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「なるか一極集中是正~アフターコロナ社会への課題」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長
清永 聡  解説委員
佐藤 庸介 解説委員

〇動き出した地方への人の流れ    

(今村)
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、大都市から地方に移住しようと考える人が増え、企業の間でも本社の機能を一部地方に移す動きが出始めています。
こうした動きが日本社会の長年の課題だった一極集中を変えることに繋がるのか、松山局の清永委員、札幌局の佐藤委員とともに考えます。 

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東京の人口は、安倍政権が地方創生を掲げて一極集中の是正に取り組んだにもかかわらず、一貫して増え続けてきましたが、今その流れに変化の兆しが出ています。
きょう発表された東京都の人口推計では、7月に東京から転出した人が、東京に転入した人を上回り、人口が前の月に比べて5900人余り減少しました。その要因の一つに地方から感染者が多い東京への転入を控える動きが広がる一方、東京から感染者が少ない地方に転出する人が増えたことがあるとみられます。東京有楽町にあるふるさと回帰支援センターでも地方への移住を希望して相談に訪れる人が増えています。香川県の移住セミナーに参加した男性は、「コロナの影響で勤めていた飲食店をやめざるおえなくなり、心機一転この機会に、地方で農業をやりたいと思う」と話していました。地方への関心は、特に若者の間で広がっています。内閣府の調査では、感染症の影響で東京23区に住む20代の人のうち35%が地方への移住に関心が高まったと答えています。

(佐藤)                         
北海道では感染拡大の影響で厳しい経済状況に陥っているものの、地域への人の流れについては、人口減少を乗り切るチャンスと受け止める自治体が増えています。
人口8000人あまりの北海道東川町では、感染拡大後の今年6月、移住への関心が高まると見て、移住体験者用の住居、8戸の入居者を新たに募集しました。
これに対し、30代から40代の子育て世代を中心に、募集を上回る11組から応募がありました。多くが首都圏からで「過密な環境に不安が生じた」という声が目立ったといいます。さらに町の見学ツアーも行い、見学者の中にはさっそく移住の検討に入っている人もいて、町の担当者自身も「反響の大きさに驚いている」と話しています。
北海道は1997年に人口のピークを迎えました。20年後の2040年にはピークに比べ、4分の1が減る見込みです。人口減少が全国に先駆けて進んでいることで、多くの自治体が移住者の呼び込みに期待をかけています。

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企業の間でも北海道に拠点を移す動きが出始めています。お茶や食品の販売を手がける「ルピシアグループ」は、今年7月、本社を東京から北海道のニセコ町に移転させました。すでにグループの社長などの役員が町内に常駐。人事や総務、経理などの主要機能を移し始め、社宅も次々に整備しています。会社では以前から自然や食べ物が豊かな地域の方が独創的な仕事ができるとして移転を検討していましたが、感染拡大が後押しした形になりました。当初は移住をためらう職員が多かったものの、東京でもテレワークが広がって、場所が仕事に与える制約が薄れる中、抵抗はなくなってきているということです。

〇コロナがもたらす地方の魅力

(清永)
四国でも、新型コロナウイルスの影響で、移住を希望する若い世代からの相談が増えています。ただ、四国では感染拡大の前から、個人の移住や事務所を置く企業が、増加していました。

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例えば愛媛県では、昨年度の移住者が1900人を超え、県が統計を取り始めてから最多です。補助金などに加えて、先輩の移住者が支援する制度など、行政と民間の取り組みが成果を上げているということです。
また、徳島県では企業のサテライトオフィスが7月末現在で実に68社。これは北海道全体と並んで昨年の時点で全国最多です。WEBデザインやクラウドサービスといったIT分野だけでなく、コンサルタントなど多様な企業が事務所を置いています。担当者に話を聞くと、感染拡大の中、「大都市から離れた場所にサテライトオフィスを置くことは、危機管理上も有利だ」という声もあり、この流れはコロナ後も続きそうだということです。
たまたまタイミングが重なった形ですが、7月、徳島県に消費者庁の「新未来創造戦略本部」が開設されました。一極集中是正に向けて、中央省庁の機能を地方に移転する取り組みです。職員は50人体制ですが、今後80人に増やす計画です。4年前試行的にオフィスが設けられたときは、消費者団体などから移転に反対の声もありました。しかし、今回は業務が研究や調査ということもあって、大きな反対の声は聞かれなかったということです。

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以前からテレワークもオンラインでの会議も行っていましたが、感染拡大で周囲の環境が一気に徳島に追いつきました。これが最大の変化です。例えばテレビ会議といえば、以前は東京に人が集まり、地方とモニターをつなぐというイメージでしたが、今では、全国別々の場所から、それぞれのパソコンで会議に参加でき海外とむすぶことも容易です。今回の事態で大都市や海外でもテレワークが進んだ結果、地方で仕事をする支障はかなり少なくなりました。休暇も取りやすくなり、同じ消費者庁でも有給休暇の取得率は東京よりも徳島の方が多く、年間の勤務時間は反対に少なくなっています。通勤時間が圧倒的に短いため、家族の都合に合わせて、半日休むといった休みの取り方も増えたといいます。今では、徳島での勤務を希望する人も出ているそうです。
徳島駐在のトップ、日下部英紀審議官は私の取材に「調査や研究で業績を上げつつ、働き方改革でも、新しいスタイルを定着させたい」と話していました。このように一部機能に限定すれば、中央省庁の地方への移転はもっと可能ではないでしょうか。

