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「米中対立激化 『体制の争い』へ?」(時論公論)

加藤 青延  専門解説委員
神子田 章博  解説委員

(神子田)
アメリカと中国の覇権争いはあらたな局面を迎えたのか。トランプ政権は、中国との対立を民主主義と全体主義の体制の争いととらえ、民主主義国家による包囲網を築く方針を新たに打ち出しました。背景には何があるのか、中国はどう対応するのか。この問題について中国担当の加藤専門解説委員とともに考えていきます。

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対中外交の転換を打ち出したポンペイオ国務長官の演説。それは48年前に中国を電撃的に訪問したニクソン大統領の生誕の地で行われました。

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演説のポイントです。アメリカは中国の発展に関与することで、中国の社会を民主化できると考えてきたが、その関与は期待した変化をもたらさず、事実上の失敗に終わったとして、関与政策の方針転換が必要だという認識を示しました。そのうえで習近平国家主席個人の名をあげて、「破綻した全体主義の信奉者」だと決めつけました。米中の対立を民主主義と全体主義の体制の争いと規定し、中国に対抗するために民主主義国家による新たな同盟を構築すべきだと訴えたのです。

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トランプ政権がここまで強硬な姿勢を打ち出した背景には、コロナの感染の広がりでアメリカ国内で15万人を超える犠牲者を出すなど、共和・民主の党派を超えて中国への反感が強まるなかで、秋の大統領選挙を前に厳しい姿勢を示す必要があったこと。さらに、習主席が、▼サイバー攻撃でアメリカの企業秘密を盗まない、▼南シナ海を軍事拠点化しない、▼香港の「一国二制度」を維持するといった約束事を、次々と破り続けているとして、不信感が頂点に達したことがあるものとみられます。演説には、中国共産党と中国国民の間に線を引いたうえで、すべての元凶は中国共産党にあるとする認識がにじみ出ており、米中対立の焦点が経済から統治体制へ移ったようにも見えます。 

加藤さん、アメリカの新たな攻勢に中国はどう反応しているんでしょうか?

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(加藤)
強く反発しています。何より名指しされた習近平国家主席は、国内で開いた座談会の席で、「いかなる国や人物も、中華民族が偉大な復興を実現する歴史的な歩みを阻むことはできない」と強調し、どんな妨害を受けても中国共産党の事実上独裁体制を守り抜く決意を表明しました。
実は、中国の対外姿勢がより強引なものになったと感じられたのは今年3月半ば以降のことです。例えば、東シナ海では日本の尖閣諸島の周辺で中国の警備船が日本の漁船を追い回したり、100日以上連続して接続水域に現れたりしています。台湾海峡でも軍用機による威嚇的な行動が目立つようになるなど、一線を越える行動が目立つようになってきました。

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では、中国が強行になった3月半ばに何があったかというと、それは中国で発生した新型コロナウイルスの中国国内の患者数の累計よりも、中国以外の国々の累計患者数が大きく上回りだした時期と重なるのです。

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世界の国々が自国のウイルス対策に追われる中、その隙をつく形で勢力拡張をめざそうとするものだという見方も出ています。ただ、私は、それ以上に、新型コロナウイルスが世界中へと拡散し、患者や死者の数が中国の何倍、何十倍にもなる国が次々と出る中で、中国に対する責任追及の声が世界に大きく広がることをけん制し、その責任をまぬかれようとする意図も働いているのではないかと思います。

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(神子田)
トランプ政権は、経済分野でも中国を切り離す措置を相次いで打ち出しています。
通信機器大手のファーウェイを、国内の通信ネットワークや政府調達から排除したり、ファーウェイが必要とする部品の調達を難しくする措置に加え、今月13日からは、ファーウェイを含む中国のハイテク企業5社の製品を使用する企業は、アメリカ政府との取引ができないようにします。さらに中国企業が提供する動画共有アプリTIKTOKの国内での利用を禁止する措置もとるとしています。中国製の電子機器やソフトウェアを使うことで、情報やデータが中国に盗み取られ、安全保障上の脅威になるためだと主張しています。
トランプ政権は中国がこれまでアメリカの企業秘密を盗み取ることでハイテク企業を急速に成長させたとみており、中国側がこうした行動を改めなければ、ヒューストンに続いてシリコンバレーをカバーするサンフランシスコの中国の総領事館を閉鎖することもありうるという観測もでています。

加藤さん、こうしたアメリカの攻勢に、中国はどう対抗しようとしているのでしょうか?

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(加藤)
実はインターネットの世界でも、中国が宣伝網を急速に増殖させてきたことが、最近になって次第に見えてきたのです。発端はやはり3月でした。中国外務省の趙立堅報道官が、ツイッターに「コロナウイルスはアメリカ軍が中国に持ち込んだのかもしれない」と書き込み、アメリカを激怒させたことはまだ記憶に新しいと思います。
当初は、彼単独の暴走のようにも思えたのですが、その後、あのころから中国政府関係のツイッターのアカウントや、それをリツイートして拡散するフォロワーのアカウントが急激に増えだしたのです。アメリカ政府の発表では、中国外務省などに関るアカウントのフォロワーが4月までのひと月の間に22倍に増え、趙立堅報道官のフォロワー数もおよそ4000も増えたといいます。アカウントの数はその後も膨れ上がり膨大な数になりました。そうしたアカウントでは、中国政府にとって都合の良い情報や、根拠があいまいで世論をかく乱するような情報も大量に発信されたといわれています。最後には、ツイッター社が、6月、中国政府にかかわる17万以上のアカウントを停止する事態にまで発展しています。

(神子田)こうした中国の動きに各国で警戒が広がる中、アメリカに歩調を合わせる動きが相次いでいます。

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オーストラリアが、次世代の通信規格5Gの事業でファーウェイを排除する方針を打ちしていたのに続いて、先月には、一度は部分的な使用を認めるとしていたイギリスも2027年までにすべて排除する方針に転換しました。

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さらにインドも、安全保障上の理由で政府調達から中国製品を事実上排除すると伝えられている他、日本もファーウェイを政府調達などから事実上排除する動きを強めており、中国包囲網が徐々に進んでいるかに見えます。
ただトランプ政権は、同盟国との関係や国際的な枠組みを軽視してきたと批判を浴びており、今回のアメリカの呼びかけに対して、思うような賛同が得られるか疑問だという声もあります。

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(加藤)
中国は欧米諸国との間で今まさにワクチン開発の熾烈な競争を展開しています。なぜ、中国がワクチンづくりに躍起になるのか。

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それは、いち早くワクチンを開発して大量生産し、それを武器に、世界の多くの国々、特に途上国を相手に新たなワクチン外交を展開し、中国への支持を取り付けようともくろんでいるように見えます。アメリカをはじめとする欧米諸国は自国で使うワクチンを確保することを最優先課題としていますから、その隙をついて、そのほかの世界にばらまくことで、アメリカによる中国包囲網を突き崩そうとしているように思えます。米中の対立は今後ますます鮮明化するのではないかというのが私の見立てです。

(神子田)
米中の対立が新たな段階を迎えるなかで、日本はどう対応したらよいのでしょうか。かつての米ソ冷戦時代とは異なり、中国と各国の経済が深く結びつくなかで、米中どちらにつくかという二者択一の考え方は、そもそも成立しないとも言われます。加えて今回のアメリカの対中攻勢は、大統領選挙を意識した一時的なものではないかという見方も残る中、日本としては、アメリカか中国という単純な図式に陥いることなく、まずはアメリカの真意を慎重に見極めていく必要があるようです。

(加藤 青延 専門解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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