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新型コロナウイルス 『第1波』『第2波』の教訓をどう生かすか

中村 幸司  解説委員

「第1波」「第2波」の教訓とは、何なのでしょうか。
新型コロナウイルスについて、国内では、2つの大きな感染拡大を経験しています。2020年6月以降、現在も続く感染拡大について、政府は「第2波」という言葉の定義はないとしていますが、これを「第2波」と呼ぶ専門家もいます。これまでに国内で広がってきたウイルスを詳細に分析すると、対策の課題が、浮かび上がってきました。

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今回の解説では、
▽1月以降の国内の感染の状況と、その分析を見た上で、
▽いわゆる「第1波」「第2波」からどのような課題が見えてきたのか、
▽今後、大きな感染拡大をまねかないために、求められることを、考えます。

まず、これまでの感染状況を見てみます。

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最初の大きな感染拡大は、2020年4月をピークにしたもので、国は「緊急事態宣言」を発表しました。そして宣言解除後、6月から感染者は再び増え始め、今も続いています。
専門家らでつくる政府の分科会では、「7月末がピークのように見える」としています。「見える」と表現しているのは、本当にピークを過ぎたと言えるかどうか、お盆休みの影響が現れてくるまで状況を見ないと判断できないためとしています。

国内の感染は、どのよう拡大したのでしょうか。

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新型コロナウイルスは、ヒトからヒトに感染を繰り返す間、少しずつですが遺伝情報が変化します。
国立感染症研究所の病原体ゲノム解析研究センターが感染した人、3700人あまりのウイルスの遺伝情報を分析したところ、意外なことが分かってきました。

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日本の感染は、1月に中国・武漢からウイルスが入ってきたところから始まります。このウイルスが国内で、ヒトからヒトへ感染を繰り返しますが、徐々に変化するはずの遺伝情報が、3月中旬ころ、大きく変わっていました。
実は、武漢から国内に入ってきたウイルスは、3月中旬頃以降いなくなって、入れ替わるようにヨーロッパから入ってきたウイルスが広がりました。武漢からヨーロッパに伝わったウイルスが、日本に入ってきたのです。

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さらに、6月中旬を境に、遺伝情報に差があることが分かりました。詳しく調べると、ヨーロッパから入ってきたウイルスが、一部、水面下で感染を繰り返し、それが6月中旬に表面化したことが分かりました。
ここでも、感染が拡大するウイルスは、ほぼ入れ替わって、現在、国内でみつかるウイルスは、ほとんどがこのヨーロッパから来て、水面下で潜んでいたウイルスから広がったものであることも分かりました。
なぜ、ウイルスが混在せずに入れ替わるのか、詳しいことはわかっていません。

もう一度見てみます。

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武漢から日本に来た人によって持ち込まれたウイルスは、3月中旬ころに、ほぼ国内からいなくなりました。同じころ、入れ替わるようにヨーロッパから訪日してきた外国人や帰国してきた日本人などによって、ウイルスが持ち込まれ、これが第1波につながったと考えられています。
一部は、水面下、つまり軽症あるいは無症状のため、新型コロナウイルスの感染者と診断されないまま、若者などの間で、感染が繰り返されていたとみられています。
第1波が収まったころ、水面下のウイルスに感染した患者が東京で見つかり、つまり表面化して、これが全国に広がり、第2波になったと考えられています。

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3月は、ヨーロッパでは、イタリアやスペインなど各国で感染が広がっていた時期で、日本も入国拒否などの対策を始めていました。専門家からは、「今から振り返れば、入国の制限などの水際対策を早くから厳しくしていれば、第1波は、もっと抑えられたのではないか」といった声が聞かれます。
また、6月中旬から7月にかけて、東京で感染が広がり始めたころは、どうでしょうか。このころ、感染が確認される人が増えたことについて、国や東京都は、「PCR検査の対象を広げているため」といった認識を示していました。しかし、このウイルスが広がったことを考えると、感染者が増え始めた初期の段階で抑えることができれば、ここまで全国に広がらなかった可能性があります。

こうした分析から、対策のポイントが浮かび上がってきます。

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いわゆる「3密」の回避や、手洗い、換気など基本的な対策の重要性は変わりません。さらに言うと、ひとつは海外からウイルスを入れないようにすることです。政府は、いま多くの国からの外国人の入国を制限しています。今後、この制限の緩和は、慎重に検討することが必要です。また、入国を認める際には、PCR検査の実施や入国後、14日間待機してもらうなど、水際での対策を着実に行うことが求められます。
もう一つは、感染拡大を初期段階でとらえ、いかに抑えるかです。たとえば、感染が広がっている地域や業種などを限定して対策をとることが考えられます。ただ、諸外国と違って、日本は強制力のある措置がとれないため、実効性のある対策が難しいと言われています。これは、当初から指摘されていただけに、政府にはその具体化を急ぐことが求められていると思います。

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そして、先ほど示した図にあるウイルスの遺伝情報の分析を、さらに対策に活用することが必要だと思います。国内で感染が拡大したとき、ウイルスの遺伝情報を調べることで、
▽海外から入ってきたウイルスが広がっていることが分かれば、水際対策に重点を置くことが必要になります。
▽国内の特定の地域のウイルスが広がっていることが分かれば、その地域の人の移動を自粛してもらうなどの方法も考えられます。
現在は、感染者のまわりの濃厚接触者を調べるなどして感染経路を調べていますが、遺伝情報の分析も組み合わせることで、より感染の実態に即した有効な対策が取れるようになると考えます。
ただ、遺伝情報の分析には2~3週間程度かかるということで、対策が遅れてしまいます。地域と、分析を行う機関の連携など、分析態勢の強化が求められると思います。

そして、こうした対策の必要性は今後、一層高まってくると思います。

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上の図は感染状況の現状ですが、今後、感染者が減少するとしても、緊急事態宣言で「ステイホーム」を徹底した第1波のときのような減り方は期待できず、減少のスピードは緩やかになるという指摘もあります。それだけに、何かのきっかけで、再び感染者が増加しないか警戒する必要があります。

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私たちは、いまの状況を厳しく受け止め、感染者が少なくなるまで抑え込まなければなりません。
その理由の一つは、重症の患者の数です。いまも増え続けていて、8月26日は、全国で246人にのぼっています。重症、あるいは亡くなる人達の人数のピークは、感染者数のピークから2週間ほど遅れてくると言われています。感染者を減らせなければ、この増加傾向に歯止めをかけるのは難しくなります。
また、医療機関の負担も長期にわたっています。3月、4月は新しい感染症の治療に追われ、5月に、いったん元に戻りかけましたが、6月に入って再び感染者の増加に対応しました。医師や看護師などにとって、息をつく間もない状況が続いていることは大きな問題です。
第2波が収まったとしても、これまでの感染症の経験から、感染者の数は、再び増減を繰り返すと言われています。
第1波、第2波を教訓に、対策をより強化して次の感染拡大に備えることが大切です。
新型コロナウイルスの感染が、いつ収束するのか見えてこないだけに、これまでの経験を踏まえて、今後、どのような方針で感染対策を進めていくのか。
政府には、国民に具体的でわかりやすい説明をしていくことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)


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