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「新型コロナウイルス 感染拡大のいま求められること」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

感染者を減少に転じさせるには、何が必要なのでしょうか。
緊急事態宣言解除の後、落ち着いたように見えた新型コロナウイルスの感染は、いま東京、大阪といった大都市だけでなく、全国各地で拡大しています。
このままでは、再び緊急事態宣言が必要になってしまうのではないか、といった不安の声も聞かれます。

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今回は、
▽全国の感染の現状を見た上で、
▽感染拡大を抑える対策と社会経済活動の両立の課題、
▽今後、どのようなことが求められるのか、
考えます。

まずは、全国の感染状況をみてみます。

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感染は、東京都だけでなく全国に広がっています。上の図の左は、都道府県の境を越える移動自粛が緩和される直前、6月18日までの10日間の都道府県別の感染者数を色分けしたものです。10日間の感染者が1人もいないという県が30ありました。しかし、2020年8月4日までの10日間で見ると、すべての都道府県で確認されました。都道府県の合計は1万人を超え、その感染者の数の様相は大きく違います。
感染の拡大が進む中、各自治体は、独自に対策を進めています。東京都は、8月3日から都内の酒を出すすべての飲食店と、酒の提供の有無にかかわらず、すべてのカラオケ店で営業時間を午後10時までに短縮するよう要請しています。他にも大阪では、繁華街「ミナミ」の一部で酒を提供する飲食店などに8月6日から8月20日まで、営業時間の短縮や休業要請が行われます。愛知、沖縄などでも要請が行われています。他にも、県境をまたぐ不要不急の移動の自粛など、各地で自粛要請が行われています。

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全国の日付ごとに確認された感染者数が、上の図です。緊急事態宣言を解除して、社会経済活動を動かし始めた後、6月中ごろから増加傾向が続いています。
これは、私たちに「社会経済活動」と「感染を抑える対策」の両立の難しさを突きつけています。

では、その両立のどこに難しさや課題があるのでしょうか。

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感染対策と社会経済活動のバランスをシーソーで考えます。感染対策の強化が過ぎると、左が下がり、右が上がって、経済が動かず、倒産や失業につながります。経済活動に重点を置きすぎると、医療崩壊につながる危険があります。

緊急事態宣言の頃、このバランスはどうだったのでしょうか。

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感染対策としては、いわゆる「3密の回避」などが行われ、保健所などによるPCR検査や、病院では患者を受け入れるベッドの確保を進めました。加えて、症状の軽い患者などはホテルや自宅での療養としました。
ただ、こうした対策が追いつかず、医療崩壊が心配される事態になりました。

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このため、店の営業自粛、学校の休校、テレワーク、不要不急の外出自粛など、経済活動を抑えて、感染対策を優先させました。

緊急事態宣言が解除された後は、どうか。

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PCR検査の態勢や病院の受け入れ態勢などを強化した一方、経済活動を段階的に再開させました。

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6月に入って、カラオケや接待を伴う飲食店の営業自粛の緩和、全国で都道府県の境を越える移動の自粛を緩和したほか、プロスポーツやコンサートなどの入場規制の緩和などが進められました。
しかし、感染を抑えられていない中で、経済活動を重ねれば、ますます感染者の増加を招いてしまう恐れがあるのではないでしょうか。都道府県の境を越える移動を緩和した6月19日のころ、すでに「東京都内の感染が各地に広がらないか」という不安の声が聞かれました。

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さらに、7月22日には、GoToトラベルが実施されました。東京都は対象外になったとはいえ、地方でも感染者が増え始めていたときだけに、不安はますます大きくなったと思います。

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こうしている間、PCR検査を行ったり、濃厚接触者の調査を行ったりする保健所、それに万全な感染対策をしながら治療にあたる医療機関の負担は大きくなり、当初のような余裕はなくなってきていることも忘れてはなりません。
GoToトラベルは、人の移動を活発化させ、観光業の経済効果が期待されますが、感染拡大のリスクも伴います。

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たとえば、対象を県内の旅行に限るなど、リスクの小さい方法から始め、状況を見ながら段階的に対象を広げるような方策の検討が必要だと思います。
これは、今後予定されている飲食店に予約した際、ポイント還元する「GoToイート」も同じだと思います。
不安が解消されなければ利用者は増えず、結局、経済効果は限定的になってしまいます。
さらに、GoToトラベルは、感染対策・医療体制に思わぬ影響がでています。軽症の人の療養のため、ホテルの確保が進められていますが、GoToトラベルで、観光客の利用が見込まれるとして、療養のためのホテルを見つけるのが難しいケースがあるということです。
政府は、今後そうしたことのないよう、療養のホテルを探している自治体を支援すると話していますが、感染者の増加がなかなか止まらない、いま、GoToトラベルも含め、社会経済活動をどう進めるのか、一度、立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。

こうした、社会経済活動の対策とともに、もう一方の感染対策の強化も必要だという声が上がっています。

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専門家らでつくる政府の分科会は、7月31日に感染対策の今後の考え方を示しました。
そこでは、感染状況を感染がほとんどない段階から、爆発的な感染までの4つの段階にわけています。

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次の段階に進む悪化の「予兆」をつかんで、必要な対策をすることで、悪化を食い止めるというものです。
対策としては、感染漸増段階からの悪化を防ぐため、対策が十分でない酒を出す飲食店の休業要請やイベントの開催方法の見直しなどを求めるとしています。感染急増段階からの悪化を防ぐためには、外出自粛、都道府県境を越えた移動の自粛、イベントの開催自粛などを求めるといったものです。
7月31日の時点で、分科会の尾身茂会長は、感染者が多い東京都や大阪府などは、2段階目の「感染漸増段階」にあるとしています。
ただ、ここで示されている対策は、すでに東京や大阪、愛知など各地の自治体が実施しています。
こうしたことから知事などの間からは、今後はこれまでより強い強制力を持った対策が必要だとして、法律の改正を求める声が上がっています。

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強制力を持った対策については、国民の権利を奪うおそれがあるとして、慎重な検討を求める意見がある他、対策を行った業者への補償をどうするかという問題もあります。
西村経済再生担当大臣は、法律の改正について、「感染の収束後に検討を本格化させたい」としています。ただ、新型コロナウイルスの感染は、いつ収束するかわからない状況です。大きな感染の波に対応できるよう、スピード感をもって改正の議論を進めていくことが重要になってきていると思います。
現状では、医療現場の負担が増えないようにしながら経済活動を動かすために、感染対策と社会経済活動のバランスを慎重に保っていくことが必要です。

今は、Go Toトラベルキャンペーンが実施されている一方で、いくつかの自治体では、県境を越える移動の自粛を要請するなど、経済対策が空回りしているような状態です。
感染対策と社会経済活動をどのような考え方で両立させるのか、政府はそのことを示し、国民が抱えている不安を少しでも解消していくことが、感染拡大にある今、大切なことだと思います。

(中村 幸司 解説委員)

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