重なったことで自然災害だけの場合より厳しい対応を強いられ、これまでも問題とされていた防災の弱点が一層際立つかたちになりました。この経験をどう活かしてくべきなのでしょうか。

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日本は災害が非常に多いにも関わらず避難所の環境整備が遅れていて、移動式のトイレ・シャワーや、日本では馴染みが薄いもののトレーラーハウスの利用など海外の先進例を取り入れるべきだと指摘されてきました。

日本災害医学会の石井美恵子理事は「国はアフターコロナの避難所として、海外の取り組みも参考にプライバシーが守られ、感染予防ができるような抜本的な環境改善を推し進める必要がある」と強調しています。

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また土木学会はコロナ禍を踏まえた防災と社会システムについて提言をまとめました。そこでは「過度に効率性を求めるビジネススタイルの脆弱性が露呈した」としたうえで、東京一極集中の是正と機能分散、電力・情報通信などのインフラ整備、地区防災計画など住民の防災力の向上など災害とパンデミックを乗り越えることができるよう政策を大きく転換するよう提言しています。

日本の防災は東日本大震災をきっかけに「想定外をなくす」防災に舵を切りました。今回、ウイルス感染と災害が重なる事態であらためてありようが問われています。浮かび上がった防災や社会システムの弱点を改善していく機会をとらえ、みなで臨んでいくことが求められていると思います。

(松本 浩司 解説委員)

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