〇一極集中是正に繋げるためには

(今村)
来月中旬に誕生する新政権は、感染防止と経済の立て直しとともに、一極集中を是正して地域の活力を引き出し、人口減少が続く中でいかに持続可能な日本社会を築くのか、アフターコロナを見据えた大きなビジョンを描くことが求められます。

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「都市集中」が続くのか「地方分散」に転じることができるのか、AIを活用した未来予測では、分岐点は5年後から7年後に来る可能性が高いとみられています。都市集中型の社会は短期的に国の財政面での負担は軽くなるものの、地方は衰退し出生率低下を招き、格差も拡大。一方、地方分散型の社会は、出生率が上昇し格差は縮小し、健康寿命も延びると予測しています。調査を行った京都大学の広井教授は、「日本を持続可能な社会にするためには地方分散型が望ましい。ただ実現に向けては地域で十分な雇用の場を確保し、地域で経済が循環させるための政策を同時に進めることが欠かせない。」と指摘しています。
勿論、日本が永年抱えてきた一極集中は、一朝一夕に解決できる問題ではありません。
特にここ数年は地方から東京に転入する人の中で、男性より女性の割合が増えています。地域で女性が望むような雇用の機会をいかに創るかということも重要なポイントです。

(佐藤)
移住への関心が高まっても、実際に人を呼び込むことは簡単ではありません。地域づくりに詳しい北海道総合研究調査会の五十嵐智嘉子理事長は、豊かな自然や快適な居住環境などというのは、全国の町村部、どこでもアピールしているため、差別化は容易ではない。重要なのは移住を希望する人たちの「ニーズの把握」と施策の「継続性」だと強調しています。先ほど紹介した東川町は、移住者の誘致に積極的に取り組み、20年で1割、人口が増えました。小中学校に外国人教員を配置して英語教育に力を入れたり、住宅を新築する際に守るべき指針を設けて景観を守ったりするなど、ユニークな政策を行ってきたことが移住者を引きつけた理由です。このように、ニーズをつかみ、息長く取り組むことが欠かせません。

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もう1つ、北海道で起きている課題は、札幌への一極集中です。いまや4割近くが、北海道のうち、4%の面積しかない札幌市内に住み、そのほかの人口減少が加速しています。北海道全体にいかに人の流れを作り出すかを考えないと、地域の活力の維持はままなりません。地域の中での中核都市への一極集中は、東北や九州など全国的な課題でもあります。
課題解決のため、注目されているのが、「関係人口」です。移住となると思い切った決断が必要ですが、何らかの形で継続的に特定の地域と関わる人を増やすことで、将来的な移住につなげてもらう考え方で、政府も今年度からの地方創生の総合戦略の柱として掲げています。関係人口で注目を集めているのが、北海道の上士幌町です。かねてから町外の人が一定期間限定で住むことのできる「生活体験住宅」を整備し、毎年、50組以上を受け入れてきました。去年は首都圏の大企業で働く人たちが多数訪れ、町内の各地を視察。ねらいは、将来的に首都圏のサラリーマンに期間限定で町に住み、テレワークをしてもらうことにありました。これを「逆参勤交代」と銘打って、「仕組み」として浸透させようという動きも出始めています。企業が東京から地方に継続的に人材を送る「仕組み」ができれば、札幌だけでなく北海道の町村部にもこれまでにない人の流れができるかもしれません。

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(清永)
かつて、地域振興の大きな手段と言えば、大企業や工場を誘致して雇用を作るというものでした。しかし、今、企業の生産拠点は海外に移り、工場誘致で大規模雇用というやりかたは難しくなっています。
香川県の直島では、去年まで2年連続で地価が上昇する異例の現象が起きています。ここは「現代アートの島」として知られているのですが、今では空き家を利用してゲストハウスやカフェなどを開く若者が増えているということです。古い町並みに移住した若者が地域の魅力を発信するケースが、新たな地域振興の一つの形になっています。こうした動きを止めないよう、行政の支援が欠かせません。四国で多くの人に話を聞くと、地域の魅力を広く伝えることと、過疎が進む中で移り住もうという人の雇用と生活を守っていく。この2つがいわば車の両輪だということを感じます。注目を集めているIT分野に限らず、多様な人たちを呼び込むための知恵と取り組みが、一層求められます。

(今村)
過度な一極集中がもたらしてきた歪みが今浮き彫りになり、テレワークを活用し家庭での時間を大切にしたい、効率より、ゆとり、心の豊かさを求めたい、という人々の意識の変化は一段と鮮明になっています。一極集中の是正は首都直下地震の被害を最小限に抑えるためにも喫緊の課題です。働き方や若者の意識の変化を追い風に、掛け声だけでなく今度こそ一極集中の是正を進める、そこにアフターコロナの日本の未来を切り開く一つの鍵があるのではないでしょうか。

(今村 啓一 解説委員長 / 清永 聡 解説委員 / 佐藤 庸介 解説委員)

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