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「コロナで変わる働き方 ~ジョブ型雇用とは?」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

「コロナで変わる働き方~ジョブ型雇用とは?」と題してお伝えします。
日本の大手企業が、このところ相次いで、
ジョブ型雇用と呼ばれる欧米流の雇用制度の導入に動いています。
背中を押しているのは、新型コロナウイルスの影響で
在宅勤務が急激に増えていることです。
しかし、ジョブ型は、
日本の従来の雇用慣行とは、いわば対極に位置するものです。
うまくいくんでしょうか?
そして、働く人のモチベーションアップにつながるのか?
肝心なのはこの点です。

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【 何が焦点か? 】
そこで、三つのキーワード。
▽曲がり角の日本型雇用
▽評価の透明性は?
▽雇用格差は是正されるか
この3点について考えていきます。

【 ジョブ型とメンバーシップ型 】
まず、日本と欧米では雇用システムが大きく異なります。
その特徴から、日本型の雇用を「メンバーシップ型」
欧米型を「ジョブ型」という呼び方があります。
最大の違いは、働く人の仕事が、限定されているかどうかです。

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たとえば、日本では、多くの場合、社員が何の仕事をするかは、
実は、決まっていません。
これを、仕事が無限定、といいます。
会社の都合によって配置転換や転勤を命じられ、
その都度、営業とか、企画とか、いろんな仕事をまかされます。
あくまで会社という共同体の一員であることが目的なので、
「メンバーシップ型」と呼ばれるわけです。

一方、欧米では、採用の時から、
どこで何の仕事をするのかが、契約で決まっています。
仕事が限定されているわけです。
なので、配置転換や転勤も、原則としてありません。
まず、先に仕事があって、後からヒトをはりつける、というイメージなので、
「ジョブ型」と呼ばれるわけです。

【 大手企業の導入 】
そのジョブ型を、日本の大手企業が相次いで導入しています。

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KDDIは、先月末(7月31日)正社員1万3000人を対象に、
来年4月以降、順次、ジョブ型雇用を導入していくと発表しました。
高橋誠社長は
「時間や場所にとらわれず、成果を出せる働き方を実現する」
とその狙いを強調しました。

また、富士通は、ジョブ型雇用を今年度、
課長級以上の約1万5千人を対象に導入し、
その後、一般社員にも広げていく計画です。

さらに、この他にも日立製作所、三菱ケミカル、資生堂、などといった、
日本の主要な企業が相次いで、ジョブ型の導入を表明しています。

【 広がるテレワーク 】
こうした動きの背景になっているのは、
新型コロナウイルスの影響で在宅勤務やテレワ-クが広がり、
従来の方法では対応しにくくなったことがあります。

なぜかというと、こういうことです。
さきほど、日本型のメンバーシップでは
仕事が明確に決まっていない、という説明をしました。
それは、職場での仕事の進め方にも反映されます。

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日本の職場では、通常、一人ひとりの仕事の内容や範囲が、
明確には区切られていません。
その時々の状況に応じて、上司の指示を受けながら、
職場全体で協力しあって業務を進める、というのが一般的です。
大部屋で、お互いに顔を見ながら仕事をする、というイメージです。
こうした集団的な働き方は、在宅勤務やテレワ-クには不向きです。

一方、ジョブ型は、もともと仕事の内容や範囲が、限定されていますので、
職場の机も、隣の人との間にはパーティション(間仕切り)がおかれて、
明確に線をひくのが普通です。
仕事と責任が個人単位で明確になっていれば、
在宅でもテレワークでも、仕事が進めやすくなるわけです。

【 曲がり角の日本型雇用 】
さらに、ここで、踏まえておく必要があるのは、
ジョブ型の導入には、実は、もっと大きな背景がある、ということです。
というのも、経済界では、
もう何年も前からこの議論がおこなわれていて、
今年の春闘では、経団連が、ジョブ型雇用の導入を主要テーマとして取り上げて、
大きなニュースにもなりました。

なぜ、ジョブ型の導入が必要なのか?
それは日本型雇用が曲がり角にきているためです。
特に、焦点があたっているのが、年功序列型賃金、年功賃金の問題です。

年功賃金は、大企業を中心とする日本型雇用の中核をなします。
会社は職業スキルも、経験もない学生を一括採用し、
配置転換や転勤や、残業を命じて様々な仕事をさせ、
長く勤めるほど有利になる年功賃金と退職金とで人材を囲い込みます。

一方、社員は、がんばっていれば
給料が上がっていくという期待感で会社に尽くし、
これが、戦後の高度経済成長の大きな原動力となったわけです。

しかし時代は変わりました。
一律に階段があがっていく年功賃金は右肩上がりの経済が前提です。

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今のような低成長の下では
たとえば、こちらにあるような賃金カーブの高い山を
維持することは難しくなっています。
さらに、そこに、人生100年、
企業は、希望する社員が70歳まで働けるよう支援することを
求められるようになりました。

今よりも長い間、賃金や報酬を払う必要があるため、
尚更、この賃金カーブの見直し、フラット化が課題となっているわけです。

で、そのためには、賃金を一律にあげていく年功賃金よりも、
仕事に応じて個別に賃金を決めていくジョブ型賃金の方が見直しがしやすい。
会社側は、そう考えているのではないか?と、みられているわけです。

【 ジョブ型の課題 】
では、それでうまくいくんでしょうか?
年功賃金でもジョブ型でも、要は、働く人のモチベーションが維持できるかどうかです。
そのために重要になるのが、人事評価です。
しかし、これが難しくなります。

年功賃金なら、年数に応じて基本給の階段をあげていけばいいわけですが、
ジョブ型はその人のジョブ、ポストに合わせて個別に評価をすることが必要です。
そして、その判断の根拠を説明できることが大切です。
つまり、日本型よりも、評価の透明性や説明責任が、もっと重要になってくるわけです。

こうした対応ができなければ、
社員の納得は得られず、仕事へのモチベーションは下がり、
会社にとってもマイナスとなるおそれがあります。

かつて、バブルの崩壊後、多くの企業が、成果主義の導入に走ったことがありますが、
結局、透明性や説明責任をめぐって、社員の納得を得ることが難しく
多くの企業が、計画を見直さざるを得ませんでした。
気を付けないとこの繰り返しになるおそれがあります。

【 雇用格差は是正されるか 】
そしてもう一つ、重要な視点があります。
実は、ここまでの話は基本的に正社員を対象にした話しです。
では、非正社員の立場からみると、どうなんでしょうか?
焦点となるのは雇用格差の問題です。

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今年春から法律で、同一労働・同一賃金の施行が始まりました。
これは、平たくいえば、正規だろうが非正規だろうが、
同じ仕事なら同じ賃金を払う。
違いがあるなら、その違いに応じて払うべきだ、というものです。

しかし、すでに説明しましたように、
多くの場合、正社員はメンバーシップ型で、仕事の内容や範囲は、無限定です。
一方、非正社員は、契約で仕事が限定されています。
無限定と限定では、待遇の格差があっても、
それが不合理かどうか、現場では比較がしにくい、
というのは、よく指摘される所です。

しかし、もし、正社員がジョブ型に移行して仕事が限定されるなら、
両方とも、限定、ということになって比較しやすくなる可能性があります。
そうすれば、格差是正が進むかもしれません。

つまり、この意味からも、ジョブ型雇用の導入では
透明性と説明責任がより重要になってくるわけです。

ジョブ型雇用の導入は何のためなのか?誰のためなのか?
そして働く人のモチベーションアップに本当につながるのか、
そこが問われているのだと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